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第漆参話 『黎都・絢爛防衛戦・参』

「報告、2つの転送魔法陣の破壊、完了しました」


 黎都・絢爛のはるか上空。2つの人影が空中に浮遊していた。そのうちの片方、中学生かそこらの身長の少女が、隣に浮かんでいる金髪でショートヘアの女性にそう伝える。

 

「そうかい、いやあうちの軍団は優秀だねえ。さすがとしか言いようがない」


 爽やかな声で黎都・絢爛を見下ろす女性の言葉にお世辞などの感情が乗ってる気配は一切なく、本心からのものだと少女は感じ取る。この金髪の女性こそが、第五軍団軍団長なのだ。


「はい。まあところどころ口論は起きているようですが、戦闘に支障はないので大丈夫でしょう。このまま都市は守り抜けそうです」


「うん、予想以上の成果だ。ボーナスアップの進言でもしてあげようかな」


 己が統括している軍団の活躍に応えるためにいろいろと考える彼女の横で、少女は少し不安げな、何かを不思議に思う表情を浮かべていた。そんな少女の感情を察したのか、軍団長が話しかける。


「どうした、そんな暗い顔して。もしかしてボーナスだけじゃ足りないかい? けれど君は()()()()()()だからこれ以上の昇進などは無理だし、私がかなえられる願いなら頑張って……」


「そうじゃないんです」


 少女ともいえる身長の水芒師団団長、水御門(みずみかど)は軍団長と目を合わせる。その目には軍団長を心配するような感情を含んでいた。


「今日って()の日ですよね? あの人は今日が戦争と聞いたときから非常に怒ってましたけど、軍団長はそうでもないなって。もしかしたら無理をしているのではないかと……」


 水御門は今日が大事な日であることを知っていた。にもかかわらず惜しい感情などを見せない軍団長を水御門は疑問に思っていたのだ。しかし彼女の気遣いを聞いた軍団長は笑った。


「はっはっは! 私はいい部下を持ったな。私のプライベートにまで心配してくれるとは。確かに今日は大切な日だ。けれどね、私たちは軍人だ。ならば今このときは、敵を最後の一匹まで撃滅するためだけに精神を注ぐべきじゃないかな? 私自身は二の次だ」


 軍団長の言葉に水御門はさすがだ、とやっぱり、というふたつの考えが頭によぎる。常に混沌とした第五軍団を持ち前のカリスマで引っ張ってきただけのことはある。水芒師団団長である自分しかいない今でさえ彼女から湧き出るオーラは途絶えない。


(さすがです。安倍()軍団長……!)


 水御門の頭で軍団長への尊敬度が上がる。すでにMaxまで届いたつもりであったがまだ上がる余地はあるらしい。

 軍団長の背中に尊敬の視線を陰ながら送る水御門水芒師団団長だが突如彼女の顔色が変わる。後輩の表情から軍人の表所へと変化。

 

「軍団長。九時の方向からこちらへ向かってくる気配あり。圧からしておそらく魔臣」


 水御門水芒師団団長の職業は『ソナーマン』。彼女は『陰陽水之道・水玉』を結界都市のところどころに配置している。周囲の音は水玉を振動させ、その揺らぎを水御門水芒師団団長が『権利』により解析することで結界都市の状況をリアルタイムで把握できるのだ。それは地上だけでなく、空中にも水玉を浮かばせている。

 そのうちのいくつかで高速で飛翔する何かをとらえた。結界都市に浮遊している兵士は彼女ら二人をおいておらず、つまり水御門水芒師団団長が見つけたのは魔王軍のほかにない。

 水御門水芒師団団長は結界都市のすべてを把握する力を持っているが、戦闘力はそこまでない。さきほど土芒師団団長の転送魔法陣破壊に協力したものの、単独で撃破するというのは彼女はすこし苦手なのだ。

 そのことは桜軍団長も理解している。水御門水芒師団団長を守るように左腕を彼女の前に伸ばし、言い放つ。

 

