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第伍肆話 『共闘戦線〈勇兵ト緋乙女〉・伍』

 壁に空いた穴から緋奈は自信満々に飛び降りる。

 続いて正義も。

 魔臣を見下ろす二人だが、道路にはあの騎士型の魔臣だけではない。彼が連れてきたであろう十数体の魔人が道路に立っていた。獲物である緋奈を見つけた魔人は一斉に彼女を襲おうと走る。


 地面に着地した緋奈は腰を低く落とし、まるで抜刀のような構えをとる。人差し指と中指をぴんと伸ばし、意識を指先に集中させて息を大きく吸う。

 これから行う攻撃をより鋭く、より強くイメージ。

 心技体すべてがそろった瞬間を感じ取った彼女は右足を前に踏み込み、向かってくる魔人の腹付近を()()()。完成された絵画に、一本巨大な線を入れるように。



「八坂血戦式・紅三日月(アカミカツキ)



 緋奈が腕を薙ぐと指先から薄く巨大な緋色の斬撃が魔人を両断。人並程度の強度の魔人も、岩のように頑丈な魔人もすべて彼女の一撃に伏せた。半身がわかれ、切断面からは大量の出血。緋奈と正義そして魔臣、その間に生まれた血の川。


 最初に渡ったのは緋奈。堂々と血だまりに足を踏み入れる。ポチャリと緋奈の靴に血が触れた瞬間、緋奈は大きく腕を広げた。指を獣のように曲げ、地面へと向ける。赤子に慈愛を向ける女神のような、しかし自らに縋りつく罪人を蔑むような恐ろしい表情。彼女の口は笑み。

 

「我ニ従エ、醜キ汚キ凡族ノ血ヨ。諸君ラハ我ラ高族ノタメニ謳イ、踊リ、滅ビルガ義務」


 緋奈が傲慢な詠唱を呟くと、魔人たちの血が波打ち始める。指揮者のように彼女が腕を振るえばそれに呼応して血は動く。つまり魔人が流した血は彼女のものとなったのだ。

 八坂家の吸血鬼のほとんどは自分の血しか操れず、訓練次第で他人の血も操ることができる。

 しかし魔人の血となると話は別。種族も、成分もなにもかも人間の血とは異なっているため操るのはほぼ不可能。ほとんどの分家は人間の血をパックに詰めて戦闘時に取り出すのだ。

 けれど今の緋奈はそれができる。魔人の血を操れるようになった要因のひとつはやはり勇者の権利、「意志の増大」だろう。

 

 緋奈はゆっくりと指を曲げ、手を握る動作。すると地面にたまった血が緋奈の手へと上る。

 彼女の手にたどり着いた魔人の血は形を取り始め、剣の形へ構築。おおよその形は剣であるが剣先は丸く、50センチを超える刃幅。なにより刀身では銃を超える螺旋が渦巻いていた。


 「朱渦大剣(しゅかのおおつるぎ)


