第一章 出航許可
航宙艦の艦橋には、無駄がなかった。無駄を削ったのではない。無駄を積む余裕がなかった。
「候補天体探索、第三航路へ移行」
船内AIの無機質な声が、艦橋に落ちる。
副長ミラ・ユズリハは、タブレットを抱え、簡潔に報告した。
「居住可能域の確率は低い。だが、燃料と資材を考えればここが限界点」
リクは頷いた。判断は感情で揺れてはいけない。だが、感情を捨てた判断は必ずどこかで歪む。
「生きるために行く。奪うためではない。その前提は全員の頭に焼き付けろ」
艦橋の後方で、誰かが小さく息を吐いた。
その音は、祈りに似ていた。
ミラはリクにだけ聞こえる声で言った。
「艦長代行。私、地球の古い記録を調べたの」
「今は後でいい」
「でも、今言いたい。地球史には“空白”がある。意図的に削られた痕跡がある」
リクは答えなかった。否定できない。地球で、都合の悪いものが消されたのは、何度も見てきた。
その夜、リクは私物の小箱を開ける。祖父の遺品――錆びた金属片。波紋の刻印。意味は分からない。だが祖父は言った。
「これは海の記憶だ」
海の記憶。
陸しか知らない自分に、なぜそれが渡されたのか。
答えは、まだない。




