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第伍話 『未知ナル大地へ』

 二人は会社の中に入る。

 ホテルのようなエントランス。天井と壁は白いタイルであったが、床は木でできており、緊張感のようなものは感じさせない清潔感のある雰囲気。だが会社ということもありスーツ姿のサラリーマンが携帯で通話をしながら、はたまた腕時計を確認しながら忙しそうに歩き回っていた。

 近藤は中央の受付に進み、そこに座っている受付嬢に話しかける。


「面談を予約していた近藤だ。手続きを頼む」


「10時に予約されました近藤様ですね。…………確認しました。案内いたします」


 そう言うと受付は席を立ち、二人をエレベーターへ案内。サラリーマンの列を並んだあと、受付と近藤と正義の三人でエレベーターの中に入る。ボタンの前に立った受付はなんとエレベーターの最上部にある非常用ボタンを長押ししたのだ。警報が鳴るのかと不安になる正義だが上のスピーカーから聞こえてきたのは……


 

『こちら管理センターです。何かお困りですか?』


 

 機械のように抑揚のない質問。受付はそれに答える。


()()()()()()()()()()()()()()()()


『……かしこまりました』


 するとエレベーターは下へ降りる。正義はエレベーターのボタンを確認したが、地下へ行く階数表示はなかった。

 下降を始めて十数秒後、エレベーターが停止。扉が開くとそこは先ほどの会社内とは違う、不気味な薄暗い廊下。受付はそのままエレベーターから出ず、近藤と正義がエレベーターを降りると一礼して扉を閉めた。天井はどれほど高いのかわからない。床下の青い蛍光灯だけがこの場所が一直線の廊下だということを示していた。

 廊下を歩いて約三分。ようやく奥に四角い光が見え始める。廊下を抜けた先にあったのは立方体型の大きな部屋だった。そこには巨大な鳥居とその奥にある『ヒビ』。モノや壁にではなく、そのヒビは空中に浮かんでいた。まさに世界に入ったヒビだ。

 今まで見たことがない景色に呆気にとられていると隣から話しかけられる。


「お待ちしておりました。近藤様、そして晴宮様」


 話しかけてきたのは白衣をまとった研究者らしき男性。


「例の基地へ行けるようにしてくれたかい?」


「もちろんです」


 それを聞くと近藤はうなずき、鳥居をくぐってヒビの前に立つ。正義も彼に続く。


「これが以前話した、現界と魔界をつなぐ『門』さ」


「これが門?」


「これに触るとあ()()()に行ける。覚悟ができたらおいで」


 近藤はヒビに触ると、一瞬で消失。驚く正義だがおそるおそるヒビに触れる。すると自分のへそ付近からまるで掃除機に吸い込まれる紙のように強く引っ張られるように感じ、抗えることなくヒビの隙間に吸い込まれていった。



 ***

 

 

 隙間を抜けると、出口は床から離れていたせいか落下して正義はうまく着地できずにしりもちをついてしまう。

 立ち上がって周りを見ると、そこは先ほどの部屋ほどではないものの、ある程度大きめの空間。「結界」の中とは違う、金属でできた壁やタイルと壁に這うように存在する複数の管。まさに正義が想像していた荘厳な軍の施設であった。現界の時もあったヒビを中心として前後左右20メートルほどの幅がある立方体の部屋。

 

「ここが魔界なんですか?」


「魔界だよ。といってもここは軍の基地の中だけど」


 近藤が言い終わると背後にあった扉が開き、そこから入ってきたのは軍服を着て丸眼鏡をかけた若い男性。


「近藤殿、晴宮殿、よくぞお越しくださいました! 私は、大日輪皇國軍第二軍団防衛師団第一防衛線第三十七駐屯基地基地長、霧島であります!」


 自信満々な表情とともに敬礼をしながら二人に挨拶をする三十代ほどの青年。近藤がすこし気の抜けた雰囲気だったこともあり、正義にとっては初めての軍人らしい軍人と出会ったといえよう。一瞬戸惑ったものの、正義もすぐに真似して敬礼。


「初めまして。晴宮正義と申します」


 霧島は笑顔で正義に手を差し伸べる。


「どうも。よろしくお願いします」


 差し出された手に正義は握手するが、軍人らしからぬその物腰柔らかな性格に正義は少し気が楽になった。近藤も霧島に挨拶する。


「お忙しいところすみません。今日はよろしくお願いします」


「いえいえ、今日は精一杯案内させていただきますよ」


 笑顔で答えた霧島は二人についてくるよう言い、三人は施設の廊下を歩く。

 廊下は薄暗い照明に照らされており緊張感を感じさせる。壁は強化コンクリートのような物質で覆われ、金属製のパネルや露出したパイプがところどころ天井に走っていた。床は工業的で無機質な灰色のタイルで覆われ、使い込まれた様子がうかがえる。廊下の片側には重厚な扉。霧島は歩きながら正義に施設の、そして軍の説明をしてくれた。


「皇國軍の魔界での領土は、現界(あっち)魔界(こっち)をつなぐ『門』を自分たちで作り、管理することができる『門の核』が中心です。そして『門の核』を守るように十個の防衛都市が建てられています。それらをつなぐと五芒星となり、都市を結ぶ線を印として巨大な結界が張られています。ですからこの防衛都市は『結界都市』と呼ばれます」


(この前近藤さんが同じようなことを話していたな)


 数日前の会話を思い出しながら正義は霧島に確認するように聞く。

 

