第弐捌話 『戦場ヲ 制ス』
式神兵と魔王軍がぶつかり合っている上空、砲撃をやめたことで魔法使いや魔人が地上の式神兵を攻撃するようになっていた。安心安全な場所で一方的な攻撃ができるのはさも気持ちよいだろう。
だが、そんなフィーバータイムももう終わる。
軍側から数十の飛行物体が魔人たちに接近。魔法使いたちが簡単に狙えないよう不規則で三次元的な動きをしながら。その群はだんだんと三人一組で動くようになる。
一組で一体の魔法使いや魔人を撃破。
それこそが烈攻師団の戦い方の1つ。
三人のうちの一人が空中で減速し、魔人に照準を合わせる。
引き金を引くと銃口から明らかに防がなければならないであろう青白い光が空を斬る。
魔法使いはすかさず魔法で作った障壁を作って防ぐも……
黒板を爪でひっかいたような耳をつんざく轟音がなり、ボワン! と灰色の煙がさく裂。魔法使いは何も感じることができない。その間に外の二人も高速で移動し魔法使いを中心としてその三人を結ぶと三角形となる陣を敷く。
この戦術技の名は……
「「「天翔三極陣!」」」
煙が散る前に、三人の銃撃が中心の魔人を穿つ。突然のオールレンジ攻撃に魔人は対応することができない。
そして魔人は落ちていく。翼の折れた鳥のように。
***
一体一体に十秒も使うことなく魔法使いを落とし、撃破していく様子を由良と光は愛沼についていきながら見ていた。まさにその様子は戦闘よりも作業だと思えてしまう。
「貴様ら! 魔人、魔法使いの効率的な倒し方を知っているか!」
愛沼が振り向くことなく二人に聞く。
「いえ……」
「知らぬ」
「そうか! なら教えてやる! 魔人は人が持ってる五感のほかに第六感……『直感』を持っていることはわかるな!」
「まあ……」
「それは人と同じ! 感覚を潰すのだ! 先ほどの煙は魔人の視力と聴力を奪うだけではない! 煙には改良された極小の微生物型の式神が千込められている! 小さいが気配だけは大きいよう改造されたもの! それで第六感すら無効化して潰すのだ! 魔法使いに関しても同じ! 最初の見た目は厳つい銃弾を発射させその一点にバリアを展開させ、その後すぐに全方向からの攻撃で撃ち落とすのだ!」
「ご教授感謝する」
「そしてもうひとつ! 魔王軍を効率よく倒す方法は……ついてこい!」
愛沼が加速する。二人がついていくのに精いっぱいなレベルまで。
愛沼が向かう先には魔人が集まっている地点。おそらく小さめの集合場所のようなものなのだろう。
中心にいる2mはあるであろうひときわ大きい魔人。集合体の頭と由良と光は考察。魔人の集合体に愛沼は迷うことなく突っ込んでいく。
「由良! 光! 援護しろ! それくらいはさせてやる!」
傲慢ともいえる命令に由良と光は従って武器を構える。
魔人側もこちらに向かってくる愛沼らに気づいたのか魔法などで攻撃。
敵までの距離はおよそ一キロ。その程度の距離など由良にとっては百発百中。天翔武鎧で攻撃を避けつつ、スコープを除いて照準を魔人に合わせ、引き金を引いていく。平然と敵を狙撃していく由良だが、空中で動き回りながら数キロ離れた敵を狙うのは彼女自身の才能だろう。
光は白く輝いた光の矢を手で創造。
その矢でコンパウンドボウの弦を最大まで引くとガコンと音が鳴り、両端の滑車がギギギと回り始めてさらなる溜めが発生。
「ゆくぞ、士道光、『円天ノ型』」
そう呟くと光の背後の手が移動を開始。
光を中心として花弁のように手を広げ、並ぶ。光が弓を発射するとその矢は銃弾レベルの速度で魔人へと接近、そのうちの一体に矢が突き刺さる。その瞬間士道光の背後にある6つの手の手掌から光速の熱線が放たれ、矢が当たった魔人を貫通。
魔人を堕とす。
弓、そして6つの腕が士道光の命中必殺を成す式神なのだ。
味方が次々とやられていき、魔人共は焦っていく。そんな彼らに単身で突っ込むのが1人。
『2人ともよくやった! そして見ておけ! 魔人ってのは頭を潰すのが最適解だ!』
愛沼は中心にいる大きい魔人に迷うことなく飛んでいく。
部下らしき魔人が愛沼を妨害しようとするも、彼に追いつくことは出来ず、また銃身に備え付けられた剣ですれ違いざまに切られてしまう。
魔法で狙おうとするもののもいるがほかの魔人が邪魔で安易に撃てない。あっという間にその魔人の懐へ潜り込む。
魔人は追い払うように腕を振り回すも愛沼には当たらず、遂には受け流される。
「遅い!」
愛沼は右手の銃剣で魔人の頭を、左手の銃剣を首に突き刺す。そのまま刃をねじって抜くことで内部に確実なダメージを与えた後、魔人は落下。だがほかの魔人はリーダーを殺した愛沼に一斉へ襲おうとするも、
