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第参肆話 『鉄ノ馬ト 豪胆騎士』

 第七戦線戦場ど真ん中。魔将召喚の報告と同時に連隊長から作戦報告の旨の連絡によって特撃師団の三人はその魔将討伐のために指定された座標へと疾走していた。


「ようやく出番が来たなあ! さあ行くぞ! 大輔(だいすけ)! しらす!」


 背後の仲間にそう叫ぶその女性はキリっとした目に八重歯とくせ毛が強い後ろ髪、荒々しい雰囲気を思わせる軍人、入堂(にゅうどう)沙良(さら)は銃片手に戦場を駆け抜けていた。

 彼女を追っているのはちょび髭の男(うん)大輔と、たれ目の青年、高須しらす。雲大輔もまた二丁拳銃に剣を装着させ、しらす青年はマシンガンを片手に走る。


「この前の魔将の時は手ごたえなかったからな! 今回はぜひとも楽しみたい! そうだろ、しらす!」


 振り返って青年に聞く沙良。


「えっと……ぼくは戦いたくないです……怖いので」


 彼女から目をそらして呟くしらすだが、その態度に不満を覚えたのか沙良は再び叫ぶ。


「そういう態度だからぁ! この前の出撃に来なかったんだろ! それでも特撃師団か!」


「あ、あの時は腹痛でぇ……」


 言葉で攻められて泣きそうなしらす青年だが大輔がしらすに味方する。


「そう言うな沙良。ちゃんと病院の領収証はあったんだから()()()()ではないんだ。そしてもうすぐ魔将のところへとたどり着くぞ」


「まじか! さあ気合い入れろお前ら! 『着剣』!」


 彼女のマスケット銃から刀身が生え、彼女もまた加速。ついに魔将を視認する。魔将の姿は4メートルほどの人型だが、筋肉質で下半身とは不釣り合いなほど大きい上半身と、頭からは一本の大角。

 いわゆるオークというものだろう。


 いつもどおり潰せばいい、と思った沙良だが、次の瞬間目を見開いた。


『○○○○○○』


 不思議な呪文のようなものを唱えた魔将の上半身からなんと宝石のような塊がぼこぼこと出現。

 まさに鉱石人間と形容すべきだろう。戸惑った沙良だったが恐怖はなく、むしろ戦意があふれ出る。そんな彼女に対し、大輔は冷静にアドバイス。


「おそらくあの魔将は魔王によって『眷属化』された、魔王の力が使える魔将だろう。気をつけろ、沙良」


「わかってらい!」


 だが沙良はさらに加速。恐れるどころか強者を前に笑っていた。本当にわかっているのか? と大輔は呆れてしまう。

 魔将もまた、沙良の存在を認識。鉱物となった腕をバキンバキンとならして構え、拳を沙良に向けて放った。


 沙良は回避を選択。彼女がかつていたところには大きなクレーターが出現。すかさず彼女は照準を魔将の腹に定めて引き金を引く。


 鉱物の肉体に銃弾が効くことはなく、沙良は顔をゆがめて舌打ち。そのことを大輔としらすに報告。

 