 赤い剣を創造した緋奈は魔臣へと突攻。体のすべてを使って剣を振るい、刃が魔臣の右腕へと迫る。

 魔臣はもちろん右手の剣で防ぐ。黒いオーラを剣にまとわせて。

 ふたつの剣が金切り音を上げてぶつかる。


「緋奈さん!」


 うしろでチャンスを疑っていた正義は緋奈を心配。

 血が黒いオーラに触れてしまえば黒ずんで崩壊すると説明したのは緋奈。

 しかし今の彼女はまるでそのことを忘れたかのように剣に力を込める。

 なぜなら今の朱渦大剣には、自分の血は使われていないのだから。

 朱渦大剣が魔臣のオーラに触れたことで朱渦大剣が魔臣の剣とぶつかり合っているところから黒ずみが発生。

 なのにその広がりは剣全体ではなく、剣の外側数センチの部分しか黒くならない。

 外側が全て黒く染まり、そして砕ける。

 だが砕けたのは()()だけ。

 大部分はまだ生きており、緋奈も引く様子は一切見せない。

 現象は続き、繰り返される。

 魔臣のオーラで黒化が再び始まったかと思えば端しかそうならず、緋奈へ届くことは一切ない。

 それどころかなんと魔臣の剣にヒビが入っている。

 正義もまた緋奈に吸血鬼となり、身体能力が向上。

 さらに五感も鋭くなっている。

 だからこそ気づいた。


(そうか! 緋奈さんは今、()()()()()()()を使っている! それに、この金切り音……チェーンソーのように血を回転させて威力を上げているのか。その回転の刃を()()()()()()()()()()1回の黒化で剣全部に影響することなく、攻撃を続けられるんだ!)


 正義の予測は正しい。

 チェーンソーの刃が幾重にも重なったように、外側から順に左回転・右回転・左回転と層を作り、それぞれの刃が壊れるたびに新たな刃が現れる。この仕組みにより、剣全体の崩壊を防ぎつつ、連続した切断力を維持することができる。

 なぜこんなことを思いついたかはわからない。けれどなぜかこれが正解だと思ったのだ。

 緋奈の攻撃で武器である剣の破壊を恐れた魔臣は一旦撤退、うしろへ跳ぶ。

 それに緋奈は追撃を与えるため直進。

 地面に着いた魔臣は盾を彼女に向け、カウンターを狙う。

 剣の間合いに入った魔臣は、全力の突きを緋奈に放つ。しかし、緋奈は余裕をもって回避。

 そのまま魔臣は三度突きを放つがすべて避けられる。

 緋奈は素の状態で『朱激(しゅげき)』のときよりも速く動く。しかしオーラのせいで無理に攻撃ができない。

 オーラの上から攻撃を行う方法を思いついてはいるがさすがは魔臣、隙はなし。


 ここで正義が動く。

 正義はふたりの邪魔にならない距離で魔臣の左側に立ち、銃口を向ける。

 それに気づいた魔臣はやはり盾を正義に対して構えた。


 ここでうまれる一瞬の隙。


 緋奈は全身の血、生命維持のための血と戦闘で使う血のうち後者を、そして魔人の血の両方を操作して拳に集約。

 一瞬にして彼女の手は血に包まれた。

 血一滴一滴に意識を込め、ベクトルを魔臣の腹に向けて殴り掛かる。

 意志の増大によっても加速したその赤い塊は魔臣の胴へと直撃し、赤が激しく暴れ狂う。


「八坂血戦式・大乱赭(ダイランシャ)!」


 ベキベキと何かがへこむ音とともに魔臣は呻きを上げる。

 このまま貫きたかった緋奈だがすぐに拳を引っ込め、後退。

 約五十の血の層を作り出してその上から攻撃を加えるという呪いを警戒した技。

 もちろん血の層ひとつひとつも魔臣へのしかかり威力は高い。

 

貫通弾(トリケラ)


 大乱赭(だいらんしゃ)による一撃により魔臣が一瞬停滞。

 正義は魔臣の背後に回り、魔臣の背中に向かって貫通弾(トリケラ)を放つ。

 彼が放った弾丸は鎧を貫通し、魔臣の血が噴き出す。

 魔臣のオーラが剣へと集まってゆき、緋奈と正義に向かって一閃。

 先ほど見た黒い斬撃が二人に襲い掛かるが、すでに見たことのある攻撃はふたりの脅威ではない。

 迷うことなく避けるのに成功し、緋奈は血を触手のように操作して魔臣へ放ち、正義も銃を撃つ。

 

「緋奈さん……」


「ええ」


 二人は気づいた。

 最初の攻撃時は気づかなかったが、魔臣が黒い斬撃を放ったあと、数秒()()()()()()()()()()()

 そのあとすぐに復活はしたが、二人に光明が見え始める。


((斬撃を撃たせてオーラを消し、奴をしとめる!))


