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第漆玖話 『瓦礫ノ上ノ晩餐会・参』

 再び破暁隊が動き出す。

 先ほどは魔王が先制してしまい、なんとか切り抜けた状態だったが今回は違う。

 燐が魔王に向かって接近。それに続いて涼也も走り始める。

 ガダンファルは向かってくる燐のほうに体を向け、右手に力を込める。すると青白いオーラが右腕に出現した。


大王爪(だいおうそう)


 ガダンファルが右腕を振るえば見えない斬撃が燐へ飛ぶ。これは燐や破暁隊の視界には見えない。微かな空間のゆがみと爪の斬撃が地面を少しだけえぐるあとでしか察知できない程度のもの。

 だが燐は右にジャンプ、ほとんど完璧なタイミングかつ紙一重で大王爪(だいおうそう)を回避した。わずかですら燐たちにとってはそれだけでよい。小さなゆらぎを察知しなければ勝てない相手なら、ここ数週間何度も手合わせしてきた。

 避けた燐は再び地を蹴りガダンファルへ近づく。鞘に手をかけ、抜刀の用意。

 

「龍獄門・龍爪斬(りゅうそうざん)!」


 燐の一撃はやはりガダンファルに右腕で刀を受け止められ、防がれてしまう。もちろん狙ったのはガダンファルの首。自分の刀が効かないことに悔しさが隠せない。

 燐の攻撃を防いだ直後に反対側から涼也が薙刀を振るう。ほぼ同時ではなく、ガダンファルが防ぐという一点に集中するタイミングでの一撃。


「樫野流薙刀術・烈振」


 ノールックで涼也の薙刀を左手で受け止めるガダンファル。さすがは魔王と言ったところか。「烈振」は相手の防ぐ硬直を利用する。だからある程度力を抜いておけば対処は可能。それをガダンファルは一撃だけ喰らっただけで感づいたのだから、涼也も魔王を侮れないと意識する。

 涼也による烈振のタイミングで仄と緋奈は、前と後ろから同時に攻撃を仕掛けようとするが、ガダンファルは腕を振り燐と涼也を吹き飛ばしてしまう。すぐに仄と緋奈へ意識を向けるガダンファル。


「殺すべきは……」

 

 両腕に青白いオーラを溜め始めるガダンファル。先ほどの見えない爪の斬撃を放とうとしているのだろう。

 ガダンファルが大王爪(だいおうそう)を撃とうとしているのは……


 「俺様か!」


 身体を向けたのは仄。まるで威嚇するように両腕を掲げ、仄へ今にも襲い掛かるようなポーズをとる。まるで口ではなく、体全体が大きな口のように感じ、仄は怖気づいてしまう。まるでこのまま飲まれてしまいそうな恐ろしい様相。

 爪が仄めがけ振り下ろされた。

 

 ズン! という重い音が戦場に響く。


 が、これは仄がやられた音でも、逆に仄が炎でガダンファルを燃やした音でもない。


 ガダンファルの両腕に正義の衝撃弾(アンキロ)が当たった音である。

 さきほどの咆哮で殺しきったと思われた正義だがまさか生きていたらしい。さらにガダンファルの仄への攻撃を食い止めたのだからガダンファルにとっては腹立たしいことこの上ない。

 

