第参拾話 『戦場ヲ 撃チ抜ク』
『おいおい……』
『うん、飛んだね』
上空で涼也を見下ろす蟲型の魔将。明らかに怒りを含んだ殺意を二人に向けている。どちらに攻撃が来るかわからないためお互い警戒。
魔将はふわりと飛びあがり、落下。
その先は……
「俺かよ!」
弾丸により足を一本落とした正義に対して体当たりするかのように地上へ突進。この速度で突っ込まれてしまえば怪我は必至。ならば速度をある程度下げなければと正義は連射式に切り替えて魔将を狙う。
〈衝撃弾!〉
普通の弾丸の音とは違う、大砲のように鈍い音が魔将に着弾。傷はないようだが明らかに嫌がっている様子の魔将。
それでも魔将は止まらない。
(さすがに今の意志じゃ足らないか……ならその羽を落とす!)
正義は三連式に切り替え、命中の意志を30パーセントに配合しなおして引き金を引く。
〈貫通弾!〉
弾丸ははじき返されることなく羽を数か所貫いたことで、空中で魔将はバランスを崩す。ふらふらとよろけ、そのまま地上に落下すると思ったがそれでも正義へと引っ張られるように飛翔。さすがに近づきすぎたため正義はその場を離れる。
魔将が落下。
正義はその爆風に巻き込まれて数メートル吹き飛ばされる。その轟音と土煙から、直撃すれば跡形もなく消し飛んでいただろうと思い正義は戦慄してしまう。
『うん! 正義君大丈夫かい?』
『あ、ああ!』
涼也からの心配の連絡に返す正義。だが魔将の羽は脚とは違い治るのか正義があけた穴はシュルシュルとふさがり、魔将は再び空へと飛翔。
走ってきた涼也と合流し、正義たちは魔将を見上げながら相談する。
「どうする?」
「うん、まずはあいつを地上に落とさないとね」
「でもお前は無理だろ?」
「うん……そうだね、薙刀だけじゃ、無理だね」
「何か策があるのか?」
「うん、あるよ。樫野家には、っと危ない」
落ちてきた魔将に二人は二手に分かれながらよける。爆風と煙で涼也は前が見えなくなった。
だが魔将はそのまま腕を薙いで正面にいた涼也へと攻撃。
「涼也!」
正義の叫びから何か攻撃が来ると予測、薙刀を構える。と同時に煙の奥から魔将の右手が向かってきた。
「樫野流薙刀術・流星!」
右斜めから振り下ろす一撃で魔将の腕を受け止める涼也。一瞬打ち勝ったかと思われたがやはり相手は魔将。そのまま吹き飛ばされてしまう。
着地はできたがかなり飛ばされた威力を落とすための踏み込みのせいで体力を使う。
〈爆発弾!〉
涼也を守るため魔将の注意を爆発弾で引く正義。
空に浮かんでいた魔将は涼也へと向かっていたが、正義が連射式に切り替えたことで魔将の全身に爆発が起こり、それをうっとおしいと思ったのか軌道を変えて標的を正義とした。向かってくる魔将に対しもう一度羽を撃ち抜こうとした正義だが魔将はそれを予測した魔将が動きを変える。
おおきく横に飛んだり、落ちたり上がったり。狙いを定めようとさせてくれない。
(まずい、照準がブレる。命中の意志を上げても貫通の意志が下がって結局羽を壊せない……どうする)
決断に迷う正義。
切り札もあるがそれは今撃ちたくはない。
『正義君! 僕が奴を地上に落とす! 一瞬でいい! 止めてくれ!』
涼也からの通信。
先ほどとは逆の命令。そこには正義が涼也と暮らしてきた今まで感じた中で一番彼の本気度がうかがえた。常に冷静で余裕を持ってきた彼とは違う声色。
そして正義はその必死さに応える。
『わかった! 頼むぞ!』
そう言った正義はなんと魔将から逃げるどころ前へと走り始め、魔将と接近。
その理由はたった一つ。
魔将を止める弾丸を確実に当てるため。空で不規則に飛ぶ魔将だがでも確実に正義に近づいている。だがら正義も近づけば魔将もその動きをどんどんと収束していくのだ。
