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第肆参話 『転』

「大日輪皇國軍にね」

 

 聞きなれない言葉に首をかしげるアキーラ。


「……なんですか? それは」


「あ? そっか、この世界では門番(ハーリス)だっけな~。ま、負けは負けだ~ ささ! お手をどうぞ、お姫様」


 思い出したかのように話すフード男、ストゥムだがすぐにすぐに態度を改め、膝をついて手を差し伸べる。さながら囚われの姫に手を差し伸べる王子のよう。

 そんな彼の態度に見かねたのか、やり取りを見ていた部下の一人が叫ぶ。


「貴様! 急にきたと思えばアキーラ様に対する無礼な態度! さらに我々の負けだと? ふざけるのもいい加減にしろ!」


 魔王軍の敗北を堂々と主張されたことに一人の魔人が怒ったのだ。

 他の魔人も彼に続く。


「そうだ!」「貴様は何者だ! 何様のつもりだ!」


 魔人のヘイトがストゥムへと集中。最初は無視を決めていたストゥムだが徐々に雰囲気が変化。

 

「……モブ共が」


 その声には確かな怒りの感情。

 アキーラとのやり取りを邪魔され、背後の魔人に殺意を抱く。フード越しでもわかるストゥムの感情の変化はアキーラも気づき、すぐに部下を制止せんと指示を出す。

 

 しかしその前にストゥムは『権利』を発動するために魔人の方へ手を向ける。


 が、


 

 斬撃音とともにその場にいた魔人全てが胸から、腹から血を噴き出して倒れた。

 アキーラの守護という精鋭すら反応できない超速の剣戟で魔人は地に伏す。彼らの中心に立っていたのは謁見の間に来た、もう一人のフード男、いや身長で判断すると少年か。

 手に白金の直剣を持っている。


「おいおい~、何も殺さなくても……」


 ストゥムも彼が動くとは思わなかったらしく、苦言を呈す。


「俺たちの目的は彼女の回収だ。そしてこいつらが邪魔だった。それだけだ」


 抑揚のない口調で少年は剣を鞘にしまう。

 

「……まあいいや。改めて、さあ行きましょう、アキーラ」


 今度は膝はつかないが、優しい言葉で手を差し伸べるストゥム。

 しかしアキーラは手を取らない。


「先ほども言いましたが、まだ魔王軍は負けていません」


 ストゥムの誘いに今度は確固たる意志をもって断る。

 再びストゥムの機嫌が悪くなり、それが声へと現れてしまう。


「……なぜだ。お前らは負ける。大日輪皇國軍の手によってな。なぜその事実を受け入れない? 彼らを信じているからか? それとも思い人でもいるのか?」


 不服そうな態度と、嘲笑するような気持ちが混ざった声の質問。

 アキーラは、この回答次第ではもしかしたら殺されてしまうかもしれないと察する。

 現に目の前の男の些細な感情の変化で間接的にだが部下が死んだ。たとえ少年が斬らずとも、ストゥムは部下を殺していただろう。

 それだけの力を持っていることをアキーラは知っている。しかし毅然とした態度でアキーラはストゥムへと返す。


「そんなものではありません。強いて言うならば、矜持(きょうじ)でしょうか。負けを潔く認めるほど、魔人(我々)は弱くありませんよ。心も、力も」


「……」


 ストゥムは沈黙。

 正解か、間違いか、答えは……



「いいね、だからお前を気に入ったんだ」



 笑うストゥム。そのまま段差へ腰を下ろす。


「いいぜ、待ってやるよ。勝敗がつくまでな」


 アキーラの答えは目の前の男を満足させるものだったらしい。

 内心この危機を乗り切ったことに安堵する。

 

 ストゥムが勝敗が決するまで待つといったことに少年は納得がいかないらしくストゥムへ文句。


「おい、俺たちの任務は……」


「まあいいだろ? 気長に行こうぜ?」


 その言葉に、少年は不快感を露わにした。だがこの作戦の指揮はストゥムがとっているため何も言えない。

 いらだちを押さえながら少年は呟く。



「ゆえに……」


 

 △ 一方、大日輪皇國軍第11結界 △


「第五戦線勝利!」


 という報告とともに落ち着きを取り戻す。

 11の戦線と海上での戦闘が終わり、オペレーターたちも大半が一息つけるようになった。しかし残りのオペレーターは戦後の情報処理や、まだ続く魔人の掃討のためキーボードをたたきながら前線と連絡を継続。

 未だ緊張の糸を斬れずにいる。


 そんな彼らを上から俯瞰しながら、この男、南郷総司令官は満足げに部下から送られてくる戦闘の報告のデータを見つめていた。だが彼の表情にはまだ油断できないらしく、そのオーラは隠しきれない。


「まだ何かあるのですか? 南郷さん」

 

