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第陸拾話 『共闘戦線〈炎使イト 獣使イ〉・伍』

『簡潔に言う。たぶんこのワンコとそっちの魔将、両方同時に殺さねえと倒すのは無理だぜ』


 仄からの連絡を聞いて翔真は焦る。

 ただでさえこの魔将との戦闘劣勢。戦線での戦いで持っていた予備の式神兵も使い切り、相手の攻撃を籠手盾で防ぐほかに何もできなかった。右手に装着した式神「雷鳥」による雷の弾丸も魔将には見切られ防戦一方。今考えている『必殺技』ならばこの魔将の心臓を撃ち抜くことはできるものの、遠くにいる仄と連携することは翔真にとってこの上なく難しいこと。

 なにより仄がこの報告をしたということは仄が少なくとも一度あの狼を殺したということだ。

 自分がグダグダとしている間にライバルは先へ行く。


 魔将による四連撃。

 すべて籠手盾で受け流す。

 が、


「なにィ!?」


 4つの攻撃のあと、なんと五連撃目の矛が翔真へと接近。まさか五連とは思わず、このままでは魔将の刺突が翔真を貫くだろう。雷鳥を解除し、結界に逃げ込む用意をしようと手を懐に伸ばしたそのとき、


 魔将が止まる。まるで激痛が体に走ったかのように身体をゆがめて。困惑しつつもすぐに後退して雷鳥を再展開。

 

(本当になさけねえェ、合同訓練に時間を割きすぎたかァ? いや、今はこいつに勝つことだけ考えろォ!)


 後悔が心に芽生え、しかしすぐに目の前の敵に集中しなければならないと切り替える。籠手盾ではただ防ぐことすらせず、雷鳥もただ雷を撃つことしかかんがえられない。他の使い方を何も思いつかないと心の中で悩むたび、翔真は思う。


 自分には才能がないと。



 ***



「才能あるよ、彼」


 4年前。

 大日輪皇國軍のとある和風旅館を模した結界の中。

 そのなかのひとつの客間で白髪の生えた一人の老人とスーツを着た青年が向かい合って座っていた。

 才能がある、といったのは老人のほう。

 彼は『幽玄廷』の一人、『一進撃滅』古良(こら)(たけし)

 背もたれに肘を置きながら話す姿は一見だらしないが彼がまとう雰囲気は強者のそれ。現に彼の前に座っている男性、大日輪皇國軍で人事を管理している局員は少し気を抜けばそのまま噛み千切られてしまうのではないかと内心ひやひやしている。

 それでも局員は仕事のため、『一進撃滅』のもとを訪れた。新しい弟子を拾ってきたというのだから、人事局として軍に入る人間がどんなものかを確認しなければならない。


 「才能……とは?」

 

 「文字通り俺たち『式神使い』に必要な才能さ。なんだかわかるだろ?」


 わかるかよ……専門外なんだから、とマイペースな老人に腹を立てながら落ち着きを取り繕って返事をする局員。


「さあ、式神の使い方……とかでしょうか?」


「はずれ、まあ赤点だな。正解は『式神を使うための容量(キャパ)』だ」


容量(キャパ)?」


 姿勢を正しながら聞く局員に古良は頼んだ日本酒をお猪口に注ぎながら答える。


「式神が使える数って言ったらわかる? 翔真はその容量がとんでもねえんだ」


 お猪口に注いだ酒をぐいっと一飲みして、局員と目を合わせる古良。


「皇國軍が式神使いの適性を判断するために俺を使う理由はわかるな?」


「それはまあ、確かあなたの式神を使うんでしたよね?」


「正確には非戦闘用の式神だけどな。ところで今、お前さん何か()()()()?」


 古良の言葉の真意がわからず、しかし局員が見えるのはもちろん目の前の古良のみ。


「いえ、なにも……」


「じゃあお前には式神使いの適性はないなあ」


 頭にはてなが湧き続ける局員へ古良が説明。


「おれの周りには小人のような形をした式神が百匹いる。見える式神の数によって、適性が分かるのさ」


 古良はそう言うが、実際に見えないためいまひとつ納得できない。

 けれど当人である彼が言うのだからそうなのだろう。

 

「適性がない奴はお前のように何も見えない。式神が『使える』奴が見えるのは一、二匹。十匹見れば『式神使い』に就ける適性があるのさ」

 

「なるほど。して古良さんが見つけた弟子が見えたのは?」


 局員の質問に対し、古良はもったいぶったように溜めをつくったのち、口を開く。


「50匹」


「なっ!?」


 就ける五倍の数を出され、式神のことは何も知らない局員ですらその数値が異様だとわかる。

 

「すごいだろ? 50も見えれば一度にもてる式神の数は6とかじゃないか? 容量だけじゃない。式百伝獣のうちひとつと相性がいい。しかもその式神は千年の間使うことのできたのがたった3人しかいない超レア式神だ。さらに式神兵もつかえるときた。「姉弟子の綺羅(きら)ですら最初に出会ったときは17匹。現軍団長を審査したときは36匹。つまりポテンシャルだけで言えば『軍団長』すら狙えるだろう」


