01「いつも通りの」
「ミィ子!」
ほらまた、私を呼ぶ。
猫にするみたいに。
「凜ちゃん」
振り返ると、チョーカーに付いた鈴がちりんと鳴いた。
凜ちゃんが、去年の誕生日にプレゼントしてくれた「首輪」。
本気で私をペットにしたいのだろうか、この男は。そうだとしたら、今すぐコレをゴミ箱にぶち込みに行かなきゃならない。
お生憎様、私にはそんな趣味ございませんのよ。変態野郎の相手を勤めてやれる程、慈善心に満ち溢れてもございません。
まぁ、意地になって毎日のように着けてる私も私なんだけど。
「おはよ。チャイ語の課題やってきた?」
コイツは宇佐美凜一。
私こと、笹間都弥子の中学時代の同級生であり、今は同大学・同学科のメンバーである。
「当然。自宅学習は欠かしません」
「そうか、よしよし偉いぞ」
凜ちゃんは満足そうに私の髪を撫でた。コイツは、たびたび無遠慮にそうしてくる。
良い毛並み、なんだそうで。
完全動物扱い。
どの美容師さんも褒めてくれるから、見る目、いや手?は確かかな。
中学の時は、一応それなりに仲良かったけど、特に親密でもなかった。
ところが、大学で再会すると面白い程に意気投合してしまいまして、今や何でも話せる親友……と私は思っている次第でございます。
向こうはと言うと、聞いての通り猫扱い。
前は「笹間さん」なんて呼んでたくせに、ある日突然「お前は猫っぽいからミィ子だ」とおっしゃられて、私はミィ子ちゃんと呼ばれるに至ります。
「見せないからね」
私は、鞄を庇うように抱き寄せた。中には、凛ちゃんの欲する課題の解答ノートが入っている。見せてたまるか。
「え」
凛ちゃんの余裕の笑みが引きつる。
やっぱりね、自分ではやってこなかったんだ。いつも通り、不真面目なヤツ。
「どうせアテにしてたんでしょ。ダーメ、いっつもそんなだから小テスト惨敗なんじゃん」
「惨敗って……」
「二〇点じゃ惨敗としか言えないでしょ。このままだと本当に単位落とすよ。知らないからね」
コイツの成績は、毎回クラスの最底辺。先生も、採点するのが嫌だと言わんばかりの苦い顔をしている。
よくもまぁ、この大学に入れたもんだと思う。真剣に。
傍から見れば、私も凛ちゃんも一括りでこの学校の生徒なわけで。二人の間に、どんな成績差があろうとも。理不尽だよなぁ、それって。悲しくなっちゃう。
「じゃあ今日が最後! 当たるんだよー、頼むよ、ミィ子ー」
凛ちゃんの決め台詞。
お前の人生には、何回最後があるんだよ。
不死鳥か。毎晩生まれ変わってんのか。
「まだ始まるまで時間あるんだし、自分でやりなさい。教えてあげるから」
これが私にできる、最大限の譲歩。
突き放しちゃえば良いのに、優しいなぁ、都弥子さん。
「どうせ見てるんなら、やってくれよ」
根っからのダメ人間だ、コイツ。
座右の銘は「他力本願」に違いない、うん。
「ダーメーでーすー」
「きびしー」
「文句あるなら、全部自力でやれ」
ピシャリと言い切ると、凛ちゃんは観念したようにうなだれた。
五月の風が、そんな彼を励ますように、からかうように、吹き抜けていく。
他のジャンルを書いていると、どうにもダークな方向にいってしまう……(・_・;)
恋愛なら大丈夫だろう!ということで、始めてしまいました。
ちょこっと実体験を混ぜつつ、お送りしていきたいと思います♪
お楽しみにっ!