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実力S級の俺、配信切り忘れで「虚無顔でボスを瞬殺する姿」が全国放送されてた件。今さら「ただの荷物持ち」とは言えない 〜定時で帰りたいので、追放してくれてありがとう〜  作者: U3
第3章:S級昇格・ライバル対決編

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第42話 防衛戦:ひまわり荘の戦い

 木曜日の朝。

 東京の上空を、白銀の流星が駆ける。

 巨大化したフェンリル――ポチの背に乗り、俺たちは眼下の惨状を見下ろしていた。


「……酷いわね」


 伊藤みのりが、風切り音に負けない声で呟いた。

 彼女の視線の先、東京大迷宮の入り口周辺は、すでに黒い津波に飲み込まれようとしていた。

 魔物だ。

 オーク、ゴブリン、リザードマン。数え切れないほどの魔物の群れが、ダンジョンから溢れ出し、市街地へと雪崩れ込んでいる。


「正規の防衛ライン、突破されてます! 予想以上の数です!」


 高橋すずが悲鳴のような声を上げる。

 協会が展開した戦車部隊や魔導障壁が、数の暴力によって次々と粉砕されていく。


「師匠! どこに降りる!? 最前線に突っ込む?」


 山本ゆき子が、やる気満々で拳を鳴らす。


 だが、俺の視線は別の場所に向いていた。

 魔物の群れの一部が、本流から外れ、住宅街の方角へと流れている。

 その先にあるのは――。


「……あいつら、俺の家に向かってないか?」


 俺の呟きに、全員がハッとした。

 魔物は高濃度の魔力に引き寄せられる習性がある。

 現在、練馬区で最も魔力が集中している場所。

 それは、茜と純子によって要塞化され、さらにポチの魔力が染み付いた、あのアパートだ。


「おいポチ! 進路変更だ! 家を守るぞ!」

「ワフッ!(了解!)」


 ポチが空中で急旋回する。

 俺たちの戦場は、世界の命運を賭けた最前線ではない。

 俺たちの帰る場所、『ひまわり荘』だ。


 アパートの上空に到着した時、そこはすでに包囲されていた。

 数百匹の魔物が、ひまわり荘を取り囲み、壁や結界を攻撃している。


「着地するぞ! 蹴散らせ!」


 ズドオオオオォォォッ!!


 ポチが隕石のように着地した。

 その衝撃波だけで、周囲に群がっていたゴブリンたちが吹き飛ぶ。

 俺たちは背中から飛び降り、即座に戦闘態勢に入った。


「私が前線を支えるわ! 『アイアン・ウォール』!」


 S級ポーター、山田しずかがコンテナを地面に叩きつけ、物理的な防壁を作る。迫りくるオークの棍棒を、素手で受け止め、投げ飛ばす。


「雑魚が群れるな。……消えろ」


 S級剣士、ジーク・ヴァイスが抜刀する。

 紫電一閃。

 雷の斬撃が円状に広がり、数十匹の魔物が一瞬で炭化した。


 だが、敵の数が多すぎる。

 倒しても倒しても、次から次へと湧いてくる。


「キリがありませんわね。……悠作様、家のローンは残っていますのよ? 壊されたら困りますわ」


 加藤茜が扇子を開いた。

 彼女が懐から取り出したのは、四色の宝玉。それをアパートの四隅に向かって投げる。


「『四方封陣』展開!」


 宝玉が光の柱となり、アパート全体を透明なドームで覆い尽くした。

 魔物たちの爪や牙が弾かれる。

 鉄壁の防御だ。だが、維持には莫大な魔力を消費する。


「純子! 遠距離の大型を狙え! 結界に衝撃を与えるな!」

「了解です♡ 害虫駆除の時間ですね」


 山口純子はすでに屋上の給水タンクの上に陣取っていた。

 愛銃『ブラック・ウィドウ』が火を吹く。

 遥か後方から魔法を放とうとしていたオーク・メイジの頭が、スイカのように弾け飛ぶ。

 百発百中。神技の狙撃だ。


「アタシも行くっしょ! ライブ開始!」


 ゆき子が飛び出した。

 彼女は魔導士ではない。だが、そのダンスには魔力を操る力がある。

 彼女が取り出したのは、茜の店で仕入れた大量の『魔力石』。


「ダンシング・ボマー! アゲてけー!」


 ゆき子はブレイクダンスのウィンドミルのような回転で、魔力石を四方八方に蹴り飛ばした。

 石は魔物の群れの中心で赤く輝き――。


 ドガァァァァァン!!


 連鎖爆発。

 炎の華が咲き乱れる。

 物理的なダンスとアイテムによる広範囲攻撃。これぞB級ダンサーの戦い方だ。


 全員が必死に戦っている。

 だが、アパートへの波状攻撃は止まらない。

 このままでは、いずれ結界が破られる。


『旦那! このままじゃ家がペチャンコでヤンス!』


 背中の五右衛門が悲鳴を上げる。


「くそっ……どうする」

『オイラに任せるでヤンス! 一か八か、アパートごと収納するでヤンス!』

「はあ!? 建物をか!?」


 五右衛門が俺の背中から離れ、巨大な風呂敷となって空に広がった。

 アパート全体を包み込もうとする。

 物理法則を無視した、超次元の引越し。


 グググググ……!


