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実力S級の俺、配信切り忘れで「虚無顔でボスを瞬殺する姿」が全国放送されてた件。今さら「ただの荷物持ち」とは言えない 〜定時で帰りたいので、追放してくれてありがとう〜  作者: U3
第3章:S級昇格・ライバル対決編

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第37話 ポチ、覚醒の予兆

 東京大迷宮、地下70階層。未踏破エリア『氷結地獄』。

 視界を埋め尽くすのは、見渡す限りの白銀と、天を覆うオーロラのカーテンだ。

 吐く息すら瞬時に凍りつくマイナス30度の極寒の世界。


 そんな過酷な環境の中で、俺たちは熱気に包まれていた。


「……ふぅ。よし、これで最後の一塊だ」


 俺、鈴木悠作は、額に滲んだ汗を拭いながら、愛用の解体ナイフを振って血糊を払った。

 目の前に横たわっているのは、かつて『エンシェント・マンモス』と呼ばれた山の如き巨獣――今はきれいに解体され、極上の食肉へと姿を変えている。


「師匠! これ、どこに置きますか!」


 元気な声と共に、巨大なマンモスの牙を軽々と抱えたジークがやってくる。

 その後ろでは、S級ポーターの山田しずかが、マンモスの大腿骨を片手で引きずりながら、涼しい顔で歩いてきた。


「悠作、五右衛門の空き容量はまだあるの? この骨、いい出汁が出そうよ」

「ああ、任せろ。……しずか、お前よくその雪道でそんな重いもん持てるな」

「足場が悪いのなら、体幹で補正すればいいだけよ。……ふんっ」


 しずかは軽やかに骨を放り投げた。

 五右衛門が『へへっ、ナイスパスでヤンス!』と飲み込む。

 さすがは「鋼鉄の女王」。雪山でもフィジカル最強だ。


「いい仕事だった。……みんなも、お疲れさん」


 俺は振り返り、仲間たちに声をかけた。

 周辺警戒を解いたすずとゆき子、寒さに震えながらデータ収集を終えた瞳、そしてカイロまみれのみのりと、素材の皮算用をしている茜。

 総勢8名。

 全員、疲労の色は見えつつも、達成感に満ちた顔をしている。


 さあ、これにてミッションコンプリートだ。

 さっさと地上へ戻って、温かい風呂に入り、この極上肉で祝杯をあげよう。

 そう思って、俺が一歩を踏み出した時だった。


「……クゥーン……」


 足元から、弱々しい鳴き声が聞こえた。

 聞き慣れた、甘えるような声。だが、どこか苦しげな響きを含んでいる。


「ん? どうした、ポチ」


 俺は視線を落とした。

 そこには、俺の相棒であり、家族でもあるフェンリルの幼体――ポチがうずくまっていた。

 いつもなら「肉をよこせ」と飛びついてくるはずの白い毛玉が、雪の上で小さく震えている。


「おい、どうした! どっか怪我したのか!?」


 俺は慌てて駆け寄り、膝をついた。

 ポチの体に触れようと手を伸ばす。

 その瞬間、俺は指先を引っ込めた。


「熱ッ!?」


 熱い。異常な高熱だ。

 ポチの体毛から、パチパチと青白い火花のようなものが漏れ出している。

 それは静電気などではない。濃密に圧縮された、純粋な魔力の奔流だった。


「悠作! どうしたの!?」


 異変に気づいたみのりが、血相を変えて駆け寄ってくる。

 しずかもコンテナを下ろし、心配そうに覗き込む。


「……異常な発熱ね。筋肉が痙攣しているわ」

「ポチちゃん、大丈夫……?」


 しずかが手を伸ばそうとすると、ポチは苦しい中でも「ウゥーッ!(おばさん触んな!)」と威嚇した。

 こんな時でも相性は最悪らしい。しずかがショックで固まる。


「瘴気酔いですわ」


 冷静な、しかし深刻な声を出したのは、茜だった。

 彼女は紫色の扇子でポチの周りの空気を仰ぎながら、鋭い目で周囲を見回した。


「ここは深層70階層。地上とは魔力濃度が桁違いですの。特にこのエリアは、太古の強力な魔素が淀んでいる場所……。まだ幼体のポチちゃんには、刺激が強すぎたのかもしれませんわね」

