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第陸弐話 『共闘戦線〈狙撃手ト弓手〉・壱』

 戦争より一週間前、最後の補習を行っていた仄は小川先生。

 一ヶ月の訓練のたまものか、仄は小川先生と対等に戦うことができていた。最初は避けるだけだった小川先生の殴りも、今はカウンターを返すところまで成長。小川先生としても彼がここまで強くなるとは思っておらず、最初は先生としての義務として行っていたこの組手も今では戦争に向けての訓練として捉えていた。

 組手を初めて3分、お互いの炎が舞いながら二人が戦う。どちらかが拳を放つたび火花が飛び散り、どちらかが蹴りを放てば炎は竜のような軌道を描く。小川先生は腰を下ろし、右の拳に熱を溜める。


 「最後にしましょう。この技で生き残ることができればあなたの勝ちです。陰陽火之道・蜃気炎(しんきろう)


 仄の目に映る5つの正拳。

 このうちひとつは実体を持つがほかはすべて陽炎(かげろう)。目では判別できない。ならばなにで見極めるかは陰陽火之道のみ。

 

『陰陽火之道は攻撃だけではありません。熱を察知することで、魔人でいう第六感を再現することもできるのです』

 

 仄は目を閉じ、真実を感じ取る。避けるという選択肢もあるが仄はそんなもの選ばない。

 

「これだ!」


 向かってくる5つの拳のうち、仄が違和感を覚えたひとつに殴り掛かる。

 ぶつかり合うふたつの炎。


「……正解です」


 仄の左手は小川先生の拳をとらえていた。

 

「私の技を見極め、そして炎によって強化された私の拳も防いだ。あなたの勝ちですよ」


 姿勢を整え、炎を消した小川先生は仄にそう伝えた。

 彼女の言葉を聞いた仄は腕を大きく上げ喜びの雄たけびを上げる。

 

「しゃああ! おれ、いや俺様の勝利じゃあ!」


 先生が目の前にいるにもかかわらずいつもの態度に戻る仄。小川先生も彼の成長をともに喜ぶ。


「よくできましたね。あなたはおそらく一ヶ月の自分と比べ物にならないほど強くなっています。これからも精進……」


 先生らしく仄に言葉を述べようとしたが仄は彼女のお言葉を遮るかのように大声で感謝を言う。


「ありゃした!」


 そう叫んで武道場の結界から出る仄。

 およそその言葉に誠意が込められているとは思わないが、彼なりに頑張ってきたのだ。ここで説教をするのは野暮というものだろう。彼の背中を見つめる小川先生だがひとつ事実に気づく。彼はずっと自分に向かい合っていた。決して逃げなかった。


「いい青年ですね。摩利支天祭にでるのならば、弟子にしてもいいでしょう」

 


 ***



 魔将と狼、両方の心臓がつぶれたことにより、翔真と仄が対峙した魔将は活動を停止。

 勝利したことの喜びたい衝動を何とか抑えながら二人は合流。しかしやはり勝利の余韻は隠しきれず、お互い声は出さないが表情には歓喜の気持ちが浮き出てきた。

 

「んで、どうする? このあと」


 仄はにやつきながらも今は戦争中だと自覚しこれからの方針を翔真に尋ねる。


「まず臨時基地へと行こうぜェ、もうできてるらしいからなァ」


 翔真と仄が戦っている間に、オペレーターの尽力もあって結界都市ではいくつか対魔人のために臨時基地が作られていたのだ。

 二人はいったんそこを目指すことにする。


 仄が走り始めようとしたがその前に、翔真が仄に向けて拳を向ける。一瞬意味が分からなかったがすぐに何をすべきか理解し、仄も拳を突き出して合わせた。


 無言の賞賛ののち、二人は走り出す。

 

 

 二人が走っているはるか上、結界都市の空では飛翔する魔人と烈攻師団が激しい戦いを繰り広げていた。空を飛んでいる兵士は魔王軍と大日輪皇國軍含め二種類。ひとつは剣や爪など、飛び回りながら近距離で戦う兵士、そしてもうひとつは魔法、重火器等で遠距離攻撃を行う兵士。魔人はこの結界都市にやってきた飛行円盤を守るため、大日輪皇國軍はその円盤に侵攻するためという戦闘が起きていた。