 アパートが地響きを立てて浮き上がる。

 いけるか?


『ぐ、ぐぬぬ……! 無理でヤンス! 昨日のリフォームで重量が増えすぎてるでヤンス! 腰が! オイラの布の腰が折れるでヤンス!』


 五右衛門が悲鳴を上げて縮んだ。

 アパートがズシンと元の位置に戻る。

 失敗だ。要塞化の代償がここで出るとは。


「役立たず! ……仕方ない、俺たちが守り切るしかない!」


 俺はナイフを構え、ポチと共に前線へ躍り出た。

 終わりの見えない防衛戦。

 疲労が溜まってくる。

 腹が、減ってくる。


「……タイムだ」


 戦闘開始から一時間。

 俺は唐突に叫んだ。


「は?」


 背中合わせで戦っていたみのりが、魔物を蹴り飛ばしながら振り返る。


「あんた何言ってんの!?」


「腹が減っては戦はできん。……補給の時間だ」


 俺は五右衛門の口を無理やり開かせた。

 戦場のど真ん中。結界の内側とはいえ、いつ破られるかわからない状況。

 だが、だからこそ「日常」を取り戻す必要がある。


「今日は『フィッシュ・アンド・チップス』だ」


 俺は叫び、携帯用の魔導コンロと中華鍋を取り出した。

 油を注ぐ。火力最大。


「ちょっと! 今!? ここで!?」

「うるさい! 揚げ物はスピード勝負だ!」


 俺が取り出したのは、昨日深層へ行く途中で狩った『ホワイト・コッド』の切り身だ。

 身が厚く、ホクホクとした白身魚。

 これに塩胡椒を振り、薄力粉をまぶす。


 衣が重要だ。

 ボウルに小麦粉とベーキングパウダー。

 そこに注ぐのは、水ではない。

 キンキンに冷えた『黒ビール』だ。


 シュワワワ……。

 炭酸の泡が小麦粉を含み、黒褐色の衣ができる。

 ビールの炭酸とアルコールが、揚げた時に衣を一気に膨らませ、サックサクの食感を生むのだ。


 魚を衣にくぐらせ、高温の油へ投入。


 ジュワァァァァァァッ!!


 戦場の喧騒を切り裂く、小気味よい揚げ音。

 香ばしい麦の香りと、魚の揚がる匂いが広がる。

 魔物たちの腐臭を、食欲をそそる香りが上書きしていく。


 同時に、ジャガイモも皮付きのままくし切りにして、二度揚げにする。

 外はカリッ、中はホクッ。


「揚がったぞ! 熱いうちに食え!」


 俺は揚げたてのフィッシュとポテトを、油紙の上に放り投げた。

 黄金色の塊。

 たっぷりのモルトビネガーを振りかけ、タルタルソースを添える。


「飲み物はこれだ!」


 俺が用意したのは、冷たいビールではない。

 まだ肌寒い春の朝。戦いで冷えた体を温めるためのドリンク。


 『エッグノッグ』だ。


 牛乳、生クリーム、卵黄、砂糖を温め、ラム酒を加えたホットカクテル。

 仕上げにナツメグを振る。

 甘く、濃厚で、スパイシーな香りが湯気となって立ち上る。


「「「いただきます!!」」」


 戦闘の合間を縫って、仲間たちが交代で食らいつく。


 しずかが、熱々の白身魚にかじりついた。


 サクッ!!


 軽快な音。

 ビールの衣が砕け、中から熱々の蒸気と共に、淡白だが旨味の強いタラの身が顔を出す。


「……っ! 熱い! でも、美味しい!」


 しずかがハフハフと息を吐く。


「衣が……信じられないくらい軽いわ。サクサクの食感と、ビネガーの酸味が、油っこさを完全に消している。これなら戦闘中でも胃もたれしないわ!」


 ジークもポテトを放り込む。


「芋の甘みが濃い! 塩加減が絶妙だ! ……これぞ、戦場の糧!」


 そして、エッグノッグを一口。

 とろりとした甘い液体が、喉を通り、胃袋を内側から温めていく。

 ラム酒の香りが鼻に抜け、緊張で強張った神経を解きほぐす。


「ふぅ……。生き返るわ」


 みのりが目元を緩める。


「甘い……。優しい味ね。こんな場所で飲むものじゃない気もするけど、だからこそ沁みるわ」


 ゆき子も、片手でダンス攻撃を繰り出しながら、器用にフィッシュを食べている。


「ウマっ! マジ元気出る! カロリー爆弾最高!」


 ポチも巨大な口で、バケツ一杯のフィッシュ・アンド・チップスを一飲みにし、「ガウッ!(力が出た!)」と咆哮した。

 その全身から溢れる魔力が、一段と強くなる。


「食ったら働け! 定時までに片付けるぞ!」


 俺もエッグノッグを一気に飲み干し、ナイフを構え直した。

 胃袋が満たされ、体が温まった。

 もう、恐怖も疲れもない。


 俺たちの「食事」を邪魔する奴は、誰であろうと許さない。

 その殺気が、アパートを守る最強の結界となって敵を押し返す。


 ひまわり荘防衛戦。

 揚げたてのフライの香りが漂う奇妙な戦場で、俺たちの反撃が始まった。


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