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第伍拾話 『共闘戦線〈勇士ト緋乙女〉・弐』

 魔人のあらかたを倒し終わった時、奴は現れた。

 最初に感づいたのは正義と緋奈。二人はなにか冷たい手に皮膚を撫でられるようなおぞましい悪寒に嫌な気分になる。その不快感はどんどんと強くなっていく。緋奈の背後にいた兵士も気づいたのか、嫌悪感で顔をゆがめる兵士もいた。

 

 この嫌な感情の発生源を真っ先に見つけたのはビルの上で援護にあたっていた正義。

 魔人の群の後方、闇の中から滲み出るように現れたのは、一人の()()。 全身を覆う鈍い銀の甲冑は、まるで何かの呪いを帯びたかのように冷たく、不気味な輝きを放っていた。 そいつが歩くたび、まるで空気そのものが淀むような感覚が広がる。毒々しいオーラが視界を歪めるほどだった。身長は他の魔人よりも大きく、遠くから見ている正義でも目立つような2メートル越え。左手には大盾と右手には直剣。まさに西洋の騎士だ。少し違うとすればそのどす黒いオーラと、頭から生える一本の角だろう。


 魔人を倒していった地上の緋奈たちもその騎士に気づく。圧倒的なオーラを発していたから嫌でも分かるのではあるのだが。

 絶対に警戒しなければならない相手だというのは緋奈でも察せられた。

 そして恐らくやつが魔臣だろう。つまり正義と緋奈の討伐相手。

 緋奈は騎士型の魔人を倒さんと朱渦大剣(しゅかのおおつるぎ)を構える。

 騎士型の魔人を見た後ろの兵士が緋奈に叫ぶ。


「や、やつだ! 俺たちの部隊を襲った元凶は!」


 必死の声で緋奈は兵士のほうに振り向く。

 あの騎士型の魔人を知っているのだろう。そしてその魔臣と戦う緋奈になにかしら助言をしたかった。軍人として。


「俺たちが魔王軍の襲撃で混乱していたとき、近くにミサイルが降ってきたんだ。突然の出来事に呆然としているとあの甲冑野郎が奇襲を仕掛けてきた。大量の魔人を引き連れてな。それでこのざまだ。部下は結界に避難させたが……。俺の腹心があの騎士を倒そうとむかったが、一瞬でやられちまった。気をつけろ! あいつは強い」


 兵士は緋奈へ忠告。

 さらに続ける。


「あの魔臣、剣を持っているだろう? あれには絶対触れてはならない。いいか? かすってもだめだ」


「なんで?」


 兵士が詳細を言おうとするも、途端に膝をつく。腹から血を流したまま戦っているからその無茶で言えなかったのだろう。緋奈としてはもう少し具体的な情報が欲しかったが、仕方ないと割り切る。

 しかし兵士の忠告は確かに重要ではあったが、それ以上に彼女を緊張させた。

 一回もミスを許されない、結界の中とは違い致命傷を負ったらどころか、剣にあたったらそれまで。

 正義のように重圧(プレッシャー)が大きいほどパフォーマンスを発揮するのでもなく、燐のように戦闘を楽しむこともせず、緋奈はただ戦闘を恐ろしいものという現実的な考えをしている。

 だから怖い。

 己より強大な敵に立ち向かうことが。

 ごくりと固唾をのむ。


『せ、正義……どうするの?』


 何もできなかった緋奈は無意識に正義を頼った。

 冷静になればなにやってるのと己の行いにツッコミを入れてしまうが、今の緋奈はそれどころではない。ただ頼れるものは彼しかいなかったから。


『魔臣をこの場から引きはがして、俺と緋奈さんの二対一の状況を作るしかないな……魔人がいると緋奈さんも俺も戦いづらい』


『そんな状況……どうやって作るの!?』


『こうやってだ!』


 何も説明しない正義に文句を言おうとした瞬間正義がなんと魔人の群の中心、敵陣のど真ん中に落ちてきた。

 緋奈はその行動の意味が理解できず、目を丸くして立ち尽くす。

 

 正義は周りの魔人を意に介さず、銃口を魔臣に向けて叫ぶ。

 

 〈真衝撃弾(ズール)!〉


 立ち尽くす魔人の隙間を潜り抜けた銃弾が当たった魔臣へ命中。鎧で傷はつかないものの、魔臣は衝撃で数百メートル吹き飛ばされる。

 正義は正面の魔人を銃弾で撃破しながら飛ばされた魔臣へ向かう。振りむきながら


「緋奈さん! 奴を追うぞ! これで二対一だ!」


 と緋奈に叫んで。

 

「は、はあ!?」


 あまりにも力ずくの行動。そしてあまりにも危険な行動に緋奈は驚きを隠せない。

 確かにこの状況で魔臣を引きはがすとなれば正義が出した解が最適ではあるが、それを瞬時に行動することは緋奈ですら躊躇うだろう。それを顔色ひとつ変えずに実行したのだから緋奈にとって面食らってしまうのは必然。

