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第参話 『一兵訓練 加速セヨ』

 正義は近藤とともに病院の廊下の奥にあったエレベーターへ乗りこむ。

 近藤はエレベーターに乗って、ほかに乗る人がいないのを確認するとボタンを押し始める。彼は9階、5階、8階、1階、3階の順にボタンを押した後、閉じるボタンを2回押した。扉が閉じ、エレベーターが動き出す。

 その不自然な行動に正義は近藤へ疑問を呈す。


「なんでそんなことしているんですか?」


「これが軍施設への行き方だからさ」


「軍の施設?」


「そう。軍の施設は基地みたいなのが町中にドデーンとあるわけじゃない。施設は君たちが暮らしている世界、通称『現界(げんかい)』と、魔のものが住まう世界、通称『魔界(まかい)』、その狭間にあるのさ」


 正義の頭にいくつものはてなマークが浮かぶ。

 

「いろいろと聞きそうだね、正義君」


「はい、聞いてもいいですか?」


「いいよ」


「じゃあまず魔の住まう世界って何ですか?」


「その通りの意味さ。君もテレビやネットで一度は見たことがあるだろう? 世界中に現れては町を破壊し、人を殺す侵略存在(インベイダー)を。彼らの多くはその魔界から『門』をくぐってこっちの世界にやってきて、世界中で暴れているのさ」


「学校を襲ったのもそいつらですか?」


「いや、その可能性はない。なぜならあちらからこの国に通じる『門』は我々が管理しているからね」


「門を管理……?」


「昨日も話しただろう? 僕たちはこの国を脅威から守ってきたと。正確には魔界にあって現界へと続く『門』を中心に巨大な結界を張り、その結界を僕たち軍が守ってきたのさ。だからあちらの生物がこの国に来るためには我々を倒し、結界を抜けて『門』をくぐる必要がある。そしてそんな芸当はあんな侵略存在(インベイダー)、俺たちが対処しているのは『魔人』という部類だが、その魔人一匹では不可能なんだ」


 近藤の不可能という言葉には絶対的な自信が感じられた。


「じゃあ門がその魔人? に奪われるなんてことがあれば……」


「日帝皇国は終わる。全国各地に魔人が雪崩込み、国は亡びるだろうね。まあそんなことをさせないようにするのが我々だけど」


「門は大日輪皇國軍? の手にある……じゃああの魔人はどこから来たのでしょうか?」


「それは今も調査中ー」


「そうですか……」


「ほかには?」


「じゃあその狭間っていうのは?」


「現界と魔界はいわゆる並行世界みたいなもので、その間に「無」という空間があるらしい。僕たちはそこに空間を作り、そこに施設を作ってるんだ。この施設へは国中のあらゆるところから特定の行動をすることで行くことができる。さっきやったようにね」


 その言葉を聞いても正義は理解ができない。


「なんだかよくわからないです」


「まっ! そのうちわかるさ。別にわからなくても支障はないしね」


「じゃあこのエレベーターが前に進んでいるのも」


「ああ。このエレベーターは今『狭間』にある施設へ行ってる」


「最後に昨日聞けなかったことを」


「なんだい?」


 心配のような感情も含んだ質問をする。


「俺が学校で倒れていた時に握っていた剣ってどこにありますか?」


 正義の質問を聞いた近藤は思い出そうとするように顎に手を当てる。


「剣? そんなものがあったとは聞いていないが? 一応君が持っていた銃は秘密裏に自衛隊に返したけれど」


「いや、俺は確かに握って……」


「う~ん、考えられることとしては誰かに持ち去られたか、はたまた自力で動いたか」


「自力で動くなんてことがあるんですか?」


「あるよ、うちにも何個かあるかな、もうすぐつくよ」


 そういうとチン! と音が鳴ってエレベーターが止まる。

 扉が開くとそこは射撃場のようだ。奥まで100mはある巨大な射撃場。だが思っていた軍事施設と違っていた。

 天井はアリーナのように高く開放的、壁は清潔感を与えるような白い素材が使われているようであり、左側の壁には休憩用の長椅子が配置され、その間には自動販売機が置いてある。右側には1,2mごとに区切られた射撃スペースがあり、いくつかのスペースには人がいた。さらにその右奥には射撃用の的が並んでおり、至近距離のものから、はるか遠くに設置されたものまである。驚くべきはそのスペースにいる人のほとんどは正義のような軍服ではなく私服だということだろう。

