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第伍漆話 『共闘戦線〈炎使イト 獣使イ〉・弐』

 魔人の群に向かって仄が突撃。両手に火を携えながら。近づくにつれ彼は両手を合わせ始める。


 前方で敵陣に向け発砲している兵士たちの横を走り抜ける仄。急に前方に味方が現れたのだから兵士はもちろん驚いたし、銃弾が当たらないよう一旦射撃を止める兵士たち。自分ではなく、お前らの方が遠慮しろと言わんばかりの仄の傲慢さは健在だ。けれど仄は後ろの兵士を意識せず、ただ今は両手の間の中にある炎を燻ぶらせるために集中。


 敵陣まで目前の仄。

 仄は距離を詰めた“その瞬間”、両手を魔人どもへ向ける。手首をつけたまま手のひらを開き、まるで花が咲くような形。手を広げた中心には小さな火種。ゆらめく炎を、仄は溜めていたものをすべて開放するかのように爆発させた。


「陰陽火之道・大火花(おおひばな)!」


 仄の両手を中心として、直径五メートルを超える大きな赤色の花が咲く。花を前面に押し出したまま、仄は敵陣へと突撃。

 

 こちらに向かってくる巨大で熱を帯びた花に魔人たちはたじろぐも仄は止まらない。花から放たれる熱は周囲10メートルを覆い、その範囲に入れば通常のサウナなど比較にならない灼熱に包まれる。進んで近づきたくない魔人たち。そんな彼らに仄は熱と火を押し付けるように進む。ある魔人は焼かれ、ある魔人は火を恐れて立ち止まる。しかしそのまま突き抜けることはできず、背後に回った魔人らによって仄は囲まれてしまう。

 それでも仄の顔には余裕の文字。仄は手の花を大きく上に掲げ叫ぶ。


「くらえや魔人! 陰陽火之道・風媒散布(ふうばいさんぶ)!」


 今度はなんとその花を地面に叩きつけた。


 その瞬間花型の炎は大きく燃え上がり、爆音とともに拡散。まるで花火のように無数に散らばった火の玉が仄を囲んでいた魔人たちに命中。咲いた花が風によって種を撒き散らすように火の粉は舞った。

 これにより仄の周囲の魔人を撃破。



火燕(かえん)、突!」



 炎をまとった鳥が風媒散布(ふうばいさんぶ)で仕留めきれなかった魔人にぶつかり、撃破していく。だがこれは仄のものではない。翔真の式神である。縦横無尽に飛び回る火鳥を魔人が捕らえることはできない。

 二人の尽力によりこの「場」での軍の勝利はほぼ確定。あとは兵士でも倒せるだろうと考えた二人は合流して魔人の群れを抜ける。彼らの後についていくものはなし。

 それほどまでに二人は魔人の群に大打撃を与えた。

 

 走り始めて1分。

 二人が走っていたのは大通りだがその脇から伸び、ビルの壁にふれる手を彼らは視認。ビルの三階付近に手をかけているから巨体だということはわかる。

 だがそれにしてはその手は小さい。人より少し大きい程度か。

 理由はすぐにはわかった。

 

 魔人が顔を出す。

 薄黒い肌に吊り上がった黄色の目。細長い舌を口から出している。上半身までは人間と同じだが下半身が蛇のように伸びており、さながらランプから出てくる魔人のよう。

 両手で持つのは長い矛。


 二人は魔人、いやその圧からおそらく魔将、を警戒するが驚きはこれだけではなかった。

 


「グルルルルル……」


 狼。

 黒い毛並みをした、足から背まで翔真が手を掲げても届かないほどの高さの狼が唸っていた。


「魔将は二体いるのかァ?」


 そう呟いた翔真だが魔将が姿を見せるにつれ二人は目を見開く。


「なんだあの魔将……」


合成獣(キメラ)ァ……なのかァ? おおよそ普通の生命体じゃあねえなァ?」


 人型の魔人と獣は()()()()()()()。人型の上半身、伸びた下半身につながる獣。しっかりと形容するならば獣の背中に人が生えていると言った方が正しいか。二つで一つの魔将が翔真と仄に敵意を向けている。おぞましい様相の魔将だが二人は臆することなく対峙。


