番外編:灰の空に散るものたち
これは…IFルート…
もしもの世界…
例えば強敵がアイよりも強い奴なら?
そんなもしもの世界線…
さぁ、進めよう…
物語の時を…
重たい灰色の雲が空を覆っていた。
西暦5025年、都市の廃墟に立つ二人の姉妹。妹アイの胸元は血で濡れており、その体は今にも崩れそうだった。
目の前には、圧倒的な力を持つ存在——魔人。かつて存在したどの敵よりも強く、アイでさえ太刀打ちできないほどだった。
「アイっ! もうやめてよ!」
姉・リリの叫びが、傷だらけの空気を震わせる。
「このままじゃ、死ぬよ……! だから……逃げようよ!」
アイは、吐血しながら微笑んだ。
「逃げられない……こいつからは……戦って、勝つしかないんだ……」
「だいじょうぶ。私は、最強だからな……」
それは、強がりでも希望でもない。
ただ、大切な人を守り抜こうとする覚悟の言葉だった。
次の瞬間、空気が割れるような音が響いた。
アイの全魔力と命を込めた最終魔術が放たれ、魔人も全力で応じる。
二つの力が交わると、世界そのものが悲鳴をあげた。
空間に亀裂が走り、閃光と衝撃があたりを襲う。
「アイっ……!!」
リリは吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれる。
耳鳴りの中、聞こえてきたのは——静寂。
そこに、アイの姿はなかった。
魔人は、息を乱しながらもまだ立っていた。
だが、それを見たリリの心の何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
「アイを……返して……」
目に涙を浮かべたリリは、もうリリではなかった。
その戦いは、もはや戦闘とは呼べなかった。
魔人は抵抗する間もなく、リリの手によって苦しめられ、破壊された。
倒れた後も、リリは震える指でアイの名を呼んだ。
「アイ……ねぇ……起きてよ……」
答えはない。
リリは、血に染まった妹の身体を抱きしめながら、泣き崩れた。
そして静かに、アイの頬に口づけると、力なく微笑んだ。
「待ってて……すぐに……そっちに行くからね」
リリはアイの胸に額を預け、目を閉じた。
次の瞬間、心臓を自らの力で止めた。
誰にも知られず、誰にも届かない場所で、
二人の姉妹は、静かに終焉を迎えた。
灰の世界に、風だけが吹き抜けていた。