 南郷総司令官の表情に気付いたのか、後ろに立っていた井原青年が南郷総司令官へ話しかける。


「そうだ。私は今違和感を感じている。さて、井原青年にはわかるかな?」


 南郷総司令官にとって井原青年は未来の大日輪皇國軍の司令部を担う大事な生徒のようなもの。こういった状況だからこそ育成のチャンスは逃さない。


「……データを拝見しても?」


「もちろん」


 井原青年は恐る恐る南郷総司令官の前のパソコンをいじり、あらゆる資料に目を通す。

 敵の数、魔将の姿、敵兵の進行経路、転送魔法陣の配置。しかし井原青年はなにもわからないでいた。

 そんな彼に南郷総司令官はヒントを与える。


「魔王の権利については知っているかい?」


「ええ、『眷属とした魔人は、主である魔王の力が使えるようになる』ですよね。そして魔将の形質も魔王の力に影響されて変化する。ですから眷属、つまり魔臣や魔将の姿を見れば、魔王の力も自然に分か……」


 そこまで口にした井原青年は何かに気付く。

 自身の仮説が正しいか判断するためもう一度とある資料に目を通す。

 彼が確認したのは魔将のデータ。井原青年が建てた予測は、あっていた。


「魔将の姿が……大きく分けて()()()ある!」


 待ってましたと言わんばかりに南郷総司令官も口を開く。


「そうだ。事前の調査で魔王は三人。それぞれ炎を操る魔王、蟲の魔王、鉱物の魔王だ。しかし向かってくる魔将の中にはそれ以外にもう一種類」


 魔王を見ずとも、魔将の姿を見れば魔王のおおよその能力は見当がつく。戦争前に確認できたのはその三種類であったのに、戦争内で目撃される魔将はそのどれとも違う四種類目の魔将がいたのだ。


「第六戦線で坂ノ上さんが倒したケンタウロス型の魔将、第四戦線で本郷隊員が戦闘した象型の魔将、他にも複数の魔将がそのどれとも違う特徴を持っている!」


「眷属ではない魔将という線も考えられなくはないが、いかんせん()()()が多すぎる」


「いうなれば『動物型』ですね。()()の類でしょうか?」


「間違っても奴らは魔王なんぞに従わんよ」


「なら考えられるのは……」


「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()


 そう結論付けた南郷総司令官は席を立ち、司令部全体に叫ぶ。


「全軍に伝達! 四体目の魔王がいる可能性あり! 警戒にあたられたし!」


 南郷総司令官の号令でその場のオペレーターたちは一斉に動き出す。

 ある者は連絡のためにマイクをつけ直し、またある者は機械を操作する。


「第一戦線へ伝達! 四体目の魔王の可能性大いにあり!」

「第六戦線! 四体目の魔王がいるかもしれません! 注意してください!」


 戦線だけでなく、『門の核』を囲う『結界都市』に待機している隊員らにも伝達する。


 南郷総司令官は受話器を手に取り、とある人物に連絡。


「聞こえますでしょうか? 元帥閣下。四体目の魔王の存在に一応注意です」


 下にいるオペレーターたちとは違いその声に焦りはなく、ただ些細な情報を与えているようだ。


『了解した。だが魔王が一匹増えようが二匹増えようが、私がすべて討つだけだ』


「頼もしいですね」


 連絡先は現在結界都市で敵を待つ元帥その人。

 頼もしい、という言葉は南郷総司令官の本心であり、元帥閣下の言葉も事実だと考えてしまう。

 それほどまでに元帥は強い。ひとしきりの行動を終え、次の作業へとりかかろうとしたその時、

 

「海轟軍団より報告! 沈没寸前の船から、砲弾らしき物体が発射されたとのこと! 物体は現在陸地まで飛行しています!」


 オペレーターの一人が叫ぶ。

 さらにもう一人。


「空覇軍団偵察師団から連絡! 結界都市の方へ飛翔する謎の物体アリ!」


 ふたつの報告を聞いた南郷総司令官は部下に映像をよこすよう頼む。井原青年とともに見ると、映っていたのは黒い楕円形の物体。


「何かしらの武器の可能性が高いな……撃ち落とすよう伝えろ」


「そ、それが……」


 オペレーターが言いよどむ。


「何か問題が?」


「はい、攻撃をしているのですが、全く効かないらしいのです。おそらく強固な防御魔法で守られている可能性が……」


 部下の不安を含んだ言葉に南郷は即答。全く迷うことはない。


「わかった。引き続きその物体から目を離さないよう伝えてくれ。なにかあったらすぐ報告するように」


「了解」


 突如現れた謎の存在に南郷総司令官の本能がアラートを鳴らす。絶対に無視してはいけないと、経験が彼に告げるのだ。


(さて、どうするか。空覇の師団長でも寄越すか……)


 対処法を思案する彼にさらなる報告が。


「南郷総司令官! た、大変です!」


 普段この結界内のオペレーターはあまり取り乱したりしない。

 元コールセンターに勤めていた人や、空港の管制室で働いていたものたちは冷徹に、されど熱意をもって任に就いている。しかし慌てた様子のオペレーターはあまりの情報にそういった感情を捨てて取り乱した。なぜならその報告はあまりにも、南郷総司令官ですら驚くほど予想外のものだったのだから。

 第肆参話を見てくださりありがとうございます!

 気長に行こうという言葉、少年にとってはめっちゃ地雷です。

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