「マジ!? ポチ死んじゃうの!? 嫌だよそんなの!」


 ゆき子が悲鳴を上げ、目元を潤ませる。

 俺は奥歯を噛み締めた。

 俺の判断ミスだ。食材に目が眩んで、まだ幼いポチをこんな危険な場所まで連れてきてしまった。


「……くそッ。帰るぞ。すぐに地上へ戻って、協会の獣医に見せるんだ」


 俺はポチを抱き上げようとした。

 熱くても構わない。五右衛門に入れて運ぶわけにはいかない。俺が背負って走るしかない。


 だが、俺の手がポチの体に触れる直前。


 ドクンッ!!


 心臓の鼓動のような重低音が、周囲の空気を震わせた。

 氷の大地が共鳴し、ビリビリと振動する。


「……なっ?」


 カッ!! と目が眩むような閃光が、ポチの全身を包み込んだ。

 青白い光の柱が天に昇る。

 その光の中で、ポチの小さなシルエットが、見る見るうちに膨れ上がっていくのが見えた。


 ソフトボール大だったサイズが、バスケットボールになり、バランスボールになり……さらに巨大化していく。

 骨が軋む音。筋肉が膨張する音。

 それは成長という生易しいものではなく、生物としての殻を破る「進化」の音だった。


「うわわっ! でっかくなってる!? 止まらないよ!?」

「離れてください! エネルギー密度が臨界点を超えています! 爆発します!」


 瞳が警告を発する。

 俺たちは魔力の風圧に押され、思わず後ずさった。


 オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォンッ!!


 腹の底に響くような、しかしどこか神々しい遠吠えが轟いた。

 衝撃波が弾け、舞い上がった氷煙が一瞬にして吹き飛ぶ。


 光が収束し、静寂が戻る。

 そこに立っていたのは――。


「……嘘だろ」


 俺は呆然と呟いた。

 そこにいたのは、体長3メートル、体高2メートルはあろうかという、圧倒的な威容を誇る白銀の巨狼だった。


 鋼のように隆起した筋肉。

 雪よりも白く、光り輝く剛毛。

 そして、额に浮かび上がった蒼い紋様。


 もはや「ポチ」と呼べるような愛玩動物ではない。

 北欧神話に語られる、神さえも喰らう魔狼、『フェンリル』そのものだった。


「グルルルゥ……」


 巨狼が低い唸り声を上げ、金色の瞳で俺を見下ろす。

 デカい。見上げると首が痛くなるほどのサイズ感だ。

 その口元からは、鋭利なナイフのような牙が覗いている。


 俺はゴクリと唾を飲んだ。

 記憶障害か? それとも野生への回帰か?

 もしこいつが俺のことを忘れて、本能のままに襲いかかってきたら――俺たち全員、ここで全滅だ。


「……ポチ、なのか?」


 俺は恐る恐る、震える声で名前を呼んだ。

 張り詰めた緊張感。ジークが剣の柄に手をかける音が聞こえる。

 岩陰からは、純子のライフルの安全装置が外れる金属音が微かに響いた。


 すると。

 巨狼の耳がピクリと動いた。

 金色の瞳が、スッと細められる。


 次の瞬間。


「ワフッ!(パパだ!)」


 ドサァァァァッ!!


 巨狼が、全力で、しかも何の躊躇もなく、俺にじゃれついてきた。

 その重量、推定300キロ超。

 軽自動車が突っ込んでくるようなものだ。


「ぐええっ!?」


 俺は雪原に背中から叩きつけられた。

 肺の中の空気が強制的に排出される。

 その上に、巨大な質量がのしかかる。


「ワフン! ワフン!(抱っこ! 撫でろ! 肉くれ!)」


 ザリザリザリッ!