 翔真のことについて話す古良は弟子を見つけた師匠というより、もっと邪悪な、でも純粋な顔だった。よほどこれからの弟子の成長に期待しているのだろう。


「その……彼の名は?」


「蔵王翔真」



 ***



 『式神使い』の才能があると信じる師匠とちがい翔真は、自分には『戦闘』の才能がないと思っている。古良師匠の訓練をしていくなかで彼は()()絶望した。

 曰く、


『オレは教科書通りのことしかできない』


 数学で公式は覚えても実際に使うことは全くできないし、英語の単語や接続詞、副詞の意味や使い方は知っていても文に起こすことはできない。確かに一般のなかにもそれが苦手な人種はいるが、彼はもっとひどい。剣道で『面』しか習わなければ、彼は『面』しか使わないだろう。竹刀で防ぐことも、横に切ることも言われなければ気づかない。

 

 だから彼が使う式神も過去たくさんのやりかたが研究されたものが主。

 銃もそうだ。ただ照準を合わせて狙うという単純な構造だから彼は愛用しているのだ。

 

 十年間独学で技を()()()()()()()仄とは真逆。何も生み出すことができない、ただ過去に沿うだけ。

 それが蔵王翔真。

 

 ………………

 …………

 ……


 三週間前、翔真は彗と戦闘訓練を行っていた。


 結界内は都会を模したビル群。

 翔真はその狭い路地裏の中で目の前を走る慧を追いかけていた。

 右手の「雷鳥」で慧の背中を狙うも、いざ撃とうとするときには交差する道にそれ、決して撃たせてくれない。

 追いかけっこを初めて五分。

 ようやく慧が大通りへ飛び出す。そこまで行けばもう簡単。広いところでは翔真が持つ式神で有利に立てるからだ。翔真も路地裏をぬけようとしたそのとき、足に何かが引っかかる。

 まるで糸のようなもの。下を見ればそれは……


 ピンがある慧の爆小刀。


 爆発は広いところよりも狭いところのほうが威力はたかい。翔真がいるのは路地裏。

 つまり……


『蔵王翔真ノ『死』状態ガ確認サレマシタ。決戦之型ヲ終了シマス』


 死亡状態となった翔真の肉体が回復していくとともに周りの地形も復活。尻を地面について座り込む翔真に慧が手を差し伸べる。


「まさかナイフをトラップのように仕掛けるとはなァ。よう思いつくぜェ……」


「ふっふん! 引っかかってくれて俺っちもうれしいよ!」


 慧の手を取る翔真。

 彼は負けたことよりも、慧の固定観念にとらわれない柔軟な発想に羨望をおぼえていた。もし翔真が慧のナイフを武器にしても、おそらく投げる程度のことしか考えないだろう。


「どうしてそんな考えができるんだァ?」


「ん?」


「オレは教科書で書かれていることしか何もできない。斬新な発想だとかが、よくわからねェ」


 仄が補習でいない間、翔真はよく慧と戦闘訓練を行っていた。日常でもよく一緒にいるため個人の不安を吐露してもいいと思えてしまうぐらいの信頼関係は築いている。


「どうしてって言われてもなあ、アイデアってのは勝手に湧いて出るもんだし……」


 顎を抑えて悩む慧。

 まあ予想通りなにも解決策はないと翔真は諦める。式神使いとして何か変わらなければと翔真自身考えていた。鍛錬を積み、使い方を学ぶ。地道な努力は無駄だと考えているわけではないが、翔真が欲しかったのはいわゆる『スパイス』。劇的に彼を変えるナニカが欲しかった。


()()()に頼んでも何も得られなかったァ。やっぱりオレは才能がねえのかなァ)


 ため息とともに悲観しながら呆然とする翔真。彼の不安は慧にも伝播し、このまま黙っているのは申し訳がないと考えた慧は慧らしくアイデアをひねり出す。


「じゃあさ、君自身の教科書を作ってみれば?」


「は?」


「俺っちにくらった技、他の破暁隊メンバーが使っていた技を戦った後にメモしとくんだよ。斬新なアイデアなんてそうそう思いつくものじゃないし、じゃあ湧く訓練だなんて言われても多分無理だと思う。今やれる精一杯のことは、誰かのアイデアをパクることじゃないかな? それなら、翔真にもできそうじゃん? ある意味、君の教科書さ」


(他人のアイデアを使う……それならできるかもしれねェ……)


 翔真にとってはそれが大きなスパイスではなかったかもしれない。

 それでも新たなやり方は見えた。地道な努力が彼は嫌いではない。一歩一歩踏み出すことは翔真のひとつの強みだと自認している。ならばその一歩の数が増えるだけだ。

 式神使いとしての鍛錬、軍人としての鍛錬。これに他人からの戦い方の学習という項目が増えただけ。強い刺激(スパイス)とはならなかったが少なくとも()は多少変わったのではないだろうか。

 


 ***



 魔将と対峙する翔真は訓練を思い出し、悩みを捨てる。

 

 (そうだァ、ない才能を欲しがっても意味はねェ。今やるべきはアイデアを作るんじゃなく、学んだことを実行する。それならできるだろォ? 翔真!)


 ないものはない。使えるものを最大限使う。そして今翔真が持っているのは式神だけではない、訓練中にみんなから学んだアイデア。

 敵を倒すこれからのプランを考える。

 魔将の心臓にこの技をぶち込むためには式神だけじゃ足りない。

 いつ、どのタイミングでどの式神を、そして技術を使えばいいかを、魔将と戦いながら頭の中で組み立てる翔真。と同時に仄から()()()()()が来た。


 その瞬間、ゴールを発見。


 仄へと連絡する。

 


『仄ァ! この戦いを終わらせるぜェ!』

第陸拾話を読んでくださりありがとうございます!!

過去を振り返ることしかできない翔真はクリエイティブに戦おうとしたんですね。

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