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第参玖話 『船ノ戦士ハ 海ニ舞ウ』

 付喪神という存在がある。

 日帝に古来より伝わる、長い年月を経た道具などに精霊(霊魂)が宿ったものである。だが、大日輪皇国軍の妖怪に関係する研究者によると、実際には少し違うという。


 付喪神となるために必要なのは精霊などのスピリチュアルな存在ではなく、その道具に込められた「人の意志」。大切にされたもの、崇め奉られたもの、そういったものほど付喪神になりやすいらしい。

 そしてもうひとつ、付喪神に必要なのはその意志の「強度」。

 より多く、強い意志が込められたものほど付喪神、道具が意思を持つ確率が高くなるという。

 さらにその意志が大きければより強大な付喪神ともなる。つまり短期間の間であっても、人の意志がその物体に集中すればその物体が付喪神となることもあるのだ。


 大日輪皇國軍が付喪神を研究していく過程でひとつの存在に注目した。

 それは付喪神の条件を完璧にみたし、それでいて建造・運用・補給・整備などを含めて数百人から数千人規模の人々、特にものによっては、関係者を含めると1万人以上が関わることもある物体。そんな物体はこれのほかにもたくさんあるかもしれない。しかしこの物体は込められた意思の「質」が違うのだ。人の夢、人の望、人の願い、人の野心、人の欲望、そして、人の無念や……()()。こめられた意志は他のものとは比べ物にならないほど多く、強い。


 その存在こそが……



 ***



 大日輪皇國軍戦線、第一戦線が一番西に位置しているが彼らが戦っているのはそのはるか西方。

 第一戦線の数十キロメートル先にある海岸線をこえて海上。

 ふたつの団が衝突していた。

 一方は木でできた近代的な船団。材木は禍々しい青黒い色であり、まるで幽霊船のような船の一群が向かってくる。

 

 しかしそれに相対するは鉄でできた巨大な船。砲身をいくつも携え、魔王軍の船へと砲撃を行う戦艦。天翔武鎧を身にまとった雷撃師団を送り出す空母。その前方で敵に向け魚雷を放ち、主砲で攻撃する巡洋艦や駆逐艦。


 砲撃音が絶えることなく鳴り響いている。大規模海戦がこの海上で行われていたのだ。

 

 艦船による一方的な戦闘かとこの事実だけ見れば思う人もいるかもしれないが、実際はそうではない。

 魔界の海戦は現界の海戦とは異なる。


 ひとつは敵側の船は魔法によって強度が補強されており、見た目以上の耐久力があるということ、そして敵に船からの攻撃も魔法のため対処が難しい場合があることだ。だが、耐久力に関しては砲撃による強行突破で攻略し、魔法に関しても撃ち落としたり、そもそも放たせなければどうということはないという思考で戦っている。

 2つ目、これが厄介な事実。

 この海戦の最前線に立つ巡洋艦。デッキでは、十数名の軍人が銃を構え、船の下へ向けて射撃していた。


「魔人を絶対に船へ乗せるな!」

「こっち手が足りない! 誰か来てくれ!」

「爆弾もってこい! 閃光弾でもいいから誰か!」


 現界とは決定的に違う、魔界での海戦の特徴。それは海でも活動できる魔人が、艦船へ直接攻撃を仕掛けているのだ。半魚人だとか、うろこを身にまとう魔人だとかが武器を持ち、艦船の下から攻める。だから乗組員は常時銃を所持して魔人が船に乗ってこないよう下を警戒していた。


 そんな状態の中、一人の兵士が甲板へと出る。

 銃は持っているがほかの兵士のようなアサルトライフルとは違う、銃身の長いスナイパーライフルのような武装。


「ここは私が出ます!」

 

 兵士は一枚の札を取り出して甲板を走る。

 そのまま船の先頭まで進み、


 飛び降りた。


 海の表面まで十数メートル。

 なにもバランスを崩したわけではない。


 その札を腰付近に当て、呟く。



瀛飆闘装(えいひょうとうそう)! 展開!」



 すると札から炎が上がり、兵士の下半身の表面をそう。

 炎が消えるとそこに現れたのは鎧。まるで天翔武鎧のような材質の装備が下半身全体に備え付けられていた。太ももの裏、ふくらはぎには小さな筒が伸び、足の下にはフィギュアスケートのブレードのような部品が出現。さらに腰には今持っているライフルのほかに、細長い長方形の武装がまるで刀の鞘のように取り付けられている。


 水面にぶつかり、白い水しぶきを上げる。落下した兵士は海に沈むかと思われた次の瞬間、爆発的な加速で海面を疾走。一隻の船のように白い航跡波を残して。


 兵士は水面を移動しながら船にしがみついている魔人を持っていたスナイパーライフルで撃破していく。


 瀛飆闘装(えいひょうとうそう)は大日輪皇國軍第八軍団、海轟軍団のなかの師団、鋼纏師団のメインウェポンである。魔界の海上で戦うのは舟や空中だけではない、水上にいる兵士、軍の名称では水上歩兵と呼ばれているが、彼らに対して戦う方法が必要であった。