 巨大なヤスリのような舌が、俺の顔面を容赦なく舐め回す。痛い。皮が剥ける。


「お、重い! 潰れる! やめろバカ犬! お前デカくなってるんだぞ!」

「クゥ〜ン……(えー、いいじゃん)」


 俺の悲鳴を聞いても、ポチは悪びれる様子もなく、さらにスリスリと頭を押し付けてくる。

 中身が変わっていない。

 見た目は神話級の魔獣、頭脳は甘えん坊の仔犬のままだ。


「……あーあ」


 それを見ていたみのりが、深い絶望を含んだ声で呟き、ガックリと膝をついた。


「終わったわ……。私の癒やしが……」

「……はい?」

「あのコロコロした天使が……掌サイズのマシュマロボディが……こんな厳つい猛獣になるなんて……詐欺よ……」


 みのりが雪に手をついて嘆いている。

 どうやら彼女にとって、ポチの「小ささ」こそが正義だったらしい。


「ショックです……。可愛くないです……。これじゃぬいぐるみみたいに抱っこして寝れません……」

「モフモフ感はあるけどさぁ……これじゃ『ポチ』ってより『ボス』じゃん。可愛げがないっしょー」


 すずもゆき子も、あからさまにテンションが下がっている。

 女性陣からの評価は暴落だ。

 しずかも腕を組み、複雑な表情をしている。


「……強そうにはなったけれど、愛嬌は減ったわね。これじゃあ、さらに撫でさせてくれなさそう……」


 唯一、ジークだけが「素晴らしい……! これぞ王者の風格!」と感動してスケッチを取っているが、こいつは放っておこう。


 俺はどうにかこうにか、ポチの下敷き状態から這い出した。

 全身が唾液まみれだ。

 ポチはお座りをして、期待に満ちた目で尻尾をブンブン振っている。その風圧だけで雪が巻き上がる。


「……まあ、元気ならそれでいいか」


 俺はため息をつきつつ、ポチの背中をポンと叩いた。

 硬い筋肉の上に、分厚い毛皮が覆っている。


 ……ん?


