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第肆拾話 『遺志ハ 力ヘ』

 「我々が行うべきは戦死者の魂を弔うことではなく! 報仇雪恨(ほうきゅうせつこん)、彼らの勝ちたかったという無念を受け継ぎ!勝利によって雪辱を晴らしてやることではないのか!」


 およそ80年前、日帝皇国が自由連邦共和国に敗北した後、大日輪皇國軍のとある会議にて発せられた一人の将校の言葉。

 報仇雪恨とは『仇を討ち、恨みを晴らす』という意味の言葉。この会議の主題は「艦艇の付喪神化について」であった。艦船という存在は付喪神化するうえでこの上なく最高の素材。建造・運用・補給・整備などを含めて数百人から数千人規模の人々が関わっており、大きいものでは1万人以上が関わることもある物体。

 そしてこの艦船にはそれに込められている意思の「質」が違う。

 他にも巨大な建築物はあるだろうが、それに対する意思なんぞ大人数の雑念が入り混じっており、それゆえ付喪神化はしても強くはならない。

 しかし艦船は違う。

 そこに込められているのはどんな思いであれ、その根底にあるのは『勝ちたい』という強い意志。艦船の関係者は自由連邦共和国との勝利に向かって艦船を作り、運用していたはずなのだ。だから敵によって沈められた艦船には乗組員や関係者の無念が残っているはず。こめられた意志は他のものとは比べ物にならないほど絶対に多く、強い。


 この会議は海に沈んだり、共和国で解体予定の艦船を極秘裏に魔界へと運び、海から攻めてくる魔人に対しての有効だとしようとする案を採用するかどうか決めるもの。6割の人間はこの案に賛成しているものの、残りの4割は反対や保留の意見だった。

 曰く、


「船で散っていったものたちは眠らせてあげるべきだ」


 と。

 無論この意見は至極全うであり、現界でもその理由で引き上げられていない()()()()()()()()

 さらに当時の魔界は海からの侵攻はほとんど起きておらず、ならば陸上させて戦えばよいのではないのかと戦略的に見て疑問を持つ隊員も複数名。

 そんな彼らに対し、一人の将校が言葉を放った。


「確かに! 艦に乗って戦い、海に死んでいった者たちに対し、我々は敬意を払って感謝するべきだ。しかし、彼らは我らと同じ軍人。ならば我々は一人の兵士として彼らと接するべきでもないか? 彼らは負けていったまま亡くなった。軍人としてみれば彼らは無念のまま散っていったのだ。一軍人としてこれほど遺恨の残る死はないだろう。ゆえに我々が行うべきは戦死者の魂を弔うことではなく! 報仇雪恨(ほうきゅうせつこん)、彼らの勝ちたかったという無念を受け継ぎ! 勝利によって雪辱を晴らしてやることではないのか! 鎮魂なんぞは一般人にでもやらせておけばよい! 戦死者の魂ではなく、その遺志こそが我々の向き合うべきものではないのか!」


 その言葉で会議の進行は決まった。


 実際彼らの遺恨は残っているのか、という意見もあったが付喪神の研究者は


「そんなもの実際に付喪神にさせればわかることだ」


 と一刀両断。

 こうして、魔界での艦船運用計画が正式に承認されたのだった。



 ***

 

 

 菊池戦闘艦長の叫びともに先ほどまで乗っていた空母が青白く光る。

 そのオーラは菊池分隊長の瀛飆闘装(えいひょうとうそう)にまとわりつき、そして瀛飆闘装(えいひょうとうそう)のかたちが変化。鋼鉄の光沢が幾分増し、菊池の両手には巨大なガントレット。肘部分からはまっすぐに、見るからに熱がこもっている筒が飛び出している。


