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第参伍話 『獅子ノ牙ト 限界突破』

 回転する砲塔の中で射撃のスイッチに手をかける倉智。


 計算されたタイミングで砲身の発射口付近がちょうど魔将へと叩きつけられた。そして同時に発射のスイッチを起動。


 ドガン! と砲撃によるダメージと遠心力により威力の上がった砲身のたたきつけが同時に魔将へ穿つ。

 これはまさにと言わんばかりに倉智は叫ぶ。


零伐壱摧(れいばついっさい)・転破!」


 なんと倉智は特撃師団が使う零伐壱摧(れいばついっさい)を戦車で再現したのだ。その威力は先度ほどの零距離砲撃よりも高いことが、魔将のダメージからうかがえる。なにせ攻撃によって転倒した魔将を覆っていた鉱石だけでなく、その奥、皮膚を超えて肉が禍々しく見えているのだから。

 しかし相手は魔将。その程度の傷は時間はかかるものの治るだろう。そして零伐壱摧(れいばついっさい)転破を行ったことにより反動で砲身にも軽いダメージを喰らい、無茶な攻撃は無理だと判断。

 だから倉智は特撃師団へと託す。


「俺はここまでやったぜ! 後は任せた特撃師団!」


 倉智の言葉よりすぐに戦車の側面から沙良が魔将へと飛び出した。


「大輔! しらす! ()()をやる!」


「わかった」


「わかりましたあ」


 沙良の掛け声とともに三人が指輪に向けて呟く。


「「「開門!」」」


 ***


 特撃師団。

 大日輪皇國軍第二軍団の中の師団の1つであり、魔将や魔獣、一般の軍人では対処できない強大な敵を対処する師団。

 個々の戦力も第二軍団の中で最も強く、武器もさることながらもっとも日帝皇国らしい師団であろう。


 特撃師団の戦闘員は計1000名。団長、そして三人の副団長を別として、三人一組でひとつの部隊を結成。また、特撃師団は第三軍団や鋼纏(こうじん)師団のように序列が存在し、個人の強さによってそれは決まっている。

 特撃師団ではその序列二十位までの隊員は各々がカスタマイズしたオリジナルの武器、邪滅兵装(じゃめつへいそう)を持つことができる。その武装は大日輪皇國軍32結界『特撃師団・邪滅武装宝庫』に普段は格納されているが、部隊三人の「合図」により結界から武装が持ち主の元へと届く。


 ***


 そして入堂沙良の序列は七位。

 大輔としらす、二人の合図も重なり、32結界への扉が開く。正義が初めて魔界に行った時のような()()()()()。その中から出てきたのは歩兵携行対戦車火器、つまりバズーカ。だがただのバズーカ砲ではない。なんと6つの日本刀が、刀先が発射口方向に向けられ、棟は砲身と平行になるように取り付けられているのだ。

 さながら発射口が顔で、たてがみが刀のライオンのよう。

 故にこの武器の名は……


「久しぶりだな獅子吼ししく。さあ行くぞ」


 沙良は加速。大きく飛んで地上で仰向けに倒れていた魔将の腹へと着地。砲口を倉智によって与えられた傷口へと思い切り押し付ける。


「喰らいやがれ! 魔将野郎!」

 

 沙良が引き金を引く。


 爆発


 いや、砲弾だけではない。

 6つの刃も引鉄により仕掛けが発動。砲撃により破壊された部位にズバン! と刃が傷口へ驚異的なスピードで突き刺さる。彼女は特撃師団としてではなく、この一撃の反動に耐えるためにも常に鍛えているのだ。だからこそ特撃師団の中ではこの武器を扱えるのは彼女しかいない。

 この技こそが……


 「零伐壱摧(れいばついっさい)狻猊咬砕(さんげいこうさい)!」


 魔将の胸が、腹がその一撃により砕け散った。ここまですれば魔将とて生きていけるはずはなく、


「ウゴォ……」


 標的の活動は停止した。


「任務達成ェ!」


 左手の拳を大きく突き上げ、ガッツポーズを上げる沙良。すぐに魔将の死体から降り、大輔としらすと合流する。

 非常に満足した笑顔で。


「いやー満足満足! 勝てた勝てた!」


「勝てましたけど、ちゃんと感謝しましょうね。倉智機甲師団長、本当に感謝します」


 戦車ごと3人に寄せた倉智はかれらを見下ろしながら大きくうなづく。


「うむ! 俺もずっと訓練していた(わざ)を使うことができてよかった! まあ第四連隊長に無断で来たから怒られるけどなあ」


 豪快に笑う倉智だが特撃師団の三人は彼の自分勝手さに笑えない。


「第四連隊長かあ、あの人横文字しか使わないからいまいち言ってることわかんないんだよなあ」


「僕もそう思います……今回の作戦会議も地図がなかったらたぶんわかりませんでした」


「英語を使いたいのなら全部そうすればよいというのに……」


「そうすると俺が分からん!」

「そうすると私が分からん!」


 はっはっは! と笑う倉智と沙良。まるで茶番だなと呆れた表情で二人を見つめる大輔としらすだったが、突如作戦本部から1つの連絡が来た。第四連隊長からのお怒りのものではない。


