第参壱話 『戦場ヲ 壊ス』
走り始めて五分。
青白い巨大なドーム状のようなものが見え始める。おそらくあれが近藤たちに言われた転送魔法陣を覆う『基地』、そしてそれを覆う防御魔法の壁だと正義は気づいた。
ここで正義は懐から札を出す。使札兵ではないものの、一体だけならば正義のような式神使いの職に就いていない人間でも扱うことができるのだ。
「えっと、確か召喚の言葉は、『かの朝敵を掃うべく、その威とともに顕現せよ』〈宮爾羅〉」
正義が札を空中に放り投げるとまるで紙というよりもボールのような挙動で空中に弧を描く。だが落ち始めた瞬間に今度は下から風を受けた羽のように急激に舞い上がった。地上から数百メートル飛んだところでまるで太陽かと思うほど巨大な火球が出現。
そこから顔を出したのは……
オオォオオォオオオ!
地上全てを震えさせる咆哮とともに出てきたのは体中に呪文のようなものが書かれた鯨。
例えるならば耳なし芳一のよう。だが体の色は鯨のような青黒いものではない真っ黒なものであった。
まさに禍々しいと誰しもが思うデザインであった。
………………
…………
……
転送魔法陣の防衛にあたっていた魔人の多くは近づいてくる正義たちよりも突如として現れた怪物に注意を向ける。
なぜなら見るからにそちらの方が危ないと察知したから。
そしてなにより魔将という指揮系統が前線に出てしまってろくな指揮官のいない転送魔法陣基地の魔人は個々の判断で動くしかなくなったこともあるのだが。
故に地上からの接近はたやすくなった。こちらに攻撃してくる魔人もいるがそれでも正義たちが対処できるほどの数。小銃の乱射でも対処。そんな混乱に陥った基地に彼らがやってくる。
〈破壊弾!〉
弾丸が防御結界に穴を開けた。
人体への威力よりも物体、特に硬い物質に対して威力をほこるように意志を込められた弾丸は基地のバリアすら破壊。
そこから二人の兵士が基地へと進入。中央にある転送魔法陣へとひた走る。もちろん侵入者に対して魔人たちは迎撃を行う。
この状況も訓練通り。もともとは燐と仄が突破口を開く予定だったものの、いま彼らはいない。
だから、
「樫野流薙刀術・突甲!」
涼也がその役目を背負う。
彼の薙刀による突撃により正面の魔人が吹き飛ばされる。
正面にいる魔人は涼也が、側面や後ろから向かって魔人に対しては正義が対処。
「貫通弾連式!」
貫通弾の意志を込めた弾丸を放つ正義。一発一発の威力は三連式の時の貫通弾には及ばないものの、魔人を撃破、そして魔人たちは初めて見る銃という武器に対し慎重にならざるを得なく、二人で何とか突破していくが、
「くそ!」
「うん……多いね。きつい」
さすがに敵陣のど真ん中。魔人とて彼らを優先して排除しようと動くのは必然。数の利も魔人側にあり、こう囲まれるのは時間の問題であっただろう。
ついに正義たちは囲まれてしまう。圧倒的ピンチだ。数が多いのもそうであるが、如何せんここにいるはずの仄や燐がいないのが大きい。
正義と涼也がお互い背を合わせ、警戒する。
「うん、正義君、まだ撃てるかい?」
「いや、リロードしないともう無理だ」
「うん、つまりピンチか」
徐々に二人へと近づく魔人たち。一応は正義の銃を警戒しているらしい。銃口を向けられると防御の態勢を取ろうとする魔人がいるのだから。すぐに襲ってこないのはそれが原因か。
しかし打てないと判断されれば一瞬で襲ってくるだろう。
『撤退』の二文字が正義の頭にチラつく。
だが、
「龍獄門・青龍のうねり!」
「陰陽火之道・炎蛇!」
魔人の包囲網の向こうからそんな掛け声が聞こえるとともにその方向から魔人の悲鳴が聞こえ、さらに火柱が見えた。その2つの勢いはこちらへとどんどん近づいてくる。ついには正義たちを囲んでいたうちの最前線にいた魔人まで撃破、2つの人影が正義に叫ぶ。
「やっと追いつきましたわ!」
「ああ! おいてくんじゃあねえぜ! 正義テメコラア!」
それに続いて弾幕が魔人を襲う。弾幕の発生源を見ると式神兵のほかにそれを召喚した翔真も立っている。
「燐! 仄! 翔真!」
そう。
正義と分離後、背後からの敵軍を対処した3人もまた転送魔法陣基地へと攻め込んでいたのだ。
彼らの到着、さらに翔真による式神兵の召喚で基地内の魔人はパニックに陥る。
「まさか追いつくなんて思わなかったよ」
「それは俺様たちを侮っていたってことか? あ?」
「心外ですわね!」
不服そうなセリフを放つ二人だがその表情は悦び。正義と合流したことで歓喜の気持ちがあふれ出る。
「うん、感動の再開は後にして、転送魔法陣を破壊しよう」
「「「おう!」」」
他の四人による突破力になす術なく魔人はやられていく。
そして……
『こちら晴宮正義! 転送魔法陣を発見! 破壊します!』
サーカスのように布のベールで隠された目立つ建造物。その周囲の魔人をアサルトライフルで撃破する。
中に入るとそこには床に文字の書かれた魔法陣。おそらく転送魔法陣だ。大きさは家がそこに1つはいるほどぐらいか。この魔法陣を破壊するためには、
(中央にあるあの結晶を破壊する!)
作戦会議で示された破壊方法。背後の警戒を三人に任せ、照準をその結晶に合わせて引き金を引く。
〈真破壊弾!〉
パリーンと音を立てて結晶が砕け、床の魔法陣が霧のようにゆっくりと消えた。通信機である指輪を口に近づけ、後ろで戦っている味方にも聞こえるように叫ぶ。
『転送魔法陣の破壊完了! ミッション! コンプリートだあ!』
第参壱話を見てくださりありがとうございます!
真貫通弾のもう一つの案は「ビッグ・ジョン」ですが破壊弾と被るのでボツりました。
感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!