番外編:異世界にて
白い光に包まれ、二人は目を閉じた。
それは、終わりのようで、始まりだった。
「……ん……」
最初に目を開けたのはリリだった。頬に触れる柔らかな風、草の香り。まぶしい太陽の下、広がっていたのは、どこまでも続く大草原。
「ここは……どこ?」
隣に目を向ければ、アイが横たわっている。リリと同じように目をゆっくりと開けた。
「リリ姉……生きてる……のか?」
「……わからない。でも、アイが隣にいる。……それだけで、私は……」
リリはアイの手をぎゅっと握った。その温もりは確かだった。死の感覚はそこになく、ただ、懐かしいような風が吹いていた。
アイは空を見上げる。青く透き通るような空。あの世界にはなかった、柔らかな色彩が広がっていた。
「……なあ、リリ姉。ここ、あの世界じゃないよね?」
「うん。たぶん……だけど、生まれ変わったのかもしれないね」
「ふーん、転生……ってやつかな。なんか漫画みたいだけど」
リリはくすっと笑い、立ち上がる。風に揺れる銀髪が、草原の緑と太陽の金に溶けていく。
アイも後に続き、立ち上がる。
「……目的も、何もないけど。いいのかもな、こんなふうに一緒にいるのも」
「そうだね。でも、何かが待ってる気がする。……あの先に」
リリが指差したのは、草原の果てにぽつりと見える森だった。
「よし、それじゃ、行くか」
アイが笑った。その笑顔には、以前のような影はなかった。リリの隣にいるだけで、今の彼女には十分だった。
「リリ姉、今度こそ守ってみせるよ。何があっても、一緒にいるからな」
「アイ……私も、今度こそ……守るよ。アイのことを、絶対に」
二人は手を繋ぎ、草原を歩き出す。
新たな命の物語が、今、静かに始まった。
――これは、灰の世界のその先。光の姉妹が紡ぐ、もう一つの「約束」の物語。