「こいつ、普通の銃弾は効かない!」


『了解』


 報告を聞いた大輔はしらすに伝達。


「沙良が魔将(やつ)の注意を惹きつけている。私が攻撃するからしらすは沙良の所に行ってくれ」


「わ、わかりました」


 咄嗟の命令だったがしっかり理解してしらすも覚悟を決める。気弱な性格とはいえ、彼も特撃師団なのだ。


 大輔は魔将の背後へ、しらすは魔将と交戦している沙良の方向へと向かう。彼女の圧は苦手ではあるが、兵士たるものその感情よりも任務を優先。

 沙良としらすは目を合わせる。


『下がってください』


『仕方ねえな』


 言葉はいらない。何年も同じ部隊で戦ってきた彼らにはそれだけで十分なのだ。銃身で腕を受け流した後にいったん離脱、しらすとスイッチ。


 しらすは顔面に向かって爆弾を投げた。煙幕をまき散らして魔将の視界を狭める。


 と同時に大輔が魔将へと接近。

 二丁の剣を構えて放つは、


零伐壱摧(れいばついっさい)・交!」


 ガン! という切ったとは思えない音が響く。

 そして実際に、


「やはり効かんか……」


 多少砕けたものの傷らしい傷はなく、今の自分たちではこの魔将を撃破することは困難だと判断。援軍を待つか、と考えていた大輔だったが次の瞬間とある音が彼の耳に入る。

 その音はガチャガチャという金属音と地面の砂利や石を押しつぶしたり、弾き飛ばす音。次第に大きくなり、さらに低くて重い駆動音も加わってきた。

 一体何なのだと振り向く大輔のすぐ横を()()()()()()()が通り過ぎる。

 すぐさま前を向くとそれの正体は……


「せ! 戦車ぁ!?」


 そう。

 なんとキャタピラーで地上を動き、長い砲身を持った鉄の塊が魔将に向かって突っ走っていたのだ。戦車の上の砲塔ハッチから一人の男が上半身をのぞかせながら。


「さあ()丹田(たんだ)ぁ! そのまま突撃だあぁ!」


 男は背をぴんと伸ばし、左手を腰に当てて右手は魔将へ指をさしている。

 その言葉は戦車を運転している人に向けてかけたもの。しかし運転手は思っていたこととは違う言葉だったらしく戸惑うように反論。


「え!? 倉智さんが砲撃するんじゃないんですかあ?!」


「そんなわけないだろう! さあ突撃だ! 砲身をぶっ刺してやる!」


「無理ですう!」


 泣き言をいう丹田だがブレーキは一切かけず、むしろ加速レバーを引いた。

 時速80キロメートル。重層甲にもかかわらず速度にも特化させた倉智専用のこの機体(戦車)はまさに戦場を駆ける鉄の馬。倉智は魔将と戦闘している沙良たちを視認、命令を下す。

 

「お前ら! ()()()()()()命令だ! そいつ押さえとけ!」


 咄嗟の命令だが三人は、彼が上官かつ強さを知っているため反することなく承諾。沙良と大輔は離脱、しらすは再び爆弾を投げるがそれは先ほどの煙幕ではなく、


 電撃。


 ビリビリと雷が魔将をまとい、魔将は一旦体が動けなくなってしまう。

 そこに……


「とぉおお↑つげきぃい↓い↑!」


 砲身をまるで突き刺すように魔将へとぶつける。砲身の発射口は魔将の胸へと叩き込まれた。それも正面から。

 そして叫ぶ。


発射(ファイヤア)!」


 ボガン! とゼロ距離で戦車の砲弾が魔将へと炸裂。爆発とともに魔将は数メートル吹き飛ぶ。威力は大輔の零伐壱摧よりも高い。その胸の鉱石は砕けるように崩壊し、皮膚がさらけ出していた。

 だがすぐに修復。傷の周囲の鉱物が傷を侵食するように治す。

 

 しかし鉄の馬は止まらない。


「突撃をやめるな丹田あ! 殺すまでやるぞお!」


「ひええ!」


 と泣きそうな声になりながらも加速レバーを思い切り引き、再び魔将へと接近。だが魔将は同じ手を食うことはなく、拳で殴り掛かる。


「回避だ丹田あ! そうしんと俺が死ぬぜ!」


「了解い!」


 自らの命の危機にもかかわらず倉智は全く動じることなく冷静に丹田へと命令。すかさずハンドルを切って魔将の拳を紙一重で避け、そのままの速度で疾走、魔将と50メートルほど距離を取る。が、戦車よりも魔将の方が小回りが利くのは必然。

 すぐに魔将は戦車に向けて走り出した。


「まずいぞ丹田! このままでは!」


 そう叫ぶも一切の焦りを表情には出さない倉智。変わらず豪快な声色で丹田へと伝える。

 それでもピンチはピンチ。

 

「丹田!」


 ピンチ、そして倉智のシンプルな掛け声。

 これが意味するは……


「ま、まさかあ……」


「ドリフトしろ!」


「無茶言わんといてくださいぃ!」


 半泣きになっているだろう丹田の声だが彼はすぐにハンドルを反転。同時に戦車のキャタピラーが瞬時に地面を引きずり、地面と接触していたキャタピラーがスリップ。巨大な履帯の一部が滑り、強烈な火花を散らしながら、戦車は旋回。ギギギギと戦車の後部が大きく横滑りしながら、重厚な車体がまるで機械の獣のように回転し、強い煙と泥が舞い上がる。スピードを調整しながら、まるで床を削るかのようにキャタピラーがグリップを失い、またすぐに再グリップ。

 戦車の側面が魔将へと向きなおす。


 砲身もまた回転。ドリフト中の激しい振動の中で倉智はレバーを操作して照準を合わせる。

 そのタイミングは立った一瞬。

 だが倉智にとってはそれだけで十分なのだ。


発射(喰らいやがれ)!」


 轟音とともに魔将もわき腹へと砲弾が着弾。衝撃は鉱物の鎧を超えて肉体へと伝わり、膝をついてしまう。

 もう一度丹田に命令。


「突撃だあ!」


「はいぃ!」


 丹田も覚悟を決め、ハンドルを握る。ここで決めると言わんばかりに。

 加速レバーを最大まで上げる丹田。そして倉智もまた戦車内のとあるスイッチを押し、その後レバーを右に倒す。するとなんと戦車の砲塔が思い切り回転、グルグルと回り始める。その速度は上がっていき、魔将とはあと数メートルまで接近するが速度は衰えない。コーヒーカップに乗っているかのごとく視界が変わる中でも倉智はレバーだけはなさない。

 つまりこの回転する砲身を魔将にぶつける気なのか?

 否、それだけではない。

 倉智が考えているのはもっと荒々しい攻撃なのだ。


「見ておけ特撃師団一同! あの技は! てめえらの専売特許じゃねえんだぜ!」

第参肆話を読んでくださりありがとうございます!


丹田さんはもとレーサーです。腕は確かです。


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