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第弐漆話 『戦場ヲ 駆ケル』

 開戦の合図とともに一斉に式神兵が召喚される。

 歩兵として敵陣に突き進むのが三割、基地と基地の間にひな壇のようなものを敷き、そこに立って敵を砲撃、銃撃する式神兵が五割。

 式神兵ではなく、戦場の真ん中で直接式神に命令しなければならない使札兵や、魔人を討伐する破魔師団の分隊、確認した魔将を撃破せんと特撃師団らが式神とともに戦場を疾走。


 正面から走ってくるのは大量の魔人。

 青色の肌をもつもの、ゆがんだ角をはやしたもの、四つ腕のもの。

 魔人だけではない。

 高さだけで人の身長を超える獣、軍が魔獣と呼称する存在も確認。さらに正義が三十七駐屯基地で戦闘を行った、中世の鎧のような武装を胴に装着し、腕と足は灰色の肌が露出している巨人が複数体。

 この巨人はほかの魔人とは違い、同じような個体がいくつもいることからおそらくただの魔人ではなく何かしら特別な存在なのだろう。

 おおよそ人の軍ではない、まさに魔と思えるような軍が向かってくる。正義が初めて魔界に行ったとき訪れた三十七駐屯基地のような記録だけの戦闘の規模よりも数十倍、いや数百倍。

 

 いや、地上だけではない。

 空に黒い粒が大日輪皇國軍側から観測できる。魔法で空を飛ぶ魔法使いや、翼のある魔人もいくつか向かってくるようだ。


 2つの生き物のような塊がどんどんと接近、ぶつかる。

 最前線の式神は剣、小銃をかまえ、揃って魔人へ一斉射撃。弾幕により三割ほどの魔人が弾丸に倒れた。だが魔王軍の魔人はそう甘くない。残りの七割は確かに弾丸で傷をつく者もいるがそのまま大日輪皇國軍式神兵の大群へと突撃。前線の式神兵を操る使札兵は近くの複数の式神兵へ少し引いて攻撃を加えるよう命令。常に魔法使いがいないかどうかを念頭に置きつつ戦いを見守る。

 守りに入ったいくつかの式神兵の陣形に倒れる魔人もいるがやはりこの戦術は効かず、さらに戦線を突破しようとする魔人も複数体存在。

 しかし使札兵は彼らに迎撃することなく無視し、現在自分が戦っている、自分が操る式神でも倒せるような魔人の撃破に集中する。

 使札兵と式神兵の陣を突破した魔人はレーダーや式神の探知により駐屯基地でも認知、次のフェーズへと移るようオペレーターが防衛線の後方に待機していた砲撃部隊へと伝達。

 砲撃部隊は式神兵の陣を突破した魔人に向けて複数の砲撃を喰らわせる。もちろんこの攻撃は式神兵の小銃よりも何倍も威力を持ち、もちろん小銃では倒すことのできなかった魔人を撃破。これによりこちらへ攻めてくる魔人のうち、約九割以上を撃退することに成功。

 しかしまだ一割以下の魔人が存在。

 彼らは魔人とは違う、まさに魔将と呼ぶにふさわしい存在だろう。だが魔将が近づいているにも関わらず砲撃部隊は動じない。

 なぜなら彼らを対処するのは自分たちではなく、


「「「着剣」」」


 三人の軍人がその魔将へと走る。

 特徴的なマントとほかの軍人とは違う薄黒い軍服を身にまとった彼ら、特撃師団が彼らを迎え撃つ。一人が銃口を魔将へと向けて弾丸を放ち、それに気を取られた魔将はほかの二人の攻撃に対処できない。一糸乱れぬ動きと戦術、そして技術を基にその魔将はやられてしまう。


 暗黒国群では強者の部類だったのだろう魔将(彼ら)も、近代兵器と隙のない洗練されたタクティクスにはかなわないのだ。


 

 ***

 

 

 魔人は『歴史』を作らない。

 過去というものを一切振り返ろうとしない。常に弱肉強食の世界である魔人の世界では淘汰されたものは『弱いから』淘汰されたのであり、なぜ淘汰されたか、なぜ負けたかの詳細な理由を一切調べようとしない。

 強さこそが絶対の指標として彼らの本能が決定している。

 これまで大日輪皇國軍へ攻めてきたあらゆる魔人の組織もその脅威や技術、なぜやられたのか、どんな技術があったのかを後世に語り継ごうとしないのだ。

 だから「歴史」や「教訓」と呼ばれる概念のない魔人に対して大日輪皇國軍、人間側がとるべき手段はただ一つ、『初見殺し』。われわれ人間が例えば銃口を向けられた時、恐ろしいと思い、避けなければと思い、降伏するかこれからこの状況をどうするかを思案するだろう。