二人の距離、50メートル。
(さあとまれ魔将! 意志『衝撃』100パーセント)
正義は引き金に手をかけて、
〈真衝撃弾!〉
その一発は魔将の肩付近に命中。魔将はまるで見えない爆発が起きたかのように空中でよろけた。うめき声をあげて速度が下がる。
その少し後方に魔将を追っていた涼也は薙刀を右手に持ち、左手に式神札を持って前に突き出す。
「さて、樫野流鎖銛術」
***
樫野家の最初は最低であった。
およそ400年前、大日輪皇國軍の前身の組織が決めた武族十六家に選ばれた樫野家の当主は当初自身の無力さに絶望していた。宮本家のように1つの武器を限界まで、いや限界を超えて極めた武器もなく、織田家のように新たな武器を開発することもない。
ただ運よく武功を上げ、結果選ばれただけ。その事実に直面した当主は使っていた薙刀だけでなく、様々な武器をサブウェポンとして研究し、そして3つの武器を開発した。
樫野三大宝具。
初代と二代目当主が己の技術と人脈により作り上げた技術である。
***
そうつぶやくと左腕には腕が見えなくなるほどの大量の鎖が巻き付き、銛が弾となっているボウガンが出現。
照準を魔将に合わせ、引き金を引くと銛はすさまじい速度で魔将へと飛翔、突き刺さる。
(うん、さすが家の三大宝具、よく刺さる)
もう一度引き金を引くと鎖が勢いよく回収され、涼也は魔将の方に引っ張られた。
空中で近づきながら涼也は思考する。
(うん、ここからは一発勝負。この技を今の勢いとともに放つ。だからタイミングを間違えれば僕だけじゃない、正義君も死ぬ。でも……)
体勢を立て直して両手で薙刀を構えなおす。
(ここで決める! その自信しかない!)
集中力を高め、敵との距離を測る。あと何メートルか、あとどのくらいで振ればよいか。数値という明確な答えは作らない。体が無意識に分かるのだから。今はただ、わいてくる闘争心の赴くままに振り上げた。
『樫野流薙刀術・奥義……』
魔将まであと十メートルもなく、どこに撃つかを決めて振る。
放つ地点は決定、羽の付け根。
『天落!』
加速エネルギーを含んだ涼也渾身の一撃が魔将の右羽の付け根へと直撃。魔将の外骨格を響かせ、ヒビ割れ、破壊した。
その衝撃と付け根への直接攻撃によって魔将が墜落。地上では足を使えずもだえるそのうえで涼也が正義にとどめを刺すよう叫ぶが正義はすでに動き出していた。
「いけ! 正義君!」
「余燼在る砂漠、水面映る日食、仁倶戴天の盟……」
これから撃つ弾はほぼ近距離、数メートル以内で放つことで最大威力となるよう調整している。だからこそ限界まで近づき、魔将の後頭部へと位置どって銃口を向けた。
込めるは貫通の意志100%。
〈真貫通弾!〉
轟音が戦場に響き渡り、魔将の頭に風穴があく。うめき声をあげ、正義と涼也が警戒するが、魔将はそのまま項垂れた。
「対象……」
「うん、沈黙。僕たちのしょ……」
勝利宣言しようとした涼也だが正義はすぐに走りはじめる。
牙天国綱の弾をリロードしながら。
「うん?! どこに行くんだい! 正義君!」
「俺たちの役目は転送魔法陣の破壊だ! 行くぞ!」
そう掛け声する正義に涼也は疲れを忘れて応える。
「うん!」
第参拾話を見てくださりありがとうございます!
正義君の真弾丸の名前は詳しい人が見ると?となるかもしれませんが「かっこよければいいじゃない」の精神で決めてます。
ちなみに命名の際正義君と燐ちゃんの意見が対立したりしました。
いつか小話でかきたい。
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