 

 今のところ優勢となっているのは大日輪皇國軍。ばらばらに向かってくる魔人勢と、空中で隊列を組み、戦術を駆使して戦う大日輪皇國軍とでは差は歴然。このまま何も起きないでほしい。魔人を落とし、そしてあの円盤を攻略したい。もしかしたらまだ見せていない力を持っているかもしれないし、再び転送魔法陣を展開されるかもしれない。

 だからこの結界都市の上空で部隊を指揮し、自らも前線で魔人を撃破していた兵士、愛沼は常に円盤のほうを意識していた。

 愛沼が新米兵士だったとき、似たような状況に陥ったときを思い出す。あれは結界都市ではなく戦線での出来事だったが、敵軍が転送魔法陣を中心に要塞のような建物を作り、そこに攻めていたときのこと。

 要塞から出てくる魔人に気を取られ、要塞から飛んできた巨大な魔法光線に片足を消し飛ばされたのだ。

 あのときは結界に逃げ込んだおかげで完治はしたが、それからというものの目の前の敵だけでなく、周囲にも意識を配ることにしている。

 

 愛沼へと飛んでくる3匹の魔人。

 彼らを認識した愛沼はすぐに両手の銃剣を構え、天翔武鎧のブースターを起動。加速し、すれ違いざまに右手の剣で魔人の首を、そして左手の銃剣の引き金に指を添えて魔人の頭に風穴を開ける。

 残り一体。すぐに右手を銃剣で狙い撃とうとしたが、最後の魔人の側頭部に薄く光っている矢が刺さった。次の瞬間矢が刺さった部分に六条の光線が収束し、魔人の首が飛ぶ。


 愛沼が横を見ればはるか向こうに浮かび、特徴的な弓を構えている光の姿。彼を援護してくれたのだろう。その精密な狙撃に愛沼は心の中で称賛する。訓練を頑張ってきた兵士なら魔人に当てることはできるだろうが、首に命中させるのは愛沼でもさすがと言うほかない。

 

 一方士道光のほうは矢を撃ったあと、なにやら独り言をつぶやきながら魔人の群れを見つめる。


「……数が多いな。一体一体潰していてはキリがない。…………そうだ。型を変えるぞ」


 左手に矢を創造し、弓を構える光。これ以上にないほど強く弓を引いた光だが、まだこれだけでは遠くにいる魔人たちにあたっても刺さるとは限らない。だからこそもっと飛距離を伸ばすために弓へ指令を下す。


「回れ弦輪。数は二(かぎ)


 光の言葉とともに弓の弦に備えつけられ、側面を糸が通っているふたつの歯車が回転。

 カコン、という澄んだ音とともに歯車は弦を締めるように2歯ほど動く。キリキリと歯車がきしむ音とともに光の弓を弾く腕が震える。

 それほどまでに少しでも気を抜けば矢は発射されるのだ。


「一発で一匹だけでない。より多く巻き込む()でいくぞ。『流星之型』」


 光の背後に浮かんでいる6つの巨大な手は光を中心に大きく手を広げ、まるで花のよう。

 ピン! と光の放った矢が空を切る。その速度はさきほど愛沼を援護したときに放ったものよりも数段速い。魔人の群れの中を矢は飛び続けるがなにもてきとうに撃ったわけではなく、狙ったのは光から見て射程距離ぎりぎりにいた魔人。


 光が狙った通りの魔人に矢が命中。矢が魔人へ刺さった瞬間に光の後ろに浮遊している「手」の指から光線が発射。ビームともいうべきその光は大きく曲がるような軌道を描きながら光が撃った矢に収束するような形をとって進む。その間、ほとんどの光線は矢が命中した個体ではなく、その手前で群れを組んでいたたくさんの魔人に衝突。光が言った、多く巻き込むというのはこのことをいったのだろう。

 現に1回の射撃で15を超える魔人をしとめることができたのだから。


 このまま二射目を撃とうと矢を作ろうとした光だが、


 プレッシャーが光を、いや空で戦っていた大日輪皇國軍の兵士全員が感じ取る。


 その圧の出どころを見れば佇んでいたのは……

第陸弐話を読んでくださりありがとうございます!!


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