 ガダンファルの圧にビビっていた仄だが正義の作られた隙を見逃さない。同時に緋奈も攻撃を加える。


「陰陽火之道・大火花(おおひばな)!」


「八坂血戦式・赤乱!」


 魔王の腹に仄による爆発、魔王の背中には緋奈による赤い拳が放たれた。

 明らかに痛みを感じているガダンファル。呻きを上げ、口元をゆがめているのだ。

 だがそのままダウンせず、全身に力を込めるような動作を行い、青白いオーラを発生、激しく迸らせる。

 危険を察知した仄と緋奈はすぐに離脱。次の瞬間にはガダンファルを中心に爪の斬撃の竜巻が発生。もう少し遅れていれば仄と緋奈は切り刻まれていただろう。


 技を放ち終えたガダンファルは大きく息を吐く。


「いいなあ貴様ら。先ほどのようなつまらん戦いではない、本気でワレを殺しにかかってくるのを感じる。これだ、これなのだ。ワレが戦場に感じたかったのは……」


 仄と緋奈の攻撃を受け、生々しい傷跡があるにもかかわらず依然として王者の態度を身にまとうガダンファル。

 さらにガダンファルは全身に青白いオーラを再度発生。だがそれは破暁隊が今まで見てきた中で最も大きい。

 仄が魔王の正面、緋奈は背後、涼也は右、燐は左側と四方に陣取り、ガダンファルの動きに警戒する破暁隊を一人ずつ見つめる。


「恐怖、興奮、戦場の空気がどんどんとできているなあ。だが完成には少し物足りん。ならばワレも……本気を出すとしよう……」


 

 そのとき、破暁隊は予感する。


 ”死”を。

 

 三途の川、黄泉の国、冥府、ヘルヘイム……そういった”死”を意味する場所に今自分たちが立っていると無意識に認識してしまう。


 はっ、と破暁隊が意識を魔王に戻せば、魔王の青白いオーラはまるで雷のように迸っていた。

 ガダンファルを囲う破暁隊に緊張が走る。一寸先は闇ならぬ一寸先は死だ。

 

 魔王が突如消える。朱激により動体視力が上がっている緋奈ですらどこに行ったか反応できない。

 最初にガダンファルに気づいたのは、涼也。()()()()()()()()の背後に、ガダンファルが拳を構え、彼女を殴ろうとしていたのだ。

 涼也はすぐに叫ぶ。

 

「燐さん!」


 涼也の言葉で燐が振り向けばすぐ近くに魔王。すぐに避けることはできそうにないと判断した燐は刀で防御。直接攻撃を受けないようにする。

 しかし魔王の剛腕が刀一本で防げるはずもなく、


「くっ!」


 刀ごと押し込まれ、吹き飛ばされてしまう。

 それどころではない。燐を飛ばしたガダンファルは跳躍、なんと弾き飛ばした燐へ追撃を加えようとしているのだ。

 空中で身動きがとれない燐に跳躍で追いついてしまうガダンファルにほかの破暁隊のメンバーが彼女の援護に行くことはできない。正義すらスコープ上でガダンファルを狙っていたせいで魔王の瞬間移動に反応できず、燐の援護射撃には時間が足りない。


 燐のもとへ仄と緋奈が向かうも絶対に間に合わない距離。


 巨大な爪が燐の目に映り、彼女も死を覚悟する。


 ……だが魔王は爪を振り下ろさなかった。隣から飛んできた()()()によって。

 高速で飛んでくる(びょう)をガダンファルはキャッチ。(びょう)についている鎖ではなく、錨そのものを掴んだのだからその圧倒的な反射神経を目の当たりにし、余裕の表情がなくなってしまう。この(びょう)を放ち、魔王に引き寄せられる涼也。左手には第九戦線で魔将相手に使用した樫野流鎖銛(さてん)術だが、ガダンファルには(びょう)すら刺すことはできないらしい。それどころか……


「なにッ⁉」


 なんとガダンファルはその鎖を強く引っ張り、涼也を引き寄せたのだ。(びょう)を掴まれても驚いたのにまさかこの鎖を利用して距離を詰められるとは思わず動揺する涼也。

 主導権を握られなにもできない涼也はガダンファルのなすがままに、まるでヨーヨーの本体のようにガダンファルのもとに引き寄せられる。しかもその途中でぶつかるのが、


「仄くん! 避けろ!」


「てめえ!」


 ガダンファルと涼也の間に位置していた仄へぶつかりそうになる。これも計算していたのかわからないが、破暁隊にとっては致命的。仄は涼也の掛け声もあり何とか回避するも仄はそれに必死でガダンファルへの接近に一瞬遅れてしまい、涼也も地上に叩きつけられてすぐに攻撃に転じることができない。

