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第漆陸話 『円盤攻略』

 円盤内に一人進入した慧はどこにいるかを周囲から確認。どうやらそこはハッチらしい。総司令部から送られた内部構造によるとそこから走って3分のところに円盤の底の魔法陣を管理する場所があるようだ。


「三分、いや足止めとかもあるだろうからだいぶギリギリだね。本気で行こう」


 そういうと慧は懐から、一ヶ月前燐と戦ったときに出した細い筒を取り出して蓋を外す。中にあるクリームを指ですくい前髪に塗るが、すぐに髪をかき上げはしない。まだ「超眼」を使用する時ではないからだ。


「氷室彗、任務を開始します」


 そう言って慧は走り出す。

 円盤内の構造は頭に入れているため迷わずに目的地へと向かう慧。円盤の中は機械的というよりも城の中のようだ。魔法で浮かんでいるため内部は自由に装飾なりできるのだろう。だが明るい模様などはなく、青や黒などの暗いいろが慧の走っている廊下を埋め尽くしており、いるだけで気分が悪くなりそうだ。

 円盤内にも魔人はいる。現に慧の前には三体の魔人。侵入者を発見した魔人たちは各々が武器を持ち、魔法を発動しようとしている。が、慧のほうが早い。爆刃を投げ飛ばし魔人へ命中、三体のうち二体がやられる。そのまま一本の小刀を新たに持ちながら残りの一帯の魔人へと接近。魔人は禍々しい剣を慧に向けて振るも、紙一重で、しかし狙ったかのようにギリギリで回避。

 そのままナイフを魔人の胸へと突き刺してすれ違う。

 ナイフの柄につながっている一本の糸を引けば、


 ボン! と魔人の胸が爆発、討伐に成功する。


「……よし。燐ちゃんと戦ったあとに近距離戦闘を訓練しといてよかったよ」


 自らの成果に慢心することなく、任務遂行のため目的地へと進む慧。途中でもちろん魔人と何度かすれ違ったが何事もなく突破。

 

 ついに円盤の中核へと至る。



 ***



 第九戦線の最初の作戦会議より前、正義が戦争に参加するかの面接の前日、慧も近藤に呼ばれた。


「お久しぶりです。近藤さん」


 礼儀正しく近藤へとあいさつする慧。いつも破暁隊のみんなのまえではおちゃらけている慧だが、常識は破暁隊の中では持っている方だ。特撃師団副団長のもとで修業した慧はもっとも軍のマナーを理解している人間だろう。


「久しぶり、慧君。どうだい? 破暁隊での生活は」


「楽しいですよ。ずっと年上の人と過ごしていたので。同級生と一緒に暮らすのは新鮮でおもしろいです」


 とある事件から慧は巡り巡って特撃師団副団長に拾われた。ずっと彼のもとで過ごしていたが学校以外で日常的にかかわるのは軍の関係者のみ。だからこそ慧は破暁隊という居場所を9人の中で一番楽しく感じていた。


「それはよかった。さて、単刀直入に言おう。君は戦争に……」


「参加しますよ。もちろん」


 即答であった。慧は副団長から戦争が始まると聞いており、そして近藤に個別に呼ばれたことにより戦争への参加を聞きに来たのだろうと慧は考えたのだ。


「……わかった」


 そういって近藤は表にチェックを入れる。迷うことはなかったからおおよそ予想はついたのだろう。

 これで終わりかと思った慧だが、近藤の話は続く。


「戦争に行くならもうひとつ、もし戦争でなにか重大なことが起きたなら、そのときは君に何か任せるかもしれない」


 近藤は軍人らしい表情で慧へ言葉を投げかける。慧はそう言われるとは思わず、近藤に聞く。


「それはなぜです? ()()である正義君なり、いいとこ出の緋奈ちゃんなり光君なりに任せればいいと思いますけど……もしかして俺っち……僕が『特撃の爆刃使い』の一番弟子であり、()()()()()()するかもしれないからですか?」


 近藤はそんな謙遜をするとは思わず、少し笑ってしまう。

 だが次の言葉は慧に責任感と自信を与えた。


「まあそれもあるけど、もちろん君が……」



 ***



 慧の目の前には巨大な扉。まるでボス戦の前のようだ。この先に円盤の底にある魔法陣を破壊するための機構がある。

 一応慧は扉を開けた瞬間に攻撃されるかもしれないと警戒し、前もって前髪を上げ、腕時計のタイマー開始のボタンを押す。

 慧の『超眼』の才能型権利(能力)は普通の目をより強化したものだ。


 視力は検査をすれば15.0、世界で最も視力のある民族を軽く超える数値。それだけではなく、その視力を基にした空間把握能力、フォトグラフィックメモリーと呼ばれる、見たものを一瞬で記憶する権利(能力)も少しだけ持っている。

 