「ここは私に任せな。西園寺は引き続き結界都市のサーチングを続けてくれ」


「西園寺って、私の旧苗字じゃないですか。師団長の座について今は水御門ですよ」


「私は水御門っていう堅苦しい名前よりも西園寺のほうが好きだよ?」


「もう……あなたはいつもそう……」


 頬を赤らめながら西園寺は魔臣が向かってくる反対方向へ飛翔。

 桜軍団長は腕を組みながら魔臣が来るのを待つ。


 十秒後、桜軍団長のもとにやってきたのは鎧を着こんだ黄金の鬣をたなびかせる獅子。背中には鷲のような翼をはためかせ、両手に持つは銀色の斧。鎧はただの金属ではなくところどころ割れており、そこから溶岩のような液体が流れていた。


「ワ……わが名はデュルクヴァング。魔王ゼノンの魔臣である」


 桜の前で翼をはためかせ飛翔する、デュルクヴァングと名乗る魔臣はその佇まいからおそらく師団長ですら一人で勝つことはできないだろうと考える。だからこそ軍団長である自分が戦わなければならない。

 目の前の魔臣は下にいる野蛮な魔人とは違い、獣の風貌をしているがすぐに襲ってきたりなどしない。

 

「貴様がこのマチの主か?」


「主、まあ強いという意味を表すなら、それは私だね」


「そうか」


 デュルクヴァングもこの結界都市に攻めてきた飛行強襲円盤(タバクイル)の実質的な船長である。つまり結界都市の最強と飛行強襲円盤(タバクイル)の最強が対峙しているのだ。

 腕を組み、不敵な笑顔を浮かべる桜軍団長と違い、デュルクヴァングは緊張を解かない。


「…………ワタシは魔臣だ。にもかかわらずワタシですら無意識に警戒してしまうような(プレッシャー)を貴様から感じる。なぜだ?」


 デュルクヴァングと対峙する軍団長は一見ただの女性だ。けれどその後ろにはまるで巨大な鬼神が見える。それほどまでに恐ろしい。魔王軍(自分たち)への敵意ではあるが、笑ってもなお感じるこの圧は、親を殺されただとか、故郷を燃やされた類のものではない、それ以上のナニカを秘めている。


「そうだね。西園寺にはああ言ったけど、私は内心怒っているんだ。()とのデートという晴れ晴れしい幸せな時間を、貴様らのような野蛮で下劣な存在と戦う羽目になったことにね」


「でえとだと?」


弥生(やよい)はね、かわいいんだよ。いつもぶっきらぼうで顔色一つ変えないけど、私と会うときほんの一瞬みせる仄かな笑顔が愛しいんだ。思わず抱きしめちゃうような、温かい気持ちになる。だからこそ彼との邂逅を邪魔した魔王軍は……」


 桜軍団長は両手で印を結ぶ。まるで恋人つなぎのような形を。その瞬間デュルクヴァングが感じる圧が変わる。敵意ではなく、明確な殺意。


「全部滅んでしまえばいい」


 その瞬間、彼女の背後に10を超える太極印が出現。現れたと思えばすさまじい速度で回転、白と黒が混ざり合い、灰色の円となる。しかし徐々に黒い要素が消え、明るくなってゆく。

 攻撃が始まると悟ったデュルクヴァングは翼を動かし、桜軍団長になにもさせまいと動き出すも、桜軍団長のほうが早かった。


「陰陽()之道・照御手(てるみて)一式」


 桜の背後にある円から、士道光が魔臣へ放った「貫空之型」ほどのレーザーがデュルクヴァングへ発射された。速度はデュルクヴァングがこのレーザーを脳内で認識するとともにデュルクヴァングへ着弾する。

 着弾と同時にデュルクヴァングを中心に爆発。だがその煙からデュルクヴァングが飛び出した。どうやら先ほどの攻撃では仕留めきれなかったらしい。しかし体には焦げ跡があり、痛みを耐えるようなっ表情を浮かべていることから無傷というわけではないようだ。

