第漆伍話 『暁破ルトキ・弐』
『これより君たちは二手に分かれてもらう。一つ目は魔王の足止めする部隊。もう一つは円盤に仕掛けられた魔法の発動を阻止する部隊だ』
この通信は双方向のため、こちらから意見を送ることができる。近藤の作戦に火御門仄が意見。
「足止めだあ? 魔王を倒すとかじゃねえのかよ」
『残念ながら、南郷総司令官にはそこまでしか説得できなかった。彼自身魔王を倒す戦略があるらしくてね。その準備のための時間稼ぎさ』
不満げな表情を浮かべる仄の感情を通信越しに察したのか近藤は彼に向けて言い放つ。
『もっとも、足止めが魔王を倒してしまっても問題はないんだけどね』
近藤の意図を理解した仄は野心的な笑みを浮かべる。燐もまた自分が魔王を倒してもいいと知り、お嬢様のような雰囲気は消え、高ぶる気持ちを抑えられないようだ。まだ魔王が誰と戦うか決まっていないにもかかわらず。
『そしてもうひとつ、円盤に取り付けられた魔法の破壊についてだ。先ほど総司令部から送られた円盤内部の構造では、円盤内の中心部付近にその魔法を管理する部屋のような空間がある。そこに忍び込み、魔法の核なり機材なりを破壊して魔法の発動を止めることが目標だ。質問のある人はいるかい?』
近藤の気遣いに由良が反応。
「えっと、その魔法っていうのは種類はわかるのか?」
『ああいってなかったね。「強化魔法」さ』
「強化魔法……つまり魔王軍の魔人を強くするってことですね」
『そうだ。都市を直接破壊するような魔法ではないことはよかったが、この都市にいる魔人がすべて魔将クラスになってしまうとなると危険度はわかるだろう。さらにそんなやつらが結界都市を破壊し、『門の核』までたどり着いてしまえば現世に数百体の魔将が解き放たれてしまう。長期的に見れば最悪と言えるね』
近藤の言葉を破暁隊全員が理解し、重苦しい空気が流れる。南郷総司令官の考えた作戦があるとはいえ、もし自分たちが失敗してしまえば現界に危険が及ぶのだから。つまり大日輪皇國軍の敗北と言ってもいいだろう。その責任を、少年少女が持たなければならない。
破暁隊の沈黙を待たずして、近藤は任務を与える。覚悟なんぞはすでに戦争前に決めたはずなのだ。
『さて、君たちに最後の任務を与えよう』
***
魔王の元へ向かう五人は緊張するものが二人、興奮するものが二人、何を考えているかわからないのが一人。
走っている途中、戦闘の前に言っておきたかったのか一人の青年が口を開く。
「うん、正義君。君は本当に戦えるのかい?」
振り返り、涼也は左腕を失った正義を見つめる。
「戦えるさ。引き金さえ引ければな」
右腕で牙天国綱を持ち上げ、涼也へ見せつける正義だが、涼也には依然不安を隠せない。
そんな二人を前に、三人は作戦会議という体をした言い争いをしていた。
「はっはあ、腕が鳴るぜ。今の俺様は魔将を倒して最高潮だからなあ」
「はあ、さっきまでアタシと正義が魔臣倒したことに文句言ってたくせに調子いいやつね……」
「何言っても俺様にはノーダメだぜ。魔王を倒せる任務を与えられたんだからなあ」
仄は先ほどの拠点でオイルを満タンにしてもらったライターのスイッチを弄る。
「何言ってんの? アタシたちの任務は足止めよ。倒せると本気で思ってんの?」
「ばーか。倒してもいいって近藤さんは言ってたんだぜ。んなら倒すしかねえだろ? なあ燐!」
緋奈の心配をなんてことないように思っている仄は彼の意見に味方してくれる燐に話しかける。
「ええ、ワタクシの剣がどこまでいけるのか、ぜひとも試してみたいので」
一見この中で冷静な部類に入っている燐だが内心は燻ぶっていた。自分がやったのは転送魔法陣の破壊。たしかに重要な任務だが強者と戦うのが好きな燐は魔臣や魔将を撃破したということを聞き、うらやましいと少し思っていたのだから。
まだ魔王に対峙していないにもかかわらず鞘に手をかける燐。
戦闘開始まで、もう少し。
***
「ここらへんかな。円盤の真下は」
ビルの屋上に立ち、前髪越しに真上を見つめるのは氷室彗。横には蔵王翔真、そして近くに浮遊しているのは天城由良と士道光。近藤の命令によりこの四人が円盤の魔法を止める役である。しかしこの四人全員が円盤内に直接攻め込むわけではない。
「しかしよォ、大丈夫なのかァ? 円盤の中に侵入するのはオレたち二人だけでよゥ」
「大丈夫大丈夫。さっき近藤さんに送ってもらった円盤内の構造は頭に入れた。翔真君は俺っちについてくるだけでいいさ」
「だがオレが使える式神はアレしかねえぜ?」