 

「みんな軍服ではないんですね」

 

 思ったものとは違う雰囲気にキョトンとする正義。

 

「この訓練場は比較的どこからでも行ける開放的なところだからね。訓練というよりも練習をする場所と言った方が正しいかな。バッティングセンターみたいな感じかも」


 そういうと近藤は射撃スペースのひとつに入り、正義もついていく。

 近藤はいつの間にか持っていた右手のアサルトライフルを正義に見せた。


「今日からこれが君の武器さ」


 正義は不満げな、けれどなんとなく察した表情を見せる。


「……こんなこと言うのもなんですけど、俺、勇者ですよ? 勇者の武器が銃、それもアサルトライフルってどうなんですか?」


 勇者という存在が日帝皇国で忌避され始めたのは十年前。それより前は勇者は小説やゲームの中の存在であり、「強い職業」くらいの認識である。そして勇者という存在は決まって「剣」が武器なのだ。正義が違和感を持つのも不思議ではない。

 だが当人はバケモノと戦ったときにそのアサルトライフルを使ったのだが。


「別に剣でもいいけどその場合、味方による銃弾幕と敵による遠距離攻撃がぶつかり合う中で君は一人その中を走ることになるぜ。大日輪皇國軍の主な武器は銃火器だからね」


 その言葉を聞いて正義は想像した。戦場で一人敵陣へ走る中、後ろから発射される弾丸、前からくる敵の無数の攻撃……その恐怖に身震いすると正義はしぶしぶその近藤の言葉を受け入れる。


「……わかりました」


「よし、じゃあこれから君の戦い方を教えよう」


「俺の戦い方?」


「それを話す前に勇者の『権利』について君に教える」


「やっぱり勇者にもそういった権利があるんですね」


「まあ僕たちも勇者の権利をすべて知っているわけじゃないけどね、病室でも言っただろう? 勇者は最強の五大職だ、って。その希少性ゆえ、僕たちは勇者の権利が全部でいくつあるのかさえ分からない。勇者とは何かを調べるためにも我々に協力してほしいんだ」


「俺もそれは知りたいです」


 近藤は元気よく人差し指を伸ばす。


「まずは1つ目! 『意志の増大』! 勇者は願ったことを実現することができるのさ!」

 

 まさかの能力に正義は目を見開いて驚く。


「え、それって強くないですか?」


「正義君が思うほど強くはない」


 いきなりの否定に入る近藤。


「そうですか」

 

 自分の理想がその能力でかなうかもしれないと一瞬考えたがそんなことはなかったため、少し残念がる。


「でもね、正義君の成長次第では物理法則を少しだが無視することもできる。例えば君が持っている銃なら、弾の威力を上げるだけでなく、弾道を曲げたり、弾速を加速させたりできるはずだ」


「確かにそれができると強いですね。ほかにはあるんですか?」

 

 近藤は数秒沈黙し、的の方を見る。声色も先ほどとは違って低い。


「……いや、ひとつだけだね、僕たちが知っているのは。さあまずは銃の使い方から」


 正義は多少の怪しさを感じつつも近藤の言う通りに銃を構える。そして正義の訓練は始まった。

 


 ***


 

