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第参捌話 『交ワル剣 砕クハ鉞』

 「式神変身!」


 そう呟く本郷の足元に白と黒が渦巻きのように組み合わさり、勾玉の形をして輪をなしている陣が出現。

 胸の前の札が燃えるとともに、甲冑の色が変化。黒漆を使って塗装された威厳ある黒色から、大地を思わせる土色となる。そして兜から面頬が出現、顔を覆う。この面頬は顔全体、眼や鼻までも隠す。

 さながら外見だけ見ればロボットのようだ。

 

 その変形を察知した象頭の魔将だが再び本郷へと攻撃、拳で殴り掛かる。攻撃に対し本郷は今度はよけずになんと右手の拳で正面から殴り返したのだ。


 2つの拳がぶつかり、戦場で衝撃が(ほとばし)る。

 お互いに全力の拳。

 先に拳を引いたのは……


「ウオオオ!」


 魔将の方。

 二倍も大きい拳に本郷は勝ったのだ。腕を押さえて痛がる魔将に本郷が告げる。


「例え魔将とて! 式百伝獣(しきひゃくでんじゅう)がひとつ、『地揺魚(ナマズ)』を憑依させたこの俺に殴り合いで勝てると思うなよ!」


 これこそが第四軍団最大の武装、䨩鬼甲冑(りょうきかっちゅう)

 付喪神という概念をもとに設計され、特殊加工された甲冑に式神を憑依させることでその式神の能力を人間が使えるという優れものである。

 強力な能力を持っている反面、欠点も多い。

 重量があるため扱いに慣れる必要があること、甲冑を自由に扱うために「武士」の職業に就かなければならないこと、式神との相性に適正があること、そしてなにより作るのにコストがかかりすぎること。

 大量生産はどうかと会議になった時、六大財閥が大反対したほどだ。


 しかしそれに見合った性能を持った䨩鬼甲冑(りょうきかっちゅう)は大日輪皇國軍研究分野最大の功績のひとつともいわれている。


 本郷の鎧に憑依しているのは地面に潜らせて周囲を揺らす式神『地揺魚(ナマズ)地揺魚(ナマズ)での攻撃は振動を重ねることで一撃の威力を高めることができる。魔将の一撃すらも凌駕するほどまで。この能力はなにも殴りだけではない。

 本郷は抜刀し、両手で構えを取って魔将へと走る。

 魔将の一撃を交わし、放つ。


「奥義! 振揮大烈斬(しんきだいれつざん)!」


 地揺魚(ナマズ)の能力が乗った本郷の一閃は魔将の首を簡単にはねる。首は落ち、魔将の身体も地に倒れた。刀を肩で担ぎながら、本郷は呟く。


「魔将敗れたり、ってな」


 

 ***


 

 本郷の式神変身による勝利は景虎軍団長にも届いた。

 その報告に景虎は笑う。


「いいねえ、我も変身したいものだ。まあ、それに値する魔人がいるかだが……」


 先頭をバイクで疾走しながらすれ違う魔人たちを片手間に大刀で薙ぎ払っていく景虎。もうすぐ敵軍基地へと進入できそうだというところで、正面からこちらへ向かってくる魔人が一人。

 人間サイズの魔人だが、三本の角をはやし、褐色の肌と肩に担いだ直剣。迷うことなく景虎へとツッコんでくる魔人。このまま轢いてしまおうか、と思った景虎だが、謎の直感を感じバイクから飛び降りる。


 次の瞬間先ほどまで乗っていたバイクが爆発、爆風で数メートル吹き飛ばされる景虎だがしっかりと着地。


「我の愛馬が!」

 

 長年一緒に戦ってきた相棒の爆発にショックを受ける雷門。バイクの方を見ると爆炎の中から出てきたのど先ほど景虎へと走ってきた直剣を持つ魔人。

 魔人はブツブツとつぶやくと景虎に向かって怒りを含んで叫ぶ。


「貴様が大将か?」


 日帝語を話すということは魔法の類によるものだろう、と景虎は察するとともに言葉を返す。


「そうだ! 我こそが大日輪皇國軍第四軍団団長! 雷門景虎である!」


 名乗りとともに右手に大刀、左手に小さめの(まさかり)をもって構える景虎。

 ならばこちらもと言わんばかりに魔人側も名乗る。


「そうか、私の名はテルミド、魔臣テルミドだ。これより我が主、魔王ゼノンのもとに、お前を斬る」


 魔臣、魔将よりワンランク上の存在が今景虎の前に立っていた。


「ゼノン……なるほど、それがお前の”推し”というわけか……」


「推し、という概念はわからんが、私はゼノンに一応の忠誠を誓っている」


「それもまた”推し”だ。”推し”はいいぞ、最近我も新しい”推し”を見つけてなあ、彼女たちのセンスは前衛的かつ時代を先取りしすぎていると(ちまた)ではいわれているが我個人としてはそのままで行ってもらいたいなぜなら先取りしすぎていると言っても必ず時代はついてくるのだからいつかは彼女たちの時代が来ると信じて我は”推し”続けるのだそれに……」