翔真が持っている式神は6つ。雷鳥、鼈盾、火燕、紐蛇、式神兵ともうひとつ。5つはすべて使い切ってしまい、もう使える式神は一つのみ。
「アレさえあれば円盤は落とせるさ」
近藤から魔法の破壊を直接命じられたのは彗と翔真の二人。由良と光は彼らが円盤内に侵入するまでの援護を命じられたのだ。少し不安げな翔真とは対照的に慧のほうは準備運動を始めており、まったく緊張している様子はない。
「あと30分前後で魔法陣は起動、さっさと動き始めないとねえ。光、俺っちたちを手に乗っけてくれ」
「わかった」
そう言った光は後ろに浮かんでいる六つのうち二つを広げ、飛行手段のない翔真と慧はその上に乗る。
慧は左腕に装着した腕時計のタイマーを設定。そこに書かれていたのは10分。そしてナイフを召喚し、右手のナイフの剣先を円盤に向け叫ぶ。
「さて、任務開始だ!」
由良、そして翔真と慧を手に乗せた光が全速力で上昇。
すると円盤側も破暁隊の接近を察知したのか、円盤の底の突起物が発光。破暁隊はそれに気づくも円盤はプラズマのようなものを三本発射させた。
由良と光は進行方向を転換、避けようとしたが円盤から出たプラズマは軌道を曲げ由良と光を追尾する。
「ちょこざいな!」
それに気づいた慧は持っていたナイフを投擲しプラズマを狙う。ナイフはプラズマに直撃し、プラズマは爆発したのち消失。しかしプラズマはもう一本ある。
発砲音とともにプラズマが爆発し彼らへの攻撃を防ぐ。慧が後ろをむけば由良がスナイパーライフルを構えていた。
親指を立て、感謝を伝える慧だが由良は無視。けれど慧は由良の先、円盤の底にある突起物が再び発光していることに気づいてしまう。しかもその発行する突起物は先ほどよりも三倍ほど多い。
破暁隊は全員が顔をしかめながら武器を構える。慧はナイフ、由良は狙撃銃、光は弓。翔真は先ほど拠点でもらった拳銃。
数は互角だと思った破暁隊だが、
唯ひとつの誤算。
プラズマは一本の突起物につき約三本ほど発射されたのだ。30を超えるプラズマが破暁隊に襲い掛かる。
目を開き驚きつつも何とか防ごうと全員が攻撃を仕掛けた。由良と翔真は発砲、慧はナイフを投げ光は四本ほど矢を創造し弓を引く。攻撃で十本ほどプラズマは消えるもまだニ十本残っている。顔をしかめる全員だが、
破暁隊の背後から約四十を超える弾丸の弾幕がプラズマの波を狙い、破暁隊への直撃を防ぐ。破暁隊が後ろをむけば銃を構えたたくさんの皇国軍兵士。
『作戦のことは聞いています! みなさん! 早く円盤へ!』
皇国軍兵士は破暁隊の作戦を聞いていたらしく、結界都市の上空にいた兵士は破暁隊の援護に来てくれたのだ。飛翔している兵士は愛沼の部下。彼を倒した魔臣を二人が敵を討ってくれたのだから兵士はその恩返しとして、そしてもしこの場に愛沼がいれば破暁隊を援護しろと命じるだろうと考え、行動を起こしたのだ。
四人は敬礼を彼らに向けた後、再び上昇を始める。円盤内に侵入できる入り口を発見した四人ではあるが、
円盤からではない、円盤の内部から魔法による一条の光が四人に発射される。円盤内にいる魔人が彼らの進入を阻止せんと魔法を放ったのだ。その攻撃で兵士が一人落下してしまう。
「翔真!」
光の手に乗っていた翔真が先ほどの魔法による奇襲でバランスを崩し、落下してしまったのだ。慧が翔真へ手を伸ばすももちろん届くはずもない。由良は魔法を放ったと思われる魔人をすぐに発見し、狙撃。光は上昇を止め、翔真を迎えに行こうとするが、
「慧は先に行けェ! オレは絶対にあとで追いつくからなァ!」
翔真の叫びに慧は己の任務を思い出す。すぐに円盤のほうをむき、光に命令。
「早く俺っちを円盤に運んでくれ!」
しかし光は慧と翔真のほうを交互に顔を向け、心配している様子。そんな光を慧は説得するかのように声を張り上げる。
「大丈夫! 翔真は来ると俺っちは信じてるから! まずは俺っちだ!」
慧の迫力に気圧されたのか、納得したのか、だがすぐに光も動き始める。慧を連れ、円盤の進入口に接近する。
だが円盤内へ続くだろう進入口が突如閉まり始めた。破暁隊が侵入しようとするのに気づいたのだろう。
「光! 俺っちを侵入口に向かって投げるんだ!」
慧の言葉を聞いた光は慧を乗せた手を振りかぶり、慧を思い切り投げる。
野球のピッチャーから放たれた球のように慧は飛ばされ、隙間がなくなっていく進入口になんとか入り込んだ。
空中にいる兵士や破暁隊につなげ、侵入に成功したことを報告する慧。
「氷室彗、円盤への進入に成功。これより破壊工作を開始する」
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