 訓練2日目。

 正義がやったのは弾丸の性質を変えるための練習。近藤の指導が上手く、正義の命中率は上がり『権利』によって弾道も少し曲げられるようになった。

 正義がトイレから帰る途中、大人の男性ばかりのこの訓練場では珍しく、一人の少女が射撃場のスペースで銃を構えている姿を見つける。

 黒がベースではあるが、紫がかった髪のショートヘア。持っているのは銃身の長い黒鉄のスナイパーライフル。この射撃場にはスペースの上に、ボウリング場のスコアモニターのようなものが設置してあり、そこで名前とその人が何を狙っているかがわかる。

 そこに書いていたのは


『天城由良 移動標的 距離200 難易度5』


 つまり天城由良という少女は200m先にあり、そして動いている設定の的を狙っているのだ。

 数秒後、彼女がトリガーを引くとモニターには『命中』の文字。正義が心の中で感心していると彼女が振り向く。


「おい」


 正義は彼女の顔を初めて見る。

 蛇のように鋭い目つき、だが顔はクールな雰囲気の美人という印象。

 正義より背は低いものの、その眼光と、威圧感のある女性にしては比較的低い声で正義は少し怖気づいてしまう。


「何か用か?」


「いや、すごいなって」


 圧に押された正義はひきつった顔でなんとか話す。数秒睨まれたあと、彼女は口を開く。


「……そう」


 そういうと彼女はスペースに置いてあった荷物を持ち、ライフルを肩に乗せて離れていった。


(怖い人だなあ)


 そう思いながら正義は近藤の元に戻った。

 

 お昼休憩で二人は射撃場の長椅子に座り、近藤からもらったおにぎりを食べながら正義は近藤に質問する。


「そういえば近藤さん、俺たちは銃を使いますが、魔界の奴らも銃とか持ってるんですか?」


「いや、彼らは銃なんて使わないよ」


「じゃあ彼らはどうやって戦うんですか?」


「いい質問だね。彼らは『魔法』を使うのさ」


「魔法⁉」


 まさかの答えに正義は声をあげて驚き、周囲の何人かが正義の方を向く。正義は恥ずかしそうに委縮。


「そう、魔界にいる連中は何もないところから火を出し、巨大な岩を浮かばせ、強力なビームを放って戦うのさ。まさに魔法だろ?」


「それは俺たちもできるんですか?」


(うち)の研究者曰く、魔界の連中には『魔法を使う権利』が生まれつきあるんだと。だから僕たちに魔法は使えない」


「じゃあ魔法を使うそいつらと軍はどうやって戦ってきたんですか? 俺にはこんな兵器では対抗できるとは思えません」


「はっきり言うね。確かに隊員の半分は戦闘職や、職を戦闘用に進化させた人だけど、残りの半分は普通の兵士、魔法使い相手じゃ分が悪い。けどね僕たちは何も現界で発展させた科学だけを使ってきたわけじゃない。現界の常識も、法則も違う魔界で僕たちはもうひとつの技術、超技術(オーバーテクノロジー)を発展させてきたんだぜ」


 超技術(オーバーテクノロジー)という言葉に正義は少しワクワクする。


「それを使って軍は敵を倒してきたってことですね」


「そゆこと」


 おにぎりを食べ終わり、射撃スペースへ戻っていく正義の背中を見て近藤は考える。


(正義君、ほんとに要領がいいな。言ったことをすぐ覚えてくれるし、勇者の権利も慣れ始めている……)


 最初は一般の少年が勇者としてやっていけるかと不安になった近藤だが二日目でもう一般の兵士にまで届きそうなレベルにまで上がっていると実感。そこで正義の成長をより加速させるため、近藤は彼を呼び止める。


「正義君!」


 突然名前を呼ばれ、正義は後ろを向く。


「少し早いが明日から戦闘訓練といこう」


 戦闘という言葉に一瞬戸惑う正義。


「わ、わかりました」


 近藤は口元を歪め、ニヤリと笑った。


「僕たちの超技術(オーバーテクノロジー)を見せてやるよ」

第参話を読んでくださりありがとうございます!


『意志の増大』もそうですが、この作品の勇者の権利は某有名ゲームの勇者を参考にしています


感想、レビュー、ブクマ、評価、待っています!!

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