 桜軍団長はデュルクヴァングの高度より少しだけ降下したのち、再び太極図を展開、回転させる。


「陰陽()之道・照御手(てるみて)三式」


 回転した太極図から今度はひとつの太極図につき5つの細い光線がデュルクヴァング狙い発射された。ひとつひとつの光線がデュルクヴァングへと向かい、デュルクヴァングは桜軍団長へ近づくどころか避けるので精いっぱい。だが避けられてはいるのだからさすがと言うべきだろう。

 しかし桜は悔しがることなく、ただ一心にデュルクヴァングの行動を観察する。同光線を放てばどう動くかを頭の中でデータ化。

 30秒後、右手の人差し指をデュルクヴァングに向ける桜第五軍団長。


「陰陽()之道・照御手(てるみて)


 人差し指の先に生み出した小さな円。ここから一条の細い光がデュルクヴァングへと進む。この光はまるでデュルクヴァングの動きが分かったかのように、デュルクヴァングの行き場に置かれたような攻撃だった。

 光線はデュルクヴァングの脇腹を貫通。これまでで一番の苦痛の表情を浮かべるデュルクヴァング。


(ふざけるな、なぜこの私がこのような屈辱的なことに……!)


 デュルクヴァングはサンメゴ王国魔王の側近のひとり。魔王が魔王になる前から仕えてきた名家の一族である。そんな名門の彼が数週間前前には魔王ゼノンに負け、そして今は人間の女一人に劣勢となっている。誇りを大事にするデュルクヴァングにとってこれほど我慢ならないときはない。

 だから今このとき、あの桜第五軍団長には勝つために『魔法』を発動。


「ウオオオオオオ!」


 額の魔法陣が発光、雄たけびを上げると共に体を燃え上がらせる。鎧はその熱で溶け始め、手に持っている銀の斧は炎のせいで金色に輝いているよう。

 危険を察知した桜第五軍団長はすぐさま陰陽()之道・照御手(てるみて)を発動。約五十の光線が発射される中、魔法を発動させたデュルクヴァングはそれをすべて回避しながら桜第五軍団長へと接近。飛行速度も先ほどより上昇している。

 回転太極図の数を増やし、攻撃の頻度を上げるも全く当たらない。

 やがてデュルクヴァングは全身から立ち上る炎を斧に集中させる。炎で固まった斧はよほど熱いのか赤い炎から白の炎となった。

 斧を大きく振り上げ、桜第五軍団長へ振り下ろす。

 

 衝撃音と衝撃波が黎都・絢爛中に響き渡る。


 何人かの兵士が上空を見上げれば桜第五軍団長は、




 何食わぬ顔で攻撃を防いでいた。3つの太極図から放たれる光がバリアのように展開し、デュルクヴァングの斧は桜第五軍団長に届くことはなかった。おそらく全力の一撃だったのだろう。それを防がれたのだからデュルクヴァングはあきらめたような、絶望したような表情を浮かべてしまう。

 

 まるで瞬間移動のように桜第五軍団長はデュルクヴァングの眼前に出現し、彼の顔を左手で掴む。


「陰陽()之道・照御手(てるみて)


 桜第五軍団長の左手が発光。

 このままデュルクヴァングを焼き尽くそうとした瞬間、デュルクヴァングは遺言を残した。


「……貴様らが勝つことはない。あと【でくとろおぜ】をもって円盤に込められた魔法陣が発動するからだ」


「なに?」


 詳細を聞く前に、照御手(てるみて)が発動。

 地上で桜第五軍団長を見つめていた兵士はまるで太陽を見つめてしまったときのような眩しさを感じてしまう。光が消えれば、桜第五軍団長の左手には何も残らず、上半身が溶けたデュルクヴァングの死体が地上に落下していた。

 戦いに勝った桜第五軍団長だがその顔は戦う前よりも険しい。自分たちの知らない何かがあるという不安が彼女を襲った。


「念のために総司令部へ知らせておこうか」

第漆参話を読んでくださりありがとうございます!


桜さんと弥生君の過去はまあ重いです。


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