 俺は気づいた。

 この背中。広大で、平らで、しかも温かい。


「……おいポチ。お前、人を乗せられるか?」

「ワフ?(余裕だぞ?)」


 俺の意図を察したのか、ポチはその場で伏せをして、背中を差し出した。

 まるで「どうぞお乗りください」と言わんばかりの体勢だ。


「……最高じゃないか」


 俺はニヤリと笑った。

 徒歩での帰還は面倒だと思っていたところだ。この寒さと雪道、歩くだけで体力を消耗する。

 だが、この「生きたオフロード車」があれば話は別だ。


「全員乗れ! 移動手段の確保だ! これで定時に間に合う!」


 数分後。

 氷の世界を、一陣の白い風が疾走していた。


 巨大化したポチだ。

 その背中には、俺たち全員が乗っていた。

 しずかの巨大な鋼鉄コンテナすらも、ポチの背中に括り付けられているが、ポチは重さを微塵も感じさせない速度で駆け抜けていく。


「速い! しかも揺れない!」

「あったか〜い! 生き返る〜!」


 先ほどまで「可愛くない」と文句を言っていたゆき子が、今はポチの首元の毛に顔を埋めて歓喜の声を上げている。

 フェンリルの毛皮は保温性が抜群で、さらにポチ自身が発する熱のおかげで、氷点下の世界とは思えないほど快適だ。

 まるで「走る床暖房」であり「最高級のソファー」だ。


「視点が高くて気持ちいいですね。これなら索敵も容易です」

「ふふ、遊園地のアトラクションみたいです!」


 瞳もすずも、風除けの結界の中で景色を楽しんでいる。

 しずかは、自分のコンテナの横に座り、ポチの筋肉の動きを観察していた。


「……すごいわ。300キロのコンテナを背負ってこの速度。しかも、背中の振動を最小限に抑える体幹コントロール……。勉強になるわね」


 みのりも「……まあ、これはこれでアリかもね。タクシー代浮くし」と、満更でもなさそうだ。


 ちなみに、純子はどうしているかというと。

 ポチのふさふさした尻尾の付け根――一番死角になりやすく、かつ暖かい特等席に、隠密スキルを使ってこっそり埋もれていた。

 俺にはバレバレだが、ポチが許容しているようなので黙っておこう。


 ポチは障害物を軽々と飛び越え、断崖絶壁もものともせず駆け上がる。

 俺たちが苦労して進んできた道のりが、あっという間に過ぎ去っていく。


 しばらく進み、50階層に近い安全地帯の洞窟に入ったところで、俺はポチを止めた。


「少し休憩だ。……マンモスの解体と、今の騒ぎで腹が減った」


 俺の言葉に、ポチが「待ってました!」とばかりに急停止する。

 俺たちは背中から降りた。純子もいつの間にか物陰に移動している。


 時刻は昼を少し回ったところ。

 こってりしたバターポップコーンを食べ、脂たっぷりのマンモスを見た後だ。

 さらに、ポチの放つ熱気にも当てられている。

 今、俺たちの胃袋が求めているのは、脂っこい肉料理ではない。

 強烈な「リフレッシュ」と「刺激」だ。


「よし、サッパリしたもんを作るぞ」


 俺は五右衛門から調理器具を取り出した。

 今回使うのは、木製の大きなすり鉢とすりこぎ。

 そして、五右衛門の保冷庫から取り出したのは、緑色の大きな果実。


 『青パパイヤ』だ。


 完熟する前の、硬くて青いパパイヤ。これを千切りにする。


「『ソムタム』だ」


 タイ東北部の郷土料理。


 「酸味」「辛味」「甘味」「塩味」が複雑に絡み合う、刺激的なサラダだ。


「見てろよ。目が覚めるようなやつを作ってやる」


 まずはすり鉢に、皮を剥いたニンニクと、生の唐辛子を数本放り込む。

 ダンジョン産の唐辛子は辛味が強いので、加減が必要だが……今日はあえて多めにする。


 トントン、グシャッ。


 すりこぎで叩き潰す。

 ニンニクの強烈な香りと、唐辛子の青臭い刺激臭が立ち上る。

 そこに、インゲン、ミニトマト、そしてライムを皮ごとぶつ切りにして放り込む。


 さらに叩く。

 トマトが潰れて赤い汁が出、ライムの皮から爽やかな精油が飛び散る。


 味の決め手は調味料だ。

 ナンプラー、パームシュガー、そしてタマリンドペースト。

 魚の発酵臭と、濃厚なキャラメルのような甘み、そして梅干しに似た強い酸味。

 これらが混ざり合い、東南アジアの熱気を感じさせる独特の香りを生み出す。


 最後に、たっぷりの千切り青パパイヤと、香ばしいローストピーナッツ、干しエビを投入する。


 ボコン、ボコン、ザクッ!


 混ぜるのではない。「叩く」のだ。

 リズミカルに叩くことで、硬いパパイヤの繊維を壊し、味を中まで染み込ませる。

 洞窟内に、小気味よい音が響き渡る。


「……すげぇ匂いだ。唾液が出てくる」


 唐辛子のカプサイシンが空気中に広がり、全員が鼻を鳴らす。

 皿に山盛りにし、付け合わせの生キャベツを添えて完成だ。


「飲み物はこれだ」


 俺は別の鍋を用意した。

 乾燥した『龍眼』の果肉、羅漢果、そして冬瓜糖を水に入れて煮出す。

 コトコトと煮込むうちに、水が漆黒に染まっていく。


 氷をたっぷりと入れたグラスに注ぐ。


 『エア・マタ・クチン』。


 マレー語で「猫の涙」という意味を持つ、龍眼水だ。

 龍眼の果肉が、まるで猫の目のように見えることからそう呼ばれる。

 熱を冷まし、滋養強壮に効く万能ドリンクだ。


「「「いただきます!!」」」


 全員が待ちきれない様子でソムタムに箸を伸ばす。

 ゆき子が一口、口に放り込んだ。


 シャキシャキッ!


