第二章 青の候補天体
宇宙は音を持たない。
だが《アラヤ》の内部には、微かな振動が絶えずあった。循環する空気、冷却材、眠れぬ人の寝返り。生きているという事実を、音が支える。
「候補天体、第三十七番」
《オルド》が告げる。
「海洋比率、九十八・六パーセント。陸地は点在。大気組成、基準内。生命反応――微弱だが検出」
艦橋の空気が変わった。
“生命反応”という二語が、長い漂流の末に灯った炎みたいに見えたからだ。
「微弱、なのに検出できる理由は?」
リクが問う。
「集中している。海中深部。パターンは人工物の可能性」
《オルド》は淡々と答えた。
ミラが小さく呟く。
「無人が理想だったのに」
リクは命令した。
「着陸ではなく、浮上式プラットフォーム。偵察艇を出す。海中反応の中心へ。ただし距離を保て」
偵察班長、霧島ハヤトが短く返事をした。
「了解。見たまんまを持って帰ります」
霧島は現場の男だ。口数は少ない。冗談を言うときは、たいてい怖いときだ。だが嘘の報告だけはしない――それが彼の矜持だった。
《シギ》が切り離され、黒い海へ滑り落ちていく。
リクは観測窓の青を見つめた。
汚れの膜がない。光が沈む。青は、ただ青だった。




