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第参漆話 『武士道トハ 突攻スルコトト 見ツケタリ』

 第五戦線。

 ここは他とは違う戦線であった。

 魔王軍側の転送魔法陣が設置されている基地があることに変わりはない。だが基地があるのは左右を山に囲まれた盆地であり、他の戦線と比べて一番防衛線から遠い位置に設置されてある。しかしその転送魔法陣がなんと基地内に3つ設置されているのだ。だから基地を防衛している魔人や魔将の数もほかの戦線の三倍。おそらく山脈を超えた大日輪皇國軍領での魔王軍側の本拠地なのだろうと大本営は予想。とても特撃師団の十偉将ら単体だけでは突破できないだろう。

 そう考えた大本営はこの基地の破壊を第四軍団に命令した。

 戦闘員は『武士』の職に就き、その戦法は四百年前の戦国時代の戦法とまるで変わっていない。他の軍団のほとんどが攻めてきた敵を撃退する「守り」の戦い方に対して、この第四軍団だけは「進撃」を戦い方の一つとする、いわば「攻め」の軍団なのだ。南郷総司令官による開戦の合図の後も、この戦線だけは様子見で待機、大本営からの命令を待つ。


 大日輪皇國軍で唯一「攻撃」を主とするこの軍はすでに基地の三方向から囲い、突撃の時間を今か今かと待ちわびている。

 第四軍団軍団長、雷門(らいもん)景虎(かげとら)は基地の左側の山の上に敷かれた陣で、騎馬師団の団長とともに遠くにある基地を眺めていた。


「ふむ、報告にあったようにやはりでかいな。破壊しがいがありそうだ」


 血のように赤い甲冑を装備する雷門の横で、黒の甲冑を身にまとう騎馬師団団長、雨宮(あめみや)も同感。


「ええ、特別な策でも作ろうかと考えておりましたが、いつも通りでよさそうですね」


「我、そして騎馬師団が火砲師団の援護射撃とともに超速で接近、敵陣を混乱せて歩兵師団を加えて混戦を制し、敵陣を破壊。準備はできているな? ()の調子は? 雨宮」


「ええ、三上整備長にやってもらったので絶好調です。今のうちの()は。音速だって越えられますよ!」


「頼もしいな。()のほうは嵐第九軍団長がやってくれる。負けぬはずはなし」


 そんな二人の背後では甲冑を着た武士、甲冑ほどではないものの軽い兵装を身に着けた兵士、作業着を着て武装や兵器をいじっている整備士が開戦へ間に合うようにとあわただしく動いていた。泥まみれの服を着た整備士の一人が景虎へと進言。彼はおそらく寝っ転がってまで景虎らの馬を調節してくれたのだろう。


「全兵装、整備整いました。いつでも出撃可能です」

 

 それと同時に大本営から連絡。


『敵軍基地ヲ 破壊セヨ』


 その言葉を受けて景虎軍団長はニヤリと笑う。整備士にお礼を告げた景虎は通信機を手に現在いる敵軍基地より東の陣、反対側の西の陣、そして基地の正面にある南の陣の第四軍団に対して伝令。


「これより! 第四軍団は戦闘を開始する! 我の合図を基に総員一斉に攻め込むぞ!」


 そう叫ぶと景虎は通信機をしまい、何十と用意されていたうちの最前に置かれていた『愛馬』にまたがる。

 キーを差し込み、エンジンボタンを押すと、静寂が破られ、最初は低い唸り声のような音が次第に轟音へと変わっていく。クラッチを握り、ギアを入れれば、タイヤが地面を捉えた感触が手に伝わる。アクセルを軽くひねると、エンジンの咆哮が陣に響き、その音を聞いた騎馬師団も、自らも愛馬、ならぬ愛車に乗った。

 

 エンジン音が何十と重なり、もしかしたら敵陣まで聞こえてしまうかもしれない、と新入りの整備士の一人が思うほど。


 騎馬師団。

 騎馬とは書いてあるものの、この師団は維持費、扱いやすさ、戦闘面の観点から見ておよそ五十年前に馬からバイクへと乗り物を変えたのだ。景虎軍団長の背後のバイクに乗っていた甲冑、牛島副師団長が景虎軍団長へ連絡。


