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詩集 仮面の市場 2
Ⅲ
あるものは 善を売り、
あるものは 憤りを売り、
あるものは 哀悼を売る。
(売るつもりがなくても
売場に置けば 売れてしまう)
そうして
泣いた人の横に
解説が立つ。
倒れた人の横に
実況が立つ。
――立つ、立つ、立つ、
看板ばかりが いやにおとなびている。
僕は思う。
ほんとうの人間は
いつ 出て来るのだろう。
出て来ない。
出て来ない代りに
切り抜かれた言葉が
踊っている。
踊っているが
胴体は 何処にもない。
Ⅳ
ああ、しかし、
僕も ここへ来てしまった。
来てしまって
笑うふりをした。
笑うふりをすれば
硝子が やさしく光った。
やさしい光――
だが それは
夜更の雨のように
だらだら だらだら しつこい程に
胸の上へ降る。
僕は 胸の上の雨粒を
指で拭う。
拭っても 拭っても
また 降る。
さて、
この市場の出口は
何処にある?
出口に立っているのは
僕の影か、
それとも――
あの見えぬ帳場の
冷たい手か……




