07「甘え下手」
ちょっと、痩せたかな。
それが、久々に聆也に会った感想。元々コイツは薄っぺらくて痩せ型なんだけど、今日は更に顔がやつれて見えた。曇り空のせいかもしれない。
「都弥子、痩せた?」
「えっ?」
思わず聞き返してしまった。だって、私と同じ事考えてたから、びっくりした。
「何か、痩せた気がする」
テーブルの上に載せた私の腕に、確かめるようにそっと触れる。自分でも楽勝に握れるくらいだから、聆也の手からしてみれば、棒切れみたいなもんだ。
案の定、奴は顔を引きつらせた。失礼な奴。
「骨じゃん……」
「いや、肉あるし。ってか怜也だって似たようなもんだから」
「違うよ。ちゃんと食べてる?」
お前はオカンか。
「食べてるよ。もう年だから量が少なくなったの」
言ってて悲しくなるけど、残念ながら事実。前は揚げ物とか大好きだったんだけどなぁ? 今はキビシイ。
二十歳過ぎたらガクッとくるから、十代のお嬢様方、お気を付けあそばせ。
聆也は納得せずに、まだ不安そうな顔で私を見ていた。
「大丈夫だってば」
「……都弥子の『大丈夫』はアテにならない」
まぁ、それは否定しませんよ。でも、心配されて「大丈夫じゃないです」って言う奴もどうかと思いますが。よって、私の言動は正解とします。
「私が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫なの」
「なら、良いけど」
毎度のこと、聆也は寂しそうに眼を逸らした。頼られないのが、不服なんだろう。
可愛くないなって、自分でも思う。
心配してくれてるんだから、ありがとうとか何とか言えば良いのに。たまには……甘えてみたりとか……。
いやいやいやいや、完全柄じゃないし! そんな私不気味だから! 余計に心配されちゃいそう。
横目でチラリと彼を伺う。
見た目からして頼りないんだっての。もうちょっと筋肉付けろ、筋肉。もやしっ子が。
……とか考えちゃうあたり、ほんっと可愛くない。
誰か私に上手な甘え方を教えて下さい。
ごめんね、聆也。
「ミィ子はな〜、確かに甘えキャラじゃないよなぁ。どっちかっつーと姐御キャラ?」
ざっくり一刀両断してくれたのは、御存知宇佐美凜一さん。
何かなぁ。私ももう少し他に相談相手いないのか。自分にちょっとゲンナリ。
「まぁ姐御肌なのは認めますよ。聆也は弟っぽいし」
「お前ソレ、大神の前で言うなよ?」
「? 何で?」
聞き返すと、わざとらしく溜息を吐いて凜ちゃんは語った。
「あのな、どこの世界にカノジョに弟扱いされて喜ぶ奴がいるよ」
「え……シスコン界?」
私の切り返しに、間抜けで微妙な空気が二人の間に流れる。漫画とかだったら、ヒヨコやらカラスやらが背景に飛んじゃってそうな。
「……なるほど。で、アイツはシスコンなわけ?」
「聆也は女兄弟いないよ」
「そーいう問題でなく。大神は弟扱いされて喜びそうなのか?」
凜ちゃんに言われて、ちょっと想像してみた。
「うーん……悄気そう」
何かというとすぐ悄気る、精神的にももやしっ子な聆也君なのです。いちいち言葉を選ぶのが面倒なんだ、これが。
昨今の男子はひ弱でいかん。
「俺には甘えられるのにな、ミィ子」
不意に凜ちゃんは、ニヤッと笑った。からかうと言うより、優越感みたいな顔。
それが私に対してなのか、聆也に対してなのかはわからない。
「えぇー?」
精一杯不審な表情を作り、宇佐美氏に差し上げた。
彼氏にも甘えられないのに、何でアンタに。
「こうやってさ、悩みとか相談してくれんのって、甘えてるっつーか……頼られてる感あるじゃん?」
「まあ……そう、なのかな」
言われてみれば、聆也に相談とかしたことない。コイツに言っても無駄だって、無意識に避けちゃってた。
だって、宇宙人みたいなんだもん。ストレスほとんど感じないとか、超人類でしょ。
相談なんかしたって、まともな回答が返ってくると思えなかった。
それってつまり、頼りにしてないってことで。
当然、甘えてもないわけで。
結局最後に頼っちゃうのは、いつも凛ちゃんだった。やっぱり、それって甘えてるっていうのかな。
「凛ちゃんは、私に甘えられて……迷惑?」
ちょっとドキドキしながら、聞いてみた。
今、凛ちゃんに突き放されたら、正直かなり凹みそう。どうしていいかわかんなくなっちゃうかも。
ってゆーか、自分で言っといて何だけど、なんだソリャ!?
めちゃくちゃ凛ちゃん依存症じゃん、私。
「待って、やっぱ今のナシ」
恥ずかしくなって訂正したけど、パッと上げた視線の先にいたのは、私よりももっと恥ずかしそうな顔の彼。
困ったように、チラッとこっちを見て、すぐに目を逸らした。
「お前さ、そういう顔でそういうこと言うの、ホントにやめてくれよ。マジで、ヤバいから」
そういって、さっさと立ち去ってしまった。
……なんだソリャ?
ひっさびさの「ねこうさ」でございます(^^)/
やっぱり都弥子は書いてて楽だ……(笑)
猫みたいな気まぐれノロノロ更新、次回はいつになるやら?
気長にお待ち下さいませ☆