 「西陣の方も準備出来たらしいですぜえ旦那!」


 そのことを聞いた景虎軍団長は背後でバイクにまたがっている騎馬師団全隊員に号令。


「てめえら! われらが覇道に障害があるぞ! どうするんだ!? 避けるのか!?」


 景虎軍団長の言葉に騎馬師団だけでなくその場にいるすべての隊員が呼応。

 

『否! 倒すのみ!』


「倒すだけか!」


『否! 砕くのみ!』

 

「砕くだけか!」


『否! 滅ぼすのみ!』

 

「そうだ! 勝利の栄光へと続く道に一切の障害があってはならない! さあお前ら武器は持ったな? 覚悟は決めたな? ならばいくぞ!」


 景虎軍団長が、その場のすべての騎馬師団がアクセルを思いっきりぶん回した。目の前は崖、そこをバイクで降りる。まさに源義経の鵯越の逆落としのごとし。


「第四軍団! 突撃!」

 


 ***


 

 第四軍団突撃の少し前、第五戦線の敵軍基地の魔人や魔将は焦っていた。

 二時間も立たずに自分たちがいる基地を除くすべての基地が破壊されたからだ。この先のあらゆる想定のプラン、戦闘が長引いた時、逆に有利に働いた時、そのすべての計画が破綻してしまったのだから。第五敵軍基地のテントのようなもので作られた簡易的な作戦室、魔王軍側の指揮の全責任を担っていた魔臣テルミドはこの事態を受けてストレスで腹を痛め、頭の中は思考が絡まった糸のようにこんがらがり、おおよそまともな思考ができる状況ではなかった。

 頭を抱え、考えを整理するように呟く。

 

「ど……こか……ら取り戻……す、近い……とこ……ろから、いや……兵の……数が足……りない。援軍を……よこさなければ……」


 一応魔王たちには連絡を行った。魔臣の一人として、部下として当然の義務である。もっとも、その報告の最中に生きた心地がしなかったのだが。

 魔王からの返事は、そうか、の一言のみ。

 失望されたのだ、と受け止めたテルミドはなんとか挽回しようと策を練るも、もう打つ手はない。『逃亡』の二文字すら頭をよぎった時、部下が作戦室へ入ってくる。


「て、テルミド様!」


 この時、テルミドは一瞬期待してしまった。転送魔法陣によって新たな援軍が、もしかしたら魔王様が来てくれたのかもしれないと。


 だが実際はもっと残酷で、現実的なものだった。


「敵が! 門番(ハーリス)がこの基地へ攻めてきましたぁ!」


 この瞬間、テルミドは一瞬気を失いかけるも、なんとか意識を保ち、思考を巡らせる。

 そして思いつく。この絶望は目の前の門番(ハーリス)共のせいだと。ならば自らの鉄槌をもとに、この危機を回避しなければ気が済まないと。


「ここに攻めてくる門番(ハーリス)の大将の首を魔王様にもっていけば、わたしだけは……わたしだけはぁ……」


 自分だけは助けてもらおう、という魔人らしい考えを飲み込んで部下に告げる。

 

「迎撃だ! この基地にいる魔人ども全てに伝えろ! 迎撃だぁ!」


 

 ***


 

 バイクの時速を限界まで上げるその一群が土煙を上げながら基地へと近づく。迷うことなくまっすぐと走っていた彼らの正面に第五敵軍基地(カムサ)を守ろうと魔王軍が立ちはだかる。魔王軍は地上だけでなく、空中にも陣取っていることが、地上を走る騎馬師団も認識。

 しかし騎馬師団は動じない。

 なぜなら空中の魔人には()が撃破するのだから。


 ………………

 …………

 ……

 騎馬師団へと攻撃をしていた空中の魔人のさらに上。バンダナを着け、他とは違う重々しい『天翔武鎧』を身にまとったこの男、空覇軍団軍団長(あらし)文風(ふみかぜ)は手に二メートルは超えるだろう、巨大な槍を持っていた。

 だがその槍の姿はあまりに機械的。

 槍の先端だけでなく、持ち手までも鋼鉄らしき素材で構成され、光沢を放っている。

 文風は槍を、先端が下となるように両手で持ち直す。

 

「いくぞ、乾昊奉煌槍(けんこうほうこうそう)。|神に代わって、罰を示せ《カミニカワッテーバツヲシメセー》。神威顕現」


 まるで感情が入っていないような棒読みで文風は虚空に向かって槍を突き刺す。


 


 ゴン!


