05「車の中のリンゴちゃん」
「凜ちゃん、愛実ちゃんとどう? 連絡取れた?」
学校帰り、車内でそれとなく聞いてみた。
帰りの時間が一緒の時は、凜ちゃんが車で家まで送ってくれる。交通費浮いてラッキー。
さて、愛実ちゃんとは、凜ちゃんのカノジョさん。
これがまたすごい子で、二、三週間連絡が取れないなんて事態がザラにある。
バイトが忙しいからとか、授業が忙しいからとかが理由ではなく、ただ単に連絡するのが面倒臭いだけらしい。
そして、微塵も罪悪感を感じていない。何回か会ったことがあるけど、私にはそう思えた。
ルックスは、凜ちゃんに不釣り合いな程上等。普通にモデルとかできちゃいそうな感じで、容姿を鼻に掛けてんのかなとも考えたが、違うみたいだ。根本的に、何かがズレているんだろう。
面倒臭いなら、どうして彼氏なんか作るの?
凜ちゃん苦しんでるじゃん。
……って言ってみたものの、相手にはしてもらえなかった。
言っちゃ悪いが、私は愛実ちゃんが好きじゃない。
凛ちゃんを傷付ける人間なんか、好きになれるはずがなかった。
凜ちゃんは顔こそ普通だけれど、中身は極上なんだ。
そりゃあ、悪ふざけしたりもする。でも、他人が本気で嫌がる様な真似は絶対しない。
困ったり、元気なかったりしたら、さりげなく手を差し延べてくれる。
さりげなくって、結構難しい。大抵の人間は、良くも悪くも「気遣ってます」感がバリバリ出るもんなんです。
だからそれをナチュラルにこなせる凜ちゃんは、やっぱ極上だと思う。優しいだけじゃなくて、ちゃんと叱ったりもしてくれるし。
実は、私が唯一頼りにできる男なのだ。付け上がるから本人には内緒だけどね。
もちろん、聆也にも内緒。
「んー? 昨日電話繋がったよ。少しだけど」
そっけなく答えようという凜ちゃんの試みとは裏腹に、口許が変に緩んでいる。
我慢しようとするからだ、可愛い奴め。
「ほんと? 良かったね!」
「何でミィ子が喜ぶんだよ」
「や、だって凜ちゃん最近元気なかったじゃん? だから良かったなぁ、って」
私が笑ってみせると、凜ちゃんも笑った。
ハニカミ笑顔、可愛い奴。
「ミィ子ってさ、天然だよな」
予想外のお言葉に面食らった。「天然」なんて言われたのは初めてだ。
「そぉ? 私ツッコミキャラだよ」
男らしい性格のワタクシは、仲間内では常に保護者役。
まぁそのせいってわけでもないんだろうけど、いつの間にかツッコミキャラが確立されていた。周りにボケが多いのも要因の一つかと。
「天然ボケって意味じゃなくて、何つーか」
「何つーか、何」
「うーん……。うまく言えないけど、天然」
「褒めてる? けなしてる?」
「褒めてるよ。俺はお前のそういうトコ、すげぇ好き」
頬に朱が散るのがわかった。私は、超赤面症なのである。
それはもう、見事なまでに真っ赤。
ヤバい、恥ずかしい。これじゃ凜ちゃんの格好の餌食だ。
無駄だとはわかりつつも、窓側へ顔を背けてみる。
「あ、赤くなった」
案の定、顔を覗き込んでニヤニヤする。
嫌な奴。
「耳まで赤いよ、ミィ子ちゃん」
「うるさいなー! お前が変な事言うからだろ!」
ささやかな抵抗として助手席からパンチを繰り出したが、簡単にかわされてしまった。
クソ、調子が出ない。
「かーわいいなぁ」
「嬉しくねぇよ、馬鹿っ!」
「とか言っちゃって」
凜ちゃんは、「可愛い」という言葉を惜しげもなく使う。口癖レベルの頻度で使う。
まぁ気に入った子にしか言わないらしいけど、何かにつけて「可愛い」と言うのだ。
聆也とはエラい違い。
奴が「可愛い」なんて言った日には、熱でもあるんじゃないかと心配してしまうレベルで言わない。
というか、そんな事言う聆也は気色悪くて嫌だ。
あぁほら、また。
私は、どこまで彼をけなせば気が済むのだろう。
最近ちょっと、そんな自分にお疲れ気味。
あーぁ。
赤面症って、嫌ですよね。ほんと治したいです(;_;)
利木は超上がり症で、赤面症。人前に出て喋ることとか、死ぬほど不得意です。悲惨なまでに、できません。
なので、皆の前でハキハキ喋れる人は無条件に尊敬します……。羨ましいっ!
凛一カノジョの、愛実ちゃん登場。
本人登場はまだ先になりそうなので、存在だけ覚えておいてやって下さい(^_^;)