「魔人たちはその門の核を狙っているんですね?」


「そのようです。しかし理性を持たない動物たちも『門の核』に近づく様子が確認されており、現界に興味があるのか、門そのものに魔人たちを惹きつける作用があるのかはいまだ研究中です」


「なるほど。『門』というよりかはその……『門の核』を目指しているというわけですね」


「その通りです。基地にある『門』は現界(あちら)から任意に閉じられるため、ミスさえなければ魔人が通過することはありません」


(五日前くらいに近藤さんが、魔人は門をくぐれないと言っていたのはこれが理由だったのか)


「そしてその結界都市を守るために3重の防衛線が敷かれています。外から順に第一、第二、第三防衛線です。防衛線の形からそれぞれ『椿防衛線』『芙蓉防衛線』『桜花防衛線』とも呼ばれています。この基地は一番外側の第一防衛線ですね」


「一番外側って……危なくないんですか?」


「危ないですよ。でもそんなアクシデントが起こるのも一年に一回あるかないか。普段は式神兵で対処できる程度の雑兵が来るだけです」


「シキガミヘイって言うと、戦闘訓練の時に戦ったやつですよね?」


 正義は振り向いて後ろで歩いている近藤に尋ねる。

 

「そうだよ。あれほど高性能ではないけど」


 補足するように霧島も話す。


「走る、しゃがむ、銃を撃つなどの単純なことしかできません。それでも数をそろえて塹壕から撃たせておけば雑兵程度は蹴散らせます。一応我々も後方から砲撃による攻撃を行っていますよ」


 正義は霧島の自信満々の雰囲気やすれ違う隊員の明るい表情からここが本当に軍の基地なのかと疑ってしまう。


 基地の外に出て基地の外壁に上ると正義は初めて魔界を感じる。

 空気も現界とあまり変わらないと思ったが雰囲気は魔界の方が何倍も重かった。空一面には赤みがかった雲。大地はひとつない不毛の地。遠くには溝が彫られており、おそらく塹壕だろうと正義は予想。風は現界では感じたことのない質感を持ち、嗅いだことのない匂いが混じっていた。横を見ると巨大な砲台がいくつか佇んでいる。

 正義が魔界を観察していると、作業着を着た複数の大人が歩いてきた。

 

 「霧島さん、お疲れ様です! ん、そのガキンチョは?」


 「近藤さんの連れです。軍に入隊するらしく、見学に来てくれたのです」


 「そうかそうか! ようこそ! 俺たちの基地へ!」


 「ゆっくりしていってくれ! どうだ? この大砲、一発撃ってみるか?」


 「やめてください、堀田さん」


 その後、彼らとの雑談……主に作業員達による一方的な話を終えたのち、正義たち三人は別の場所に移動。

 廊下を歩いて数分後、霧島は大きな扉の前で止まった。


「ここがこの基地の司令室です。オペレーターは私を含め八人、現在五人がここにいます」


 司令室と聞いて正義は少し身構えた。霧島が扉の横のパネルに触れ、扉が開く。

 中を見た正義は思っていた光景と違っていたことに拍子抜けした。そこは、映画に出てくるような司令室というより、むしろ事務所や学校の職員室に近い雰囲気だった。確かに壁には複数のディスプレイがあり、そこにはおそらく基地の外であろう映像が写っている。だが頭に通信機器のようなものをつけ、目の前のパソコンを操作しているオペレーターらしき人たちが座っているのは明らかに会社にあるようなデスクであり、デスクの棚には複数のファイル。ファイル以外にも筆記用具やマグカップが置いてあった。2,3人がマグカップを手に何か飲みながら談笑している。


「ここが司令室、基地の要です。式神兵の操作、基地の指揮、近くの基地との連携、全部ここでやっています」


「すごく、こじんまりしてますね」


「小規模な基地ですからね。この基地に現在いるのも五十人ぐらいです。まあそのほとんどは補助員ですけど」


「じゃあ本当に戦闘はシキガミヘイ……にやらせてるんですね」


「その通り。次は基地の倉庫を案内しま……」


 霧島が廊下に出ようとした瞬間、ディスプレイを見続けていたオペレーターの一人が声をあげる。


「霧島局長! 基地北方15㎞地点に魔人の集団を確認! こちらに近づいてきます!」


 報告に対し霧島は淡々と聞き返す。


「数は?」


「およそ100!」


「わかった」


 霧島は正義に片手で謝るようなポーズをとり、正義に小声で謝罪。


「すみません、基地の案内はしばらくできそうにないです。続きは後程」

 

 そういうと霧島は歩く方向を転換し、司令室の一番奥、おそらく司令官が座るであろう席に座る。談笑していたオペレーターたちも席に座って装備を付け、霧島もヘッドセットをつけてそれについていたマイクに口を近づけた。

 

「三十七駐屯基地にいる全隊員へ告ぐ! 基地北方から魔人の敵襲を確認! 全員、直ちに配置に就け! 魔人どもを一掃するぞ!」


 先ほどの穏やかな声ではない、基地に響き渡るまさに殺気をまとったような霧島の命令。正義は後ろの廊下をちらりと振り返った。数人の隊員が慌ただしく走り、その表情は先ほどすれ違った者たちとは一変していた。一人一人の目に、真剣な殺気が宿っている。正義はここで初めて自分が命を懸けて戦う組織にいるのだと自覚。

 ぴりついた空気に緊張する正義に対し近藤が語り掛けた。



 「正義君、これは絶好の機会だ。目を凝らして見ておけ──大日輪皇國軍の戦いを」

第伍話を読んでくださりありがとうございます!


基地、自爆機能ついてます。


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