詩集 通知の雨 3
Ⅲ
ねえ、君、
君はあの頃 酒場で笑っていたね。
笑っていたが、元気ではなかった。
今の僕もそうだ。
通知が鳴っている間は
「元気」の仮面が はりついている。
鳴り止むと、
仮面は ぽとりと落ちる。
落ちた仮面の内側に
何があるかといえば、
別段 立派な顔など無い。
ただ
寝不足の皮膚と
言いそびれた言葉と
いくつかの
黙っていたい時間があるだけだ。
ところが奴等は
黙っていたい時間をも
「空白」と名づけて怖がる。
空白は怖いのか。
空白は 広告が入りにくいからか。
空白が怖いから、
奴等はつねに
何かを貼る。
貼る貼る貼る。
意見を貼る、
正義を貼る、
哀悼を貼る、
そして最後に
自分の名札を貼る。
僕はその貼紙を
濡れた指で剥がしてみたい。
剥がしてみたいが、
剥がすと指まで
一緒に剥がれてしまいそうだ。
――ああ、もういい。
僕は窓を開ける。
ほんものの雨が 入って来る。
冷たい。
冷たいが、
この冷たさには
「おすすめ」がついていない。
硝子の雨を止めるには
手許の硝子を
伏せればいいだけの話だ。
いいだけの話なのだが、
伏せた途端に
僕は僕の手の重さを思い出す。
さて、
この重さを抱えたまま、
僕は誰に――
ほんとうの声で――
何を、呼ばう……




