詩集 仮面の市場 4
Ⅶ
僕はふと
市場の隅の鏡を見る。
鏡といっても
硝子の反射じゃない。
人の目の反射だ。
皆、僕の顔を見ている。
いや、僕の顔ではない、
僕の仮面の出来ばえを見ている。
綺麗に磨いたか、
流行に合っているか、
傷が「物語」になっているか。
(物語!)
物語なら
僕の肋骨の下にある。
夜更の、
酒の匂いのする、
どうしようもない
寂しさの塊がある。
だがそれは
棚に乗せると途端に
乾いて軽くなる。
軽くなるのが怖い。
怖いから僕は
肋骨の内側へ押し戻す。
押し戻すと
硝子がまた光って
「反応が薄い」という。
Ⅷ
ああ、けれど、
出口は確かに
すぐそこにあるのだ。
掌を開けばいい。
硝子を置けばいい。
たったそれだけ――
それだけなのに、
僕の指は
硝子の縁を撫でている。
撫でている指が、
いつの間にか
僕の首筋にまで伸びて、
そこを軽く
確かめるように
触るのだ。
鎖は見えない。
鎖は柔らかい。
柔らかいからこそ
いつの間にか
巻かれている。
僕は立つ。
立って、
市場の出口へ一歩――
その時、
帳場の奥で
算盤が鳴った。
ちり、ちり、と。
いや、算盤じゃない、
通知の音だ。
「今、君の話題が上がっている」
と、
誰かが囁いたように思えた。
さて僕は、
出て行くのか、
それとも――
一度だけ振り向いて
この市場へ
「ほんとうの声」を投げつけてやるのか……