「人と獣の合体、そしてこっちも二人いる。つまりどっちかが人と戦ってどっちかが獣と戦う、だな」


「同感だァ……で、お前は人型と()りたいんだろォ?」


「へっ! わかってるじゃねえか……」


 拳を鳴らしながら魔将を睨む仄。

 呆れながら納得しようとしたそのとき、なんと魔将が瞬間移動かと思うほどの速度で二人へ接近し、矛で突き刺そうとしてきた。

 攻撃に気づいた二人は、翔真は左へ、仄は右へと跳んで咄嗟に回避。よく見れば魔将の下半身が伸びていたのだ。魔将は回避した二人のうち、翔真のほうに矛を向ける。


「オレかァ!」


 自身に攻撃が来ることを察した翔真は突いてくる矛を切り抜け、火燕(かえん)に命令。


火燕(かえん)! 撃!」


 翔真の周りで旋回していた鳥が魔将、その顔面へ突撃。だがこれだけでは攻撃は通ると思ってはおらず、すぐに新たな式神を召喚。


鼈盾(へつじゅん)、来いィ」


 札が燃えると炎は左手にまとわりつき、亀の甲羅の形をしたドーム状の籠手盾が出現。

 翔真の予想通りやはり火燕(かえん)如きでは傷一つ与えることはできず、魔将は攻撃に転じる。魔将の矛が翔真の胸を狙うも翔真は籠手盾を構えてそれを防いだ。籠手盾は壊れなかったがその勢いのまま後ろへ吹き飛ばされる。


「よしィ、見える、反応できる、戦えるゥ……」


 翔真は式神使い。

 それゆえ近距離戦を得意としない。けれど近距離で戦えるのはやはり破暁隊のメンバーと訓練をしてきた成果だろう。

 

「仄ァ! 人型はオレがやるゥ! てめえは狼と戦いやがれェ!」


 翔真と魔将のやり取りを見ていた仄へ翔真が伝達。仄は一瞬怪訝な表情を浮かべるもすぐに狼の元へ走った。


「さてェ、火燕は効かねえとなると……持ってる手()で有効なのはこれしかねえか」


 くねくねと下半身を揺らし、不規則に動きながら魔将の攻撃は続く。

 それをあるときはよけながら、またあるときは籠手盾で防ぎながら凌ぐ翔真。攻撃が続く中、魔将は上空に体を移動し、そのまま矛を体ごと振り下ろした。落下のエネルギーも加わったその一撃は一瞬防ごうと思った翔真だがすぐに回避を選択。

 理由としては過去の経験。

 式神鼈盾(へつじゅん)は長らく翔真の愛用武器だったが、訓練で涼也と戦ったとき彼に烈震(れっしん)を放たれた。


(涼也の烈震(れっしん)鼈盾(へつじゅん)で防いだとき、籠手盾は耐えても体が衝撃に耐えられないことがあったなァ。経験しといてよかったぜェ)


 今回もそう。

 防がなければいけない攻撃はしっかりと判断しなければならない。欲張ってはダメ。特にこの、鼈盾(へつじゅん)に関しては。


 翔真は一枚の札を取り出し、さらに式神を召喚。


「来い! 雷鳥(らいちょう)!」


 札が燃えると今度は炎ではなく、雷をまとった鳥型の式神が出現。翔真が右手を伸ばせば鳥は大きな雷の塊となってその右手にまとわりつく。


「さて、本気(まじ)で行こうかァ!」


 ***

 

 そして仄は横を見れば魔将の下に引っ付いている狼が魔将を助けるためにこちらへ駆け出していた。人の命令であり不満を感じていた仄だがこの場合何が正しいかは彼でもわかる。


「しかたなねえか……陰陽火之道・点!」


 ライターを着火させ、仄は狼に駆けだした。

 狼も接近してくる仄に気づき、魔将のほうから方向転換、仄ににらみを利かせながら四足で走り出す。


「さあ来いや犬っころ! 陰陽火之道・炎拳(えんけん)!」


 ライターの火を思い切り掴み、左手を炎上。さらに左手の炎を右手にも移す。左の拳を強く握り、その上から右手で左手を握る。

 狼はその大きな爪の生えた前足で仄に殴り掛かるが仄はあえて加速し前足が振り切る前に狼の腹の中へもぐりこむ。


 左手に力を溜め、だがそれを右手で抑える。まるで手を使ってばねを縮ませるように。さらに右手で育てた炎を左手に送り返し、炎は左手の奥へ溜めこんだ。だがもしばねから手を離せばどうなるか。

 それはもちろん、ばねは大きく飛ぶ。

 


「陰陽火之道・煉拳一発(れんけんいっぱつ)!」



 右手の力を弱め溜め込んだ左手を、その中にある炎を巻き込みながら狼の腹を一発殴る。

 その衝撃で狼は一瞬ではあるが空中に浮き、痛みで苦悶の表情を浮かべる狼。


 一撃を放った仄はすぐさま狼の下から抜け出し、ライターを点火、手を燃やす。手にある炎へ意識を向け、薪をくべるように炎に勢いをつける。

 

「陰陽火之道・(れん)

 

 怒りで顔をゆがめながら仄を睨む狼。

 しかし恐怖は感じない。

 特別訓練を受けた仄は、一ヶ月前とは比べ物にならないほど強くなっているのだから。

第伍玖話を読んでくださりありがとうございます!


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