瀛飆闘装(えいひょうとうそう)! 空母大鳳艦装!』


 海上に落下した菊池戦闘艦長は瀛飆闘装(えいひょうとうそう)のブーストを起動。他の瀛飆闘装(えいひょうとうそう)とは比べ物にならないほどの速度で前線へと赴く。


 バチバチとひじから伸びる筒が少しずつ弾きはじめる。


「おいおい、そう焦るなよ。敵さんはもうすぐだぜ!」


 海上を走って十数秒後、今野ともう一人の瀛飆闘装(えいひょうとうそう)をまとった兵士と合流。魔将も見え始め、今野が菊池戦闘艦長に作戦を尋ねる。


「どうします? 近くに敵船もあるのでいったんそこで菊池戦闘艦長の爆発を放出してから魔将へ……」


 菊池戦闘艦長のピーキーな性能を理解している今野は安全策を提案するも……


「いらん。そのままツッコむぜ」


「りょうかい」


 納得と呆れの表情で今野は承諾、隊長をサポートせんと進路を少し変更して加速。もう一人の兵も今野と別の角度から魔将へと接近。

 正面には上半身を海上に出した海坊主と日帝人は形容するだろう魔将。

 魔将は右手を海中に入れ、そのまま水を上げるように腕を振り上げて大波を起こす。

 菊池戦闘艦長の前に立ちふさがる波という名の壁。

 だが菊池戦闘艦長は止まらない。右手のガントレットで波に殴り掛かる。


 爆発。


 ドンという轟音とともに菊池戦闘艦長は波の壁を突破、魔将へと直進。

 しかし彼のガントレットが沸騰するやかんのように音を立てて、湯気を上げ始める。


「まじか、間に合うかギリだぜ」


 そう危機感を持った菊池は二人の部下に通信。


『魔将を止めておけ! 一発でもいいから殴らせるんだぜ!』


『『了解』』



 その通信を聞いた今野は事前に近くの船に求めていた補給を得るためにすこし航路をはずれる。

 視界には波を立てて此方へ向かってくる魚雷。

 海面すれすれを走る魚雷に並走、中身を確認するとそこにはワイヤーが生えた2発の魚雷弾。

 

「捕縛用魚雷確認、回収します」


 回収したことを船に報告したのち、魚雷を手に持つ。

 腰の隣に備え付けられた二発の魚雷発射バズーカをレバーを握って再度前へ押し出す。後ろのレバーに手をかけなおし、内側へ倒すとバズーカ砲に装填用の穴が出現。手慣れた手つきで穴に魚雷を入れ、ワイヤーを専用の出っ張りに引っ掛ける。レバーをもとに戻し、前のレバーの引き金に手をかけ、射程距離まで魔将へ接近。

 海坊主のような魔将は正面の菊池戦闘艦長に気を取られているのか左右から向かう今野らには注意を向かない。

 

 ようやく射程距離まで届くかしないかのタイミングでなんと魔将は海へもぐろうとする。

 おそらく海上では菊池戦闘艦長を止められないと踏んだのだろう。

 海中では魔将の方に分があり、今の魚雷型ワイヤーで引き留められるかどうかわからない。もしかしたら水中に引きずり込まれれば瀛飆闘装(えいひょうとうそう)はただの重りにしかならないため一瞬躊躇。

 菊池戦闘艦長に指示を仰ぐかしようとしたその時、



 『撃て!』


 

 逆に菊池戦闘艦長からの命令。

 おそらくワイヤーの催促としての通信なのだろう。

 その声に含まれているのは全く嫌味や怒りではない。

 絶対に一撃を入れるという俺の覚悟に応えろ、という信念。今野はすぐに引き金をひいた。

 一切の迷いなく。

 たとえ海中に落とされても戦闘艦長の一撃のためにこの命を懸けようと今野も意志を固めた。


 魚雷は魔将という狙いを定めて海を駆ける。ちょうど首の下まで海に潜った時、


 ドガン! と魚雷のうちのひとつが魔将の瞼の下付近に着弾。

 魔将が一瞬浸水を停止する。


「よくやった! 後は任せるんだぜ!」


 そう叫んで大きく飛び上がる菊池戦闘艦長。

 魔将が浸水を再開し、頭のてっぺんまで水の中に入るのを確認した菊池戦闘艦長は魔将ではなく、魔将が沈んで波打っている波紋の中央に向かって右手のガントレットで殴り掛かった。

 爆発で海に穴が開き、水中にいた魔将がその一撃で全身が空中に露出。すぐさま左手のガントレットで魔将の頭に向かって殴り掛かる。

 魔将はその拳と爆発で背後にバランスを崩し、脳に直接衝撃を与えられたせいで一瞬気絶。

 その隙を逃さず右足を魔将の胸において踏み込みを整え、両手で魔将の顔面狙って、


 ラッシュを叩き込んだ!


 

「ドガドガドガドガドガドガァ!」


 

 刹那に叩き込まれる数十の爆拳。

 軍人、そして「ボクサー」の職に就いている菊池戦闘艦長のラッシュは魔将に気絶まで至らせるほどのダメージを与えた。

 しかしドーム状に空いた海の穴へ、押しのけられた水が重力と水圧によって空洞に向かって急速に戻る。

 いや戻るだけでなく、空洞が閉じる瞬間水が激しく衝突。中央から上方向に水柱が勢いよく噴き出し、爆発のそばにいた魔将を少し、中心にいた菊池戦闘艦長を大きく上空に吹き飛ばす。

 狙ったかのごとく菊池戦闘艦長は空中で体勢を整え、下にいる魔将へ最後の一撃を叩き込む。


「ドガァ!」


 相手の胸に両手の拳を突き出して、とどめを刺す。

 その爆発音はさながら決着のゴングのよう。

 魔将はそのままリング()に沈み、近くの船へと進む菊池戦闘艦長は勝利を誇るように右腕を突き上げていた。

第肆拾話を見てくださりありがとうございます!

さて、艦船を憑依させ、能力を発揮する鋼纏軍団ですが、能力はその船の逸話を基にしています。

協力してくださった友人K氏には頭が上がりません。

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