 そこで軍の研究部が海の上でも白兵戦が行えるようにと開発したのがこれである。

 この武装により以前からの問題だった魔人による船特攻への対策が可能となったのだ。

 瀛飆闘装(えいひょうとうそう)は推力で浮かび続ける構造のため、停止することはできない。

 それでも高い機動力と海戦でおろそかになる近距離戦を補う兵装としては十分すぎる。

 なによりこの闘装はただ白兵戦を可能とする武装ではなく……


 その兵士のほかにも幾人かが瀛飆闘装(えいひょうとうそう)を装備して海上で魔人を撃破していく。ライフルだけでなく、マシンガンや剣を使って戦うものもいる。


 しかし海上にいる魔人は海上が生息地ではない。攻撃のため、海からしかたなく体を出しているのであって得意分野は水中。

 ゆえに……


 『今野隊員! 海中より攻撃!』


 オペレーターの通信に反射で今野は右へと旋回、次の瞬間先ほどまでいた付近が爆発、水しぶきが上がる。

 海中にいた魔人が魔法かはわからないが海上の今野に向かって攻撃を放ったのだ。敵はさすがに瀛飆闘装(えいひょうとうそう)と現在手に持つ重火器では太刀打ちできない。

 ()()()()()()()()()


「いい気になるなよ()()どもが! てめえらが有利な状況だと思ったら大間違いだぜ!」


 そう言うと今野は持っていたマシンガンをしまい、腰に、刀のさやのように差していた1メートルを超えるふたつの筒の上部につけられた2本のレバーのうちの前の方を握り、手をそのまままっすぐ前へと思い切り突き出す。

 後ろに体重を落として前へ倒れないようにした後、筒の先を水中へと差し込む。

 速度を落とし、すぐ後ろのレバーを握って横に倒す。すると、金属の嚙み合う音が響いた。

 そして再び前のレバーへと持ち替える。

 

「装填完了、魚雷発射!」


 レバーの引き金を引くと筒の先から魚雷が発射され、水中にいた魔人へと自動追尾で向かう。魔人はまさか攻撃が帰ってくるはずもないという油断で気を抜いていたため、反応が遅れてそのまま魚雷が着弾。

 爆発は水面へと届き、水上が激しく揺れる。


「ざまあみろってんだ」


 吐き捨てるように呟く今野。再び魔人の撃滅へと舵を切ろうとしたがしかし、次の連絡で速度を落とす。


『魔将の存在を確認。菊池司令隊長の支援へと当たられたし』


「……了解」


 通信に返事をした後、そのまま転身。


 ***


 はるか後方、空母に乗っていた、オールバックに厳つい目つきをしたが体のいい男、菊池司令隊長は甲板の上で白色の司令服から戦闘服へと着替えながら隣に立っている秘書兼副隊長の女性、澄川と会話していた。


「艦装時の注意点は覚えていますか?」


 淡々と連絡を伝える澄川。


「当たり前だぜ。()()()()()()()()、さすがにそんなのはわかってるぜ」


「ならいいのです。戦闘終了次第あなたのもとに『酒匂(さかわ)』が向かう予定なので、ちゃんと艦装を解いた後に合流して下さい」


「わかったぜ!」


 菊池の表情は戦争中とは思えないほど明るい。まさに体育系男子と言っていいだろう。しかし長年付き添った澄川は知っている。彼の分かったのうち50%はわかっていないということを。


「はぁ……本当に気を付けてくださいね? この船の憑装はピーキーなんですから。実戦時に自爆はシャレになりませんよ?」


「なあに! そんな時は勝利の宴んときの笑い話にしてやるぜ」


「……」

 

 呆れた表情の澄川の横で菊池分隊長は着替え終わる。


「そんじゃ行ってくるさ! 指揮は任せたぜ!」


「了解です」


 やり取りの後、菊池分隊長は甲板から飛び降りた。

 瀛飆闘装(えいひょうとうそう)を素早く身にまとった後、彼の手にはもうひとつの紙が。



 「久しぶりの実戦だぜ! 気合い入れようぜ! 『大鳳(たいほう)』!」

 

 

 


 ***

 

 

 


 「艦に心あり 余の乗艦を喜べば、余は彼女の健在と今日迄の奮闘を謝するものなり」

 

 宇垣纏第一戦隊司令官・陣中日記『戦藻録』より

第参玖話を読んでくださりありがとうございます!

戦闘機使えないなら空母いらなくねと言う質問に対し、空を飛ぶ巨大な式神の発着点とかに使われると答えときます。

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