 それは銃が「引き金1つで人を殺す道具」だと伝えられてきたからだ。

 しかし魔人は違う。

 銃という存在を知らない彼らはたとえ銃口を向けられたとしてもその脅威を知らないため何とも思わない。

 恐怖も感じないし、一部の魔人はただ穴の開いた棒を向けられて何なのだ、何ができる?と嘲笑する者もいるだろう。

 これこそが魔人の弱点なのだ。

 この弱点も過去の大日輪皇國軍が積み上げてきた研究であり、現在の大日輪皇国國軍が練る作戦の基盤である。

 

 そしてもうひとつ、大日輪皇國軍は研究してきた成果が現在行っている『多層防御作戦たそうぼうぎょさくせん』だ。

 魔人の特徴として()()()がある。

 人間も多少の個体差はあるものの、魔人はその比ではなく、一般人でも倒せるレベルの貧弱な個体もあれば魔王のように一個体で都市を壊しつくせる個体もいる。

 そこで大日輪皇國軍はその個体差によって対処する部隊を決めた。

 最初はただの式神兵の一斉弾幕、その後に式神兵の連携による攻撃、その後に砲撃部隊による爆撃、最後に特撃師団の集中攻撃。強いものほど自陣に引き込み、より強い武装で対処する。まるで異物をどんどんと取り出していくろ過のように。

 故にこの作戦は「濾過作戦」ともいわれている。

 

 ……そんな作戦や研究をしても大日輪皇國軍は慢心しない、いやできない。過去の魔人の研究者が、偉大な軍人が総じてこんな言葉を残しているからだ。


『魔人ヲ 侮ルコトナカレ 彼ラノ 進化ノ 加速度ニ ワレワレハ 勝ツコトハデキナイ』

 

 

 ***

 


 防衛線から発射された、三十七駐屯基地の比ではなく、流星群のような砲弾が地上の魔人と降り注ぐ。

 しかしこの一方的な攻撃は長くは続かない。

 それどころか……


 「式神! 上空に注意だ!」


 「砲撃部隊! いったん攻撃中止せよ!」


 砲弾が空中で静止。

 その弾はなんと大日輪皇國軍側の式神兵の大群や防衛線の砲撃部隊へと落とされる。空中で飛んでいた砲弾が急に停止。そのままぐるりと反対側を向き、自陣へと跳ね返されるのだ。

 これこそ軍側が恐れていた技術、近藤が正義に説明した魔法。


 砲弾が反射されるという報告を受けた作戦本部は動じない。

 次の手に打って出る。


「烈攻師団出撃! 空中で羽虫の如く飛んでいる魔人どもを撃破せよ!」


 

 ***


 

 十八駐屯基地のヘリポートで数十人の隊員がその伝達とともに武装する。

 お椀の蓋のような形をした精密機器を胸に当てて彼らは呟く。


「天翔武鎧!」


 そうつぶやいた彼らには白い光とともに、空覇軍団のメインウェポンが装着される。

 頭全体を囲う黒いヘルメットと、光沢のある物質が腕や足へとスーツのようにまとわりつく。だが1番目を引くのは胸から生えた機械。見た目は機械だが、天女の羽衣のような形。胸の前から4つに分離した機械のうちの2つは肩にかかるように伸び、頭の後ろで合流。もう一方は腰付近まで体をなぞり、そこから斜め後ろへ伸びていた。

 そしてその所々にブースターが取り付けられており、ボウボウと音を立てている。

 

 彼ら彼女らの両手にはマスケット銃を持っているが、銃身は木ではなく青銅色の素材。そして銃身の上側に刀が取り付けられているのだ。


 それが、飛行機などが仕えない大日輪皇國軍が魔界の空を制するために作った武装である。


 由良もこの武装を着ているがほかの隊員とは違い、手にはスナイパーライフルを抱え、また光の方はいつも通りの全身を隠すマントとヘルメット、そして両端に滑車をつけた弓を換装、背後には6つの巨大な『手』。


 彼らの前に立ち、他の隊員よりは刀身はそのままで銃身が短い二本の銃を刀のように装着しているスキンヘッドで強面の男、愛沼(あいぬま)が叫ぶ。


「貴様らあ! ついに我々の役目が回ってきたあ! だが恐れることはないぞ! 訓練通りにやってこい! わかったかあ!」


 緊張感を与える怒号にも聞き取れるような彼の伝令に二人を含めたその場の空気が変わる。


「それと天城由良隊員と士道光隊員! いるかあ!」


「私はここに……」


「いるぞ」


 声が聞こえた方に愛沼が向く。


「貴様らは俺とともに来い! 若者は守れと上に命令されているからなあ!」


「「……了解」」


 その威圧感に二人は屈してしまった。


「よしお前ら! 出撃だあ!」

第弐漆話を読んでくださりありがとうございます!


歴史を残さないとありますが、歴史が「残せない」というのもひとつの要因です。だいたい相手を絶滅させるレベルまで滅ぼすので。


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