『特撃師団団長・落下』


 この言葉が意味するのは……


「全員逃げるぞお! 特撃師団! 戦車に乗っていけえ!」


「「「了解!」」」


 倉智のご厚意に甘えて大輔としらすは戦車の中へと入り、沙良は上部のハッチに右手をかけ、車体の上に乗る。


「よし丹田! 今すぐ避難だ! 転進! のち全速!」


「わかりましたあ!」


 その言葉には丹田はすぐに従う。もちろん倉智の言葉が先ほどの無茶ではないこともそうなのだが、丹田も特撃師団団長の()()攻撃に巻き込まれたくないのだから。


 倉智らが転進して約五分後、第七敵軍基地の上空に『世界のヒビ』が出現。

 だが、沙良のような数メートルのものではない。まさに数()()()()()()。世界というよりも、空が割れたようだ。その中心から()は落ちる。


 まるで隕石のように。

 メラメラとすさまじいエネルギーをその体から光として発しながら落下。

 

 その姿をはるか遠くから見ていた倉智はやはりこう形容してしまう。


『まるで災厄が落ちるようだ』


 と。

 光は自由落下の速度で基地へと接近。

 

 その光に気付いた基地の魔人は慌てふためく者もいるし、その光へ攻撃しようとするものもいる。が、光は魔人が観測したものより大きかった。

 直径100メートル。一切の魔法や攻撃はそのエネルギーによって阻まれ、防ぐことはできずに……



 チカリと一瞬煌いたかと思えば、


 超圧倒的な大破壊、神話的な爆破。熱のオレンジと塵の黒が混ざったドーム状の爆発。

 

 それが、起こった。


 爆風は倉智までも届き、彼の髪を揺らす。その絶対的な力に倉智は苦笑い。沙良もまた上司の大破壊に恍惚とした顔となる。


「いやあ、いつみてもさすがとしか言いようがないなあ。言葉を失うぜ」


「当たり前だ。うちの団長は大日輪皇國軍第二軍団・影の軍団長! あの一撃は個人の『権利』だけなら大日輪皇國軍の中でもトップの威力! あの元帥閣下も褒めたものなのだよ!」


「らしいな。というか団長があそこにいるってことは有給取れたってことか」


「まだ忙しくないからなあ、ちょうどいい時期に戦ってくれて助かると思ってそうだな。ははっ!」


 こうして第七戦線もまたこの場で勝利する。


 戦闘開始から、1時間23分。



 ***



 爆発の映像を見て、正義もまた言葉を失っていた。光の強さに正義は目が点滅、眼をこすって痛みが引くのを待っている。


「あれが……人の出せる威力なんですか?」


 唯一ひねり出せた言葉がそれ。なにせ核爆弾だとか、そういったものを想起させる光景だったのだから。


「そうだよ。特撃師団団長、田中。二つ名は『対軍殲滅兵士』。彼の『権利』によって放たれるあの一撃は元帥閣下の次に強い。まあ、原理上あれはどちらかというと攻撃ではないんだけどね」


「いったいどんな恐ろしい人なんだ……」


 恐怖で唾をのむ正義だったが、隣で一緒に視聴していた翔真がその言葉に反応。

 ちなみに映像を見ているのは正義と翔真の二人。燐、仄、涼也は魔王軍の残党狩りへと出撃している。元気なことだなと正義は見送ったのだった。


「そうかァ? 1回会ったことあるけどよォ、めっちゃ優しい人だったぜェ。なんせオレにまで敬語使ってたんだからァ」


「職業柄ほとんど敬語しか使わないってのもあるからね。それにしてもあんな聖人がやっていい爆発(もの)じゃないけど」


 翔真に続いて近藤も正義の言葉に反応。


「それに正義君だって田中さんに会ったことあるよ」


「え! そうなんですか!?」


 記憶の中からその「田中」らしき人物を検索する正義だがわからない。職業ぐらい聞いてみようと近藤にしゃべりかけようとした瞬間、オペレーターの一人が近藤へ報告する。


「第三戦線、『祠』を発射」


 来たか、といわんばかりに近藤は笑って正義の方をちらりと見る。


「これからちょっと面白いものが見れるよ」

第参伍話を読んでくださりありがとうございます!

零伐壱摧ですが作者が一番気に入っている技です。

たぶんずっとこすり続けます。

バリエーションも無限にわいてきますし。

感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!

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