 すぐに正義の指示には従えなかった。

 

「緋奈隊員! この数ならば俺たちでもやれます! どうか行ってください!」


 兵士は自分たちのことを心配して緋奈は動かないと考えたのだろう。

 緋奈もここで状況を理解。いま彼女がすべきことは魔臣の撃破。


「やるしかないわね……」

 

 恐怖が混じりつつも覚悟を決めた彼女は目の前の魔人を数体斬り伏せ、正義の後を追った。



 ***



 正義に追いついた緋奈は彼に話しかける。

 吹き飛んだ魔臣に対峙する前、なにかしら作戦なり戦略なり聞きたかったから。


「で、このあとどうするの?」


「どうするって、まあ……その……」


 正義は言い淀む。そしてさきほどの冷徹な言動とは違い、何か隠している少年のよう。

 何かしら案はあるらしいがなぜか言えないらしい。

 訝しむ緋奈だがこの場合の最適解を考えた彼女は2秒後、正義と同じ考えにたどり着く。

 その事実に緋奈は正義に抗議。

 

 「あんたまさか! アタシに前衛を張れっていう気!」


 冗談じゃないと彼女は叫ぶ。ただでさえ格上と戦うのが怖いのに、それを真正面から戦えというのだから。


 「……」


 正義は沈黙。それどころか目をそらす。否定しないということは、つまりは緋奈の予想は的中したということだ。


「冗談じゃないわ! アタシだってまだ死にたく……」


 正義へ文句を言おうとした瞬間、緋奈は気づく。

 目の前、すでに地上に着地していた魔臣は剣を構えていた。自分たちとはあと三十メートルほど離れているというのに。


 この状況が正義と緋奈の二人の記憶の中、とある訓練と重なる。

 それは近藤によって与えられた課題にあった。侍の形をしたのっぺらぼうの式神の武装は一本の刀。しかし侍が刀を振るえば斬撃が十メートル飛ぶのだ。正義も緋奈もこの初見殺しにハマってしまった。


 現在もその式神と対峙したときと同じ。

 剣が届く距離ではないのに、目の前の魔臣は今まさに剣を振ろうとしている。


 二人は同時に叫んだ。


「しゃがんで!」

「しゃがめ!」

 

 二人は立ち止まり、すぐに身をかがめた瞬間、魔臣が剣を横に薙ぐ。


 剣から放たれた黒い斬撃が正義たちの頭上を飛ぶ。

 彼らの背後でナニカが斬られる音がした。


 振り返るとそこには数体の魔人がさきほどの禍々しい斬撃に上半身と下半身がおさらばしていた。

 いやそれだけではない。

 切断されたところからどんどんと体が()()()()()()()()。黒は体を侵食していき、最終的には全身が光が一切反射することなく、黒く染まっていく。

 まるで呪い。

 この状態を見た緋奈は戦慄。


『絶対に触れるな!』


 先ほどの上官の言葉の意味をこの時知る。

 かすってしまえば自分がこうなると思うとさらに緋奈の戦意がそがれてしまう。さらに自分は目の前の魔臣とは相性が悪いと考察。

 もし魔臣の黒いオーラに触れたら、先ほどの呪いのような現象が発動するのではないか――。

 それが「相手の身体に触れる」ことが条件だったとしたら? ならば、血を操る自分は……最悪の相性だ。

 その考えが脳裏をよぎった瞬間、緋奈の背筋が凍りついた。

 ――戦えない。戦いたくない。逃げたい。だが、目の前には確実に自分を殺そうとする魔臣がいる。逃げられるはずもない。

 

 三十メートル先にいる魔臣に二人は対峙。どう戦うかはまだ決まっていない。

 

「正義……たぶん、アタシはあいつと戦えない……」


 弱音を吐く緋奈。


「もしさっきの斬撃のあとの現象がアタシの『血』が触れたときにも発動するんだったら……アタシは戦うことができない」


 彼女の言葉を聞いて正義も理解する。

 そして最後の「戦いたくない」というのはおそらく二重の意味だろう。相性上まともに戦うことはできないということ、そして、怖いから、ということ。

 了承した正義は軽く息を吐く。


「わかった。じゃあ俺が奴を惹きつける」


「え?」


 正義は彼女のぼやきに何も言わず、むしろ自分が前に行くと言い出した。

 自分を責めない正義に困惑する緋奈だが、次の瞬間その感情は消える。


 魔臣を見つめる正義の眼光、それは見たことがあった。


 緋奈が溺愛した、祖父の目だった。

第伍拾話を読んでくださりありがとうございます!


正義&緋奈 「あっ! ここ式神で戦ったとこだ!」


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