 瑞々しい音が響く。


「……んんっ!! 辛っ!! ……でも、美味っ!!」


 ゆき子が叫び、目を見開く。

 強烈なライムの酸味が口の中を洗い流し、直後に唐辛子の爆発的な辛さが舌を刺す。

 だが、噛めば噛むほど、パームシュガーのコクのある甘みと、ナンプラーの濃厚な旨味が溢れ出し、辛さを包み込んでいく。


「何これ!? 止まんないんだけど! 辛いのに甘い! 酸っぱいのに美味い!」

「この歯ごたえ……クセになりますね。干しエビの香ばしさとピーナッツのカリカリ感が、いいアクセントです」


 すずも額に汗を浮かべながら、箸を動かすスピードが上がっている。

 しずかも、豪快にキャベツにタレをつけて齧っている。


「……効くわね。唐辛子のカプサイシンで代謝が上がってるのがわかるわ。青パパイヤの酵素は、タンパク質の分解を助けるから、さっき食べた肉の消化にも最適よ。……さすが悠作、計算されたメニューね」


 しずかはプロテインの観点から絶賛している。

 みのりは無言で、辛さに耐えながらもバリバリと食べている。


「あー……サッパリするわね。マンモスの脂っこい気配も、ポチの熱気も、全部吹き飛ぶわ。デトックスって感じ」


 口の中がヒリヒリと燃えてきたところで、黒いドリンク『エア・マタ・クチン』を飲む。


「……はぁぁ……」


 しみじみとした吐息が漏れる。

 優しい甘さ。

 砂糖の暴力的な甘さではない。羅漢果と冬瓜糖の、喉の奥に染み渡るような深みのある甘みが、燃えるような口内を優しく鎮火してくれる。

 煮込まれてトロトロになった龍眼の果肉を噛むと、独特のスモーキーな風味が鼻に抜ける。


「完璧なペアリングだ。刺激と癒やし。……これぞダンジョン飯だな」


 俺は満足して頷いた。

 ふと、物陰に気配を感じる。

 俺は誰にも気づかれないように、小皿に取り分けたソムタムとドリンクを、そっと岩陰に置いた。


 ……すぐに気配が消え、咀嚼音と「んふふ♡」という小さな声が聞こえた。純子も満足したようだ。


 そして、足元では。

 巨大化したポチが、洗面器のようなサイズのボウルに入った特製ソムタムを、掃除機のような吸引力で平らげていた。


「ワフッ! ワフン!(美味い! もっと!)」


 ポチが尻尾を振ると、その風圧で空の皿が吹き飛びそうになる。

 ガツガツと食べる豪快な音。

 デカくなっても、食い意地と、美味いものを食べた時の幸せそうな顔だけは変わらないようだ。


「……ま、デカくなってもポチはポチか」


 俺は苦笑し、ポチの巨大な頭を撫でた。

 ゴワゴワとした剛毛だが、その下の体温は変わらず温かい。

 ポチは嬉しそうに目を細め、俺の手のひらに鼻先を押し付けてきた。


「移動も楽になったし、番犬としても頼もしい。……ただし、アパートの部屋に入れるかどうかだけが問題だな」

「あ……」


 全員の動きが止まった。

 そういえば、今のひまわり荘は要塞化されているとはいえ、サイズは人間のままだ。

 3メートルの巨狼が入るスペースなどない。


「……ま、それは帰ってから考えよう」


 俺は考えるのを放棄し、残りのエア・マタ・クチンを飲み干した。

 今はただ、この心地よい満腹感と、仲間たちとの騒がしい時間を楽しむことにした。


 こうして、俺たちは新たな移動手段と、大量の肉を手に入れ、地上への帰路についた。

 アパートに帰ったら、今度こそゆっくり休めるはずだ。


 ……そう、この時はまだ思っていた。


 ポチの巨大化が、単なる成長ではなく、ダンジョン全体の異変とリンクしていることなど、知る由もなかったのだ。


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