 だが涼也の援護により燐への攻撃は一瞬遅れる。この一瞬で燐は体勢を整え、地に足をつけ、魔王と距離を取ることに成功。そしてその背後には右手を赤く染めた緋奈。魔王の背中に八坂血戦式を加えようとしているのだ。

 しかしガダンファルはすぐに涼也の(びょう)を離す。左足を後ろに下がらせ、体を反転、剛腕と爪で緋奈を襲う。


衝撃弾(アンキロ)


 はるか遠くからの正義の弾丸がガダンファルの動きを止めるために発射。およそ10発ほどがガダンファルへと命中した。衝撃弾(アンキロ)が体にあたったにもかかわらずガダンファルの拳が止まる様子はない。まるで弾丸が効いていないようだ。

 その剛腕が緋奈をがしりと掴む。あまりにも大きいのかガダンファルの拳には緋奈の頭から胸が全て隠れていた。あらゆる方向から力がかかり、その圧に押しつぶされそうになる。


 まるでリンゴのようにミシミシと握りつぶされ、全身から血を噴きだす。


 そんな予感が緋奈に行動を起こさせた。右の手のひらでなんとか魔王の身体に触れようとするも届かない。

 からだに圧力がかかり、痛みで意識が飛びそうになる緋奈。


(どこ……はやく……しぬ……)


 なんとか指を動かし、中指で魔王の皮膚に触ったことを認識。


 「八坂血戦式秘奥……壊璽(かいじ)樹死状血晶じゅしじょうけっしょう……」

 

 緋奈の中指から血がガダンファルの体内に注入、暴れ狂う。


「くっ……」


 騎士型の魔臣ヴァリスが感じたような、体内に異物がある不快感もガダンファルは感じ、そのせいで一瞬緋奈を掴んでいた拳の力が緩む。その隙に朱激を発動させて強引にガダンファルから脱出、間一髪だ。

 一方八坂血戦式の秘奥を喰らったガダンファルだが、入り込んだ血が少量だったせいか血の雪化粧の大きさはヴァリスのときよりも小さい。痛んでいる様子はなく、全く効いていないようだ。

 

『大丈夫ですか! 緋奈さん!』


『ええ、死ぬかと思ったわ』


 八坂血戦式を発動しできる限り傷を治す緋奈。連絡してきた燐も安堵の表情を浮かべる。

 しかし危機は去っていない。依然として魔王は彼らを喰らおうとしているのだ。


 ……そこからは防戦一方。ただひたすらに攻撃のチャンスなんぞなく、距離を取ることしかできない破暁隊。それでもガダンファルは速く、いつその爪の餌食になるか。

 魔王が仄と涼也に集中している間、燐と緋奈が合流する。

 

「このままじゃ埒があきませんわね」


「ええ、でもどうするの? 樹死状血晶じゅしじょうけっしょうを撃っちゃったからたぶんもう触らせてくれないし……」


「そうですわね。なら()()をやりませんか?」


 燐はその言葉とともに人差し指で首を横になぞる。


「アレ……ってまさか!」


 アレ、の意味を理解し動揺する緋奈。一方燐のほうも刀を握る拳に汗がにじむ。なぜならばこの技は燐が命をかけなければならないのだから。


「条件は整っていますし、やる価値はありますわ」


「で、でも……」


「それに……」


 燐は緋奈のほうを向く。


「ワタクシはあなたを信じていますので!」


 緋奈が燐と目を合わせれば彼女の目は覚悟を決めていたそれであった。ならば緋奈も応えるしかない。


「わかったわ。やってやろうじゃない!」



 円盤の強化魔法発動まで残り……



 17分。

第漆玖話を読んでくださりありがとうございます!

大王爪は神爪嵐のためのないバージョンみたいなかんじです。

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