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03「隣にいるのは」


「ねぇねぇ、都弥子みやこのカレシはどんな人? 名前は?」


 彩乃の隣りに座る莉奈(りな)が、キラキラおめめで乗り出してくる。

 オンナノコは恋のお話ってやつが大好物なんだ。


大神(おおかみ)聆也(れいや)。どんなって言われてもな……真面目を具現化したような人」


 彼氏はどんな人、と聞かれると毎回困ってしまう。

 人一人を表すのに一言じゃ足りなさ過ぎるし、補おうとすればノロケだと揶揄される。


 結局いつも「真面目の権化」的な答え方をするのだが、やっぱり足りないみたいで満足してくれない。


 莉奈だけじゃなく、まゆずみ君まで眉を顰めた。

「何ソレ? 今時いるの、そんな男」


 確かに、私よりも聆也の方がよっぽど時代錯誤だ。

 考え方もいちいち古臭くて、融通の利かない頑固者って感じ?

 時々、生まれてくる時代間違えたんじゃないのかコイツ、とか思ってしまったり。


「それがねぇ、いちゃうんだよねー」

「大神が聞いたら、絶対怒るぞ」

 ぼそっと、(りん)ちゃんがつぶやく。


 言わなくても良いことを、余計な御世話だよ。


凜一(りんいち)笹間(ささま)の彼氏と知り合い?」

 と、イケメン黛。


「おぅ、中学の同級生」

「笹間と凜一も、中学一緒じゃなかったっけか?」

「うん、そうだよ」


 私と凛ちゃんが頷きあって答えると、女子コンビが、黄色い声で騒ぐ。


「キャー、何々? 三角関係?」

「やだぁ、だから都弥子と宇佐美(うさみ)君、仲良しなんだぁ。浮気ぃー」


 テンション高ぇなぁ、これだから女には付いてけねぇ。


 おっと、いけない、男言葉が……。


彩乃(あやの)、莉奈。勝手に盛り上がらないで」


「ミィ子に手出したら、間違いなく呪い殺されるよな」

 凛ちゃんが、寒そうに身を震わせた。

 陰険なヤツの顔をイメージしてしまったのだろう。御愁傷さま。


「ああ、そんな感じだよね。根暗っぽいし」


 吐き捨てるように言う。



 無駄に身長高くて、猫背で、黒髪猫毛で、眼鏡で、目ぇ細くて、陰気なオーラを漂わすのが、私のダーリン。


 女子は、大概ヤツに関わろうとしない。

 だって、身長のせいではない、妙な威圧感があって怖いから。


 私ですら慣れるのに二年かかったから、相当だ。



「……笹間は、何でそいつと付き合ってんの?」

 キュウリをフォークに指したままの恰好で、黛君は呆れ顔をする。


 そんな顔されてもなぁ。


「あー……何ででしょうね?」

「本当に好きなわけ?」

「……まぁ、多分」

 詰め寄られても、明確には答えられない。

 モジョモジョと、口ごもってしまう。


「多分かよ。大神にチクってやろー」


 何だとこの野郎。


 またもや、眼力で凜一を一喝する。


 奴は首をすくめて、助けを求めるように黛君を見た。

 救援要請された側は、軽い苦笑いを返しただけである。


「大神君、かっこいい?」

 懲りずに、莉奈は身を乗り出す。


 毎度毎度思うのだが、他人の恋人の情報を仕入れて、何が楽しいのだろう。女子ってヤツはよくわからん。


「全然。情報系」

「えー?」

 しれっとして答えると、また不満顔をする。

 私に文句言われても困るんだけどな。そういう性格と外見に生まれ付いたのは、彼なわけだし。



 ちなみに「情報系」とは、ワックス等でアレンジしていない黒髪で、眼鏡を装着している類の風貌を言う。

 大抵、ひょろい長身、もしくは低身小太りである。

 主に情報科学系の男子学生に多い為、その名が付いた。

 「アキバ系」とは、ニュアンスが異なる。



 以上、都弥子さんの若者言葉ミニ講座でした。

 適当な解説なので、あまり信用しないように。


「ぶっちゃけ冴えない君なの? 都弥子のカレシ」

 ほぼ興味を失ったらしく、気怠げな声音の莉奈さんであった。


 感情を隠さず素直に生きているのが、彼女の魅力であり、欠点でもある。私は割と好きだな、そういう奴。


「冴えないね。勉強できるのと、真面目なのだけが、辛うじて長所だよ」

 我ながらボロクソに言うものだ。言われた当人が聞いたら泣きそう。

 何かというとすぐにヘコむのだ、あの男は。


 昨今の男連中は女々しくていけない。

 そんなんだから、女がどんどん強くなっていくのだ。

 このワタクシのように。


「マジ、何で付き合ってんの?」

「さあねぇ」


 もっともな御質問だが、生憎答えは持ち合わせていない。


 むしろ、こっちが教えてほしい位だよ。

 

とか言いつつ、告白したのは私からだったりするわけで。周りの人間は、ますますわけがわからないだろう。本人が、わけわかってないから当然だ。


 ……恋愛感情って案外適当なもんだと思う、私は。




 聆也とは中学・高校と一緒で、大学は別れてしまった。


 彼は勉強が非常にお出来になるので、全国屈指の偏差値を誇る地元の国立に通っている。


 対する私は、微妙にマイナーな地元の公立。ある程度のレベルではあるけれど、いかんせん知名度がいまいち。苦労して入学したのに、就職の際には役立たないという、何とも損な学校だ。


 多少レベルが低くても、名の売れている私立に入れば良かったじゃないかと言う人もいるだろう。でも、私立の授業料なんて我が家のお財布では賄い切れない。結局、授業料が半額程度の、今の大学に入るより他なかったのだ。


 貧乏人って悲しい。



 そして、毎日一緒にいるのが当たり前だった人間が、隣りからいなくなるというのも結構悲しいものである。


 隣を、チラリと見る。


 聆也の指定席だった、私の隣。


 今そこにいるのは、聆也じゃなくて、凛ちゃんだった。


ミィ子のカレシのお話。

多分、どの学年にも一人はいる、真面目そうで暗い感じのメガネ君。それが、聆也です(笑)


明日学校行ったら探してみて下さい。

絶対、いるはず(笑)


それと、全国の情報系所属の学生の皆様、申し訳ありませんm(_ _)m

あくまでもミィ子の勝手な解釈ですので、許してやって下さい。

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