第一章:西暦5000年の魔術研究者
遥か未来、文明が崩壊し、魔術が再び世界を支配した時代。その片隅に、一人の少女が存在していた。名を「アイ」。彼女は、人の世から身を引き、亜空間に建てた研究室で魔術を研究していた
「これは…」
静かに独りごちる彼女の声は、暗い闇に紛れて消えていく。だが、その瞳は全てを見通していた。過去、現在、未来──さらには宇宙の果て、死者の霊、あらゆる存在と因果。
彼女には二つの能力があった。
一つ、「視る力」。
見ようと意識すれば、どこであれ、何であれ、そこに存在する限り視える。
もう一つ、「操る力」。
視えたものは、すべて干渉・操作が可能だった。重力、光、死者、生者、感情、意識、世界法則……それすらも。
だが、彼女にはひとつだけ、どうしても理解できないことがあった。
「……本気、とは何だ?」
“本気”という概念。それだけが、彼女にとっては永遠の謎だった。
全知に等しい視界を持ちながら、ただ一つ、その“意味”だけが理解できない。だから彼女は、それを探るために旅を始めることを決めた。
「私に欠けているもの。それが本気というのなら……世界に問うてみるか」
亜空間から自分の過ごしている世界に戻り、そう呟いたとき、彼女の瞳が時空を捉え、世界の縁を越えて過去へと旅立っていった。