 二人の間で今後の方針が決まった。

 しかし相談する前に魔臣が二人へと接近。

 作戦を立たせてはくれないらしい。

 緋奈が迎撃する。

 十を超えるやり取りで緋奈は気づく。


(魔臣の動きが変わった!)


 先ほどまでは騎士らしく受けの姿勢で戦っていた魔臣が今、よりアグレッシブに攻撃を加えてくる。

 そしてなにより緋奈の横から、前からと様々な方向から緋奈に攻めているのだ。

 『朱激(しゅげき)』をいち早く発動し、身体能力を上げる緋奈。

 攻められている緋奈のほうは血を盾にしたり、カモフラージュにしながらこの場をしのぐ。

 もちろんオーラに触れぬよう細心の注意を払って、かつ触れなければいけない場合は魔人の血を使うことで事なきを得る。


 緋奈も避けてばかりではない。

 振り下ろされる剣を避けた緋奈はいったん下がるも、積極的になった魔臣はすぐさま彼女を追う。

 緋奈にとっては想定内。

 彼女を追った魔臣が踏み入れたのは緋奈の紅三日月(アカミカツキ)で殺された魔人が倒れた血だまり。

 魔臣がそこへ踏み込んだ瞬間、緋奈は血だまりに触れ、血を操作する。


 「八坂血戦式・獄棘(ゴクキョク)


 血だまりより数本の巨大な棘が魔臣の足元から発射され、魔臣を襲う。

 棘は魔臣のふくらはぎに、はらに、二の腕に突き刺さった。


 魔臣に傷を与えた緋奈は高揚。

 先ほどまで苦戦を強いられていた魔臣と戦うことができているのだから。

 さらにわいてきたアイデアが勇者の権利も相まって気持ちいいほど実行できる。


「アタシのやりたかったこと……全部できる」


 戦闘は嫌いな彼女でも、『圧倒』する今はただ愉しいと思えた。

 

 魔臣が棘にとらわれたことで正義も攻撃のチャンスを得る。

 正義は現在ビルの上にいた。アグレッシブになった魔臣は緋奈だけでなく、正義も苦しめた。活発に動く魔臣を銃でとらえられないからだ。魔臣とともに緋奈も動くため余計味方へ命中するのを懸念して待機。

 

 戦いがより激しくなるにつれ、正義は今の位置ではだめだと判断。


「戦場では後衛は戦全体を俯瞰する位置にいるといい」


 という光の言葉を思い出し、正義はビルの屋上へ上る。

 屋上からはふたりの動きがよくわかり、『上から』という新しい射撃角度を手に入れたことで正義は集中。

 撃つ機会を待つ。

 


 そして訪れた。

 棘により魔臣は動けない。

 貫通弾(トリケラ)を撃とうとした瞬間、バキン! と魔臣が体に力を入れて棘から脱出した。

 まだ全力ではなかったのかと焦る二人だが、ここで焦りは消え、さらなる好機。

 

 魔臣の剣に黒いオーラが集まる。

 

((来た! この攻撃を凌いで、致命傷を与える!))


 二人の思考がシンクロ。

 魔臣が見つめるは緋奈。よって緋奈は最大限警戒。目と脳に血を巡らせ、反応速度をできる限り上昇させる。さらに避けた後の接近のために足にも力を入れた。

 

 (さあ! 来なさい!)



 ブン!



 魔臣が剣を振り、黒い斬撃が飛ぶ。





 正義のほうに。



「!!」



 何が起きたかわからなかったが、自分に攻撃がむけられたことだけは咄嗟に判断できた正義すぐに体をねじる。

 なんとか避けられたと確信したのも束の間……


 


 


 スパッ





 正義の左手の小指が、斬撃で少し切れた。

 

 ほんの数ミリ切れたはずの小指。そこから黒が正義の手の侵食を始める。

第伍肆話を読んでくださりありがとうございます!

技名のカタカナとひらがなのふたつがありましたがちゃんと違う意味はあります。

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