「もう終わりだ! 貴様らはもう負けている!」
愛沼の宣言とともに何十条もの銃撃が魔人を襲う。
撃ったのは烈攻師団。ほかの魔人や魔法使いを撃破し、愛沼の援護に来たのである。
魔人はなす術なく落とされていく。
パニックになるものは落とされ、冷静に烈攻師団へと向かっていく魔人も銃にはあっけなくやられる。
それもそうだ。
烈攻師団は天翔三極陣のほかにもいくつかの戦術技を持ち、これもその一つ、「死の籠」だ。魔人を撃破するもの、向かってくる魔人を撃退するもの、魔法使いを数名がかりで集中的に狙うもの。それぞれが与えられた役目を全うし、一匹残らず殲滅する。
5分も立たぬ間にすべての魔人が地へと落ち、愛沼が大声で伝達。
「制空権! 確保ォ!」
***
その十数秒後、戦場の上空に4つの砲弾が魔王軍陣営に向かって飛翔する。
だがただの砲弾ではない。
祠型の砲弾は魔王軍の大群を飛び越え、そのはるか後方、例の転送魔法陣が見えるほどまでの位置に落下。
爆風とともにそこから4つの人影が現れる。
「こちら晴宮正義ほか三名! 封印より開放! 転送魔法陣の破壊に向かいます!」
そう言って晴宮正義、登尾燐、火御門仄が転送魔法陣へと走り、蔵王翔真もこの4人を転送魔法陣へ行かせまいと妨害しようとする魔人を防ぐために一人途中で別れる……はずだった。
ここで問題が起きる。
「報告ゥ! オレたちに向かってくる魔人の数が想定より多いィ!」
そう。
防衛線側の式神兵への攻撃から正義たちに攻撃を切り替える魔人が想定より多いのだ。普段魔人は己のことしか考えず、後ろの基地が落とされようがそんなことはお構いなしに攻撃を続ける。だが今回は予想に反し、多数の魔人が正義たちへと攻撃対象を変えた。
それに正義が三十七駐屯基地で戦闘した巨大な魔人も複数破暁隊へと転進。おそらく魔王や魔将の中に知的かつ作戦を立てられるようなものがいるのだろう。
『わかりました。…………近藤隊員より通達。作戦変更。火御門、登尾両隊員は蔵王隊員の援護へと回るように。晴宮隊員、単独での任務でしょうがいけますか?』
正義は自信をもって通信を返す。
「はい! いけます!」
そして正義は単身転送魔法陣の基地へ乗り込むこととなる。
分散時、燐と仄が正義に激励のような言葉を投げかけた。投げかけた、というよりかは任務が変わったせいの悔しさも含んだような声色だったが。
「よう正義、死ぬんじゃねえぞ! てめえの新しい弾丸とやらのせいでてめえとはまだ『決着』ついてねえんだからなあ!」
「そうです! あなたとはもっと愉しい殺し合いができそうなのです! ここで死んではワタクシも困りますので!」
そんな戦闘狂らしい言葉を正義にぶつける。彼らの狂気になんども浸ったせいで正義はもはやこの言葉に違和感を持たない。
普通の励ましをもらったかの如く応えた。
「おう!」
***
一人戦場を駆ける。
その速度は三十七駐屯基地戦よりも速く、高速道路の低速区間ほどの速度で移動。
あと数分で転送魔法陣拠地に着こうとしたその時、正義は悪寒を感じた。気配は空中から発せられるのを直感で理解。
ふと空を見上げると大きな影。正義は咄嗟に足を止め、その影は正義が止まらなかった場合の軌道に落下する。
「でかい……」
顔をゆがめ、内心狼狽してしまう。
落ちてきたのはマンション三階まで届くほどの高さであろう蟲型の魔人。
上半身は腕や胸など、筋肉質な人間のよう。だが下半身はその上半身を軸として4つの足が蜘蛛のように展開。そしてその顔はカマキリのような形だ。そのオーラは破暁隊としての初陣で襲ってきた、つまり魔将を思わせる。
(どうする? こいつを俺一人で倒す? 無理だ……仄や燐さんを待つ? それも不確定要素が多すぎる……でも無視するわけにもいかないし……)
そう考える正義だが目の前の魔人は長いこと待ってはくれないだろう。決断できないでいる正義。
だが突如正義の背後で爆発が起きる。正義が振り返るとその煙は祠型ミサイルの爆発だと確信。その煙から人影が現れたのは……
「うん、助けに来たよ。正義君」
現れたのは薙刀を持つ前髪が白髪、長身の青年。
優雅ともいえる雰囲気で正義の横へ歩いていく。
「随分と速い再開だな」
と、正義は呟くが、彼自身安心の表情を隠せない。
涼也は正義の隣に立ち、ともに魔将を睨んで叫ぶ。
「さあ共に、基地落としといこうじゃないか!」
第弐捌話を読んでくださりありがとうございます!
愛沼はもと航空自衛隊員です。
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