 息つく暇もなくぺらぺらとしゃべる景虎にテルミドは呆れながら言う。


「何を言っているかよくわからん。日帝人はみんなそうなのか?」


「ふむ、心外だな。貴様はないのか? 魔王様の魅力など」


「そんなものはない。言うなら『強い』だけだな。私たち魔人はそれだけが忠誠の理由だ」


 淡々と話すテルミドの言葉に景虎は少し寂し気な表情となる。


「そうか……魔人とは”推し”を語り合うなどということはできんか……」


「ますますよくわからん」


「いいたいことはたくさんあるが一言で言うならば……”推し”のためだと思うと我は、日帝人はどこからか力があふれ出てくるのだ」


「それで言いたいことは終わりか?」


「ああ、終わりだ。じゃあ」


「「戦闘開始(やろうか)」」


 両者地を蹴る。

 先に攻撃を仕掛けたのは景虎。甲冑と、その上からでもわかる筋肉質な体系からは想像もつかない速さで先制攻撃、左手の鉞ではなく、右手の大刀を振り下ろす。しかしテルミドも魔臣、一応は驚いたものの俊足の反応により直剣でその攻撃を防いだ。


「速いな、お前」


「速いだけじゃないぞ?我は」


 そのまま大刀を押し込む景虎。それに呼応してさらに力を入れるテルミド。

 この拮抗を打ち破ったのは景虎の左手に持っていた鉞。テルミドの側面へと鉞を薙ぐ。気づいたテルミドは迷わず後ろへと跳んで回避、鉞は空を切った。


 すかさず追撃をする景虎。

 テルミドの胸に向かって刀を突き刺そうとするも屈んでよけられてしまう。さらにテルミドはそのまま剣を構え、景虎の右わき腹の鳩尾へと剣を振る。景虎はそれに対し左手の鉞でテルミドの動作を止めようとしたがテルミドはなんと右腕で攻撃を防いだ。攻撃を止められないと一瞬で判断した景虎はテルミドの剣を()()()受ける。

 だがその剣の衝撃に抵抗するのではなく、その衝撃を利用して狙ったように横へと飛ばされた。

 両者の間、十メートル。

 

「お前の剣、いいものだな。我の刀の一撃を防ぐとは思わなかったよ」


「当たり前だ。これは伝説の刀匠の魔人が鍛えた一本。格の差で言えばおまえが持っているような剣の比ではない。それどころかなんだその左手の鉞は。全然大したことなかったぞ? 右手を見てみろ? 傷ひとつついていない」


 鉞が当たったところを見せびらかすテルミドだが確かにそこには血すら出ていない無傷の腕が。


「ふむ、鉞に臆して防御に転じてくれると思ったがそう甘くはないらしい」


「バカめ、たとえ腕を切り落とされても再生はできる。貴様を殺すのが先決だ。我が至宝の魔剣でな」

 

「そうか、確かにその剣は大切なものらしいな。なら先に謝っておこう」


「何にだ?」


「その伝説の剣とやらにだ」


「いちいち意味の分からないことを言う奴だ!」


 怒りの表情を浮かべながら景虎へと走るテルミド。

 景虎は先ほどとは違い、受けの構えだ。テルミドは剣を下に構えていることから振り上げる攻撃だろうと予想する景虎。対処しようとした次の瞬間、目の前がチラつく。

 これはテルミドの魔法だ。

 先ほどまで剣でしか戦闘していなかったからこそできた突然の隙。さらにテルミドの魔法が炎や魔法弾などではなく、敵にめまいを起こさせるという攻撃ならばいくら景虎とて防ぐのは困難だろう。視界の点滅により一瞬対処が遅れ、気づけばテルミドの剣は顔のすぐ横。俊敏性のあって小回りの利く鉞で景虎はそれを剣の前に置いた。


(そんな飾りの鉞ごときで私の剣は止められん! 死ねぇ!)


 そう考えて鉞ごと景虎の頭を斬ってやろうと思いきり振ったテルミドだが……


 バキィン!


「な!」


 ナニカが割れる音とともに驚愕の声。


 それを発したのは……


「なぜ! 私の魔剣が! なぜ壊れた!」


 テルミドだった。

 鉞の刃にあたった瞬間、魔剣の刀身が砕け散ったのだ。予想外、驚きを隠せないテルミド。そんな彼に景虎は言い放つ。


「そういえば、我はまだ役職を名乗っただけだったなあ。我の軍での二つ名は『刀狩り』、改め刀狩りの景虎と呼ばれている。この斧は特性上対武器に対して威力をほこるのだ。我の前で武器を持った愚か者よ。もう一度謝ろう。これから起こるのはただの……」


 景虎は刀を振り上げる。

 恐怖と困惑の目線を向けてくるテルミドを見下ろしながら。


「一方的な弱い者いじめだからな」

第参捌話を読んでくださりありがとうございます!


式神変身の最中、謎の音楽が鳴っている......かも?


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