 


 瞬間、天が轟く。


 

 基地の中の魔人の会話も、自然の音も、バイクの駆動音も、すべてがその音にかき消された。

 空が割れるような音とともに、雷が空中の魔人を穿つ。それもただの雷が放たれたのではない。文風を中心にまるで木の根のように広がったその雷は一本一本が魔人へと命中。雷が消えた後には空中にいたそのすべての魔人が地へと落ちた。

 

 一仕事終えた文風は息を吐いて呟く。


「後は頼むぜ、景虎さん」


 

 ***


 

 基地の南方、そこにいたのは甲冑を着こんだ騎馬師団ではない。

 ひな壇のようなものを立ててそこに何百人という兵士を配置、兵士は一人一人が足軽兵のような鎧を着て、そして火縄銃型の武装を持って敵軍基地へと銃口を向けて待機している。ひな壇の一番上かつ中心で椅子に腰かけている眼鏡をかけた女兵士は第四軍団火砲師団団長、織田(おだ)茉奈(まな)


 ぶっきらぼうともいえる彼女が待っていたのは合図。それは景虎軍団長の連絡でも、大本営からのものでもない。


 瞬間、空が光る。文風軍団長による乾昊奉煌槍(けんこうほうこうそう)の一撃だ。彼女はこれを待っていた。それを確認した茉奈師団長はゆっくりと腰を上げて下で銃を構えていた火砲師団に告げる。


「次は我々のターンだ! 目標は騎馬師団の正面の魔人! 撃て(ってー)!」


 突如数百条の光が魔人たちを襲った。

 

 ただでさえ上空の仲間が謎の雷により全滅、そして正面から突撃してくる門番(ハーリス)にパニックになっている中、こちらにも遠距離攻撃が来たのだから基地の防衛にあたっていた魔人はさらに動揺、陣形すらまともにとることができない。

 

 織田火砲師団長は双眼鏡でその様子を見ながら下の段にいる部下に対してさらに命令。


「さあ交代早くしろ―! 騎馬師団が到着するまでに3回は撃つからな!」


 彼女が率いる火砲師団はその名の通り遠距離から突撃する騎馬師団の目標に事前に砲撃を行い、騎馬師団の目標撃破を補助する師団である。

 火砲師団のメインウェポンは火縄銃型の『遠距離超火力携帯型単発銃』持ち運びが楽でありながら、何キロも離れたところに攻撃できるという優れもの。欠点としては充填の時間が非常に長いこと、反動が大きく訓練した兵士しか扱いきれないということだろう。しかしそんな大砲レベルの砲撃が何百と重なれば敵側からすればただで済むはずもなく、現に第五敵軍基地(カムサ)の魔人はこの上ない混乱状態に陥っていた。

 そんな魔人に彼らは容赦するはずもなく……


「皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 誰かが叫ぶとともに、蹂躙が始まる。

 騎馬師団はバイクに乗りつつあるものは刀を振るい、あるものは銃を撃って魔人を殺していく。バイクの機動力に加え、騎馬師団全体が連動し一糸乱れぬ動きをするため魔人も対応できない。

 先頭を走るのは景虎軍団長とは逆の、西から敵軍基地へと攻める騎馬師団副団長本郷(ほんごう)。甲冑を装備し、左手で刀を振るって魔人の首を落としていく彼だが突然上から気配を感じ、ハンドルを操作して軌道をそらす。


 バイクを止め、音の方向を見れば落ちてきたのは高さ3メートルほどの巨人。恐ろしいのは顔がなんと(ゾウ)ということだろう。その瞼は瞬きをして長い鼻が動いていることから、被り物ではないことが分かる。

 覇気から恐らく魔将であると確信。


「オオオオオ!」


 雄たけびとともに拳を振り下ろす象頭の魔将。その拳は何と燃えているのだ。甲冑を着ている本郷でさえ、その一撃は危険と判断し回避を選択。

 拳の後には大きなクレーターができていた。


「さすがに()()()()()耐えるのは不可能か……」


 そう呟く本郷。

 しかし焦ってはいない。なぜなら彼は本当の力を出していないから。


「教えてやろう魔将よ! われら日帝人の常識として……()()()()()()()()()()()()()()!」


 本郷は甲冑の帯にかけていた()を持ち、胸の前に持ってきて叫ぶ。


「式神変身!」

第参漆話を読んでくださりありがとうございます!

騎馬師団、最初はちゃんと馬を使ってたんですが諸事情でバイクになりました。

主にコスト面で。

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