 だがもちろん代償もある。

 それはフルで使い続けると目の疲労があり得ない速度で溜まるということだ。前髪を上げていられる時間は約10分。それを超えると目が割れてしまうような痛みが走り、それ以上目を酷使すると視力が下がってしまう。

 12年前からこのハイリスクハイリターンの目と付き合い続けてきた。

 しかしこの目のおかげで慧はわずか16歳という若さで『特撃の爆刃使い』という名前を手に入れそうになっているのだ。


 慧は扉をこじ開ける。


 扉の先に合った空間はまるで体育館のように巨大な室内であった。円盤という戦闘用の乗り物の中とは思えない。だが部屋の奥の壁には慧が円盤の底で見た魔法陣とまったく同じ。総司令部によればこの魔法陣を破壊することで円盤の魔法陣が発動できなくなるらしい。

 すぐに破壊を試みようとした慧だが、


「まあ、そうはいかないよねえ……」


 魔法陣の前に立っていたのは一体の魔人。この重大な部分を守護しているということからおそらく魔将クラスであろう。


 魔将も慧を発見する。

 魔将の姿は上半身が完全なる水晶のような鉱物でできている、オークのような姿をしたバケモノ。そして額からはカブトムシのような角が生えている。

 

 慧は両手に爆刃を構え、戦闘態勢を取る慧。


 突如魔人が構える。前に屈み、されど腕だけは後ろに伸ばしているのだ。まるで後ろの壁につながれた鎖から抜け出そうとするように。

 次の一秒には攻撃が来ると身構え、『超眼』を魔人から離さない。


 ガコン、という鈍い音とともに魔人の両腕が、


 伸びた。


 ゴムのようというわけではなく、無限に重なった円錐状の部位が外れたようだ。爆発的な速度で飛んでくる両腕を慧は右に跳んで回避。だが紙一重だ。腕の着弾地点は爆発とともに大きな穴が空いている。もし当たったのなら一撃で死んでしまうだろう。

 腕を戻すときもほぼ一秒もないほどの速さ。魔人の腕をつかむことはできない。

 

 魔人の腕が伸び縮みしながら、慧へラッシュが放たれる。


 慧は部屋中を駆け巡りその攻撃を耐え抜く。目を最大限活用してどこに拳が当たるかを一瞬で判断して回避し続ける。柔軟で猿のように機敏な体がそれを可能にした。


(なんとなくパターンは読めた、反撃の時間だ!)


 魔人の右腕が慧の右足をかすめた瞬間、慧はナイフを魔人へ投擢、慧が放ったナイフは魔人の胸と顔面に命中。

 うろたえたことで魔人の攻撃が一瞬止む。その隙に慧は接近を試みるが魔人の立て直しが早い。すぐさま両腕を今度は慧だけでなく、あらぬ方向へ向ける。

 慧が疑問に思ったのと同時に魔人が腕を発射。手は曲線を描いて慧へと向かう。


 (なるほど……俺っちの視界に両方の手を入れない算段か!)

 

 左右から慧へ襲う魔人の腕。もちろん慧は両方を視界内に入ることはできない。

 ここで慧は、


 前に飛び出た。


 慧の観察眼では、伸び終わった腕を魔人は操作することはできない。そして正確に慧を狙っている。だからこそ見えないとはいえ魔人の攻撃の正確さを信じ、わざと前へ行き、距離を詰めたのだ。

 一瞬でその判断を可能にしたのは破暁隊の中で慧しかできないだろう。そして中央突破という道を見つけたのは『超眼』によるものだけではない。


『一キロ先に焦点を当てるんだ。周辺視野を使って敵を見つける』


 ある日由良と一緒に訓練をするとき、彼女が言った言葉。


 それと超眼を組み合わせることにより視界をまるで写真のように隅々まで認識できる。


 すぐさまナイフを投げて魔人へ攻撃を行う慧。おそらく魔人はおそらく魔将クラス。その魔将とたった一人で渡り合っているのは偶然ではない。


 それは近藤が彼を選んだ理由。


「まあそれもあるけど、もちろん君が……破暁隊の中で一番強いからさ」


 近藤にもらったこの責任を感じながら慧は魔人の猛攻をかいくぐる。


(時間がない……すぐに決めるしかない!)


 危機感を感じた慧は眼帯に意識を集中。針が刺さったような痛みが目に走るとともに視界がさらにクリアに、そして世界がゆっくりに感じ始める。

 慧は『超眼』の制限時間を短縮させることで超眼の能力をさらに向上することができるのだ。

 伸びた時間の中で魔人に接近できるひとつの道筋を見つける。


 魔人の右腕をくぐり、左腕を飛び越え、直接爆刃を魔人の顔面へ叩き込むチャンス。


「いっけえぇぇぇぇ!」



 その瞬間、慧の意識は飛んだ。

第漆陸話を読んでくださりありがとうございます!

破暁隊の結界内の模擬戦の結果は全て記録されています。そんで慧君が一番勝率が高かったのです。

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