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第弐陸話 『透明ト 覚悟』

 自分の部屋で軍服に着替え、牙天国綱をチューニングと最終確認を行う。

 部屋を見渡せばこの一ヶ月ほどの思い出がよみがえる。

 毎日訓練後に倒れるように眠ったベッド。学園の授業に追いつくため勉強した机燐さんに借りた恐竜の本や、翔真にすすめられて借りた小説。もう一度ここに来るのだろうかという考えすら正義には浮かばない。


 ガチャ、と扉を閉める。

 

 一階のリビングに降りるとそこに一人、天城由良がいた。

 

「ふんふ~ん」


 いつものぶっきらぼうな彼女とは違い、横にスナイパーライフルを立てかけ、鼻歌を歌いながらソファの上で膝を抱えて座っている。

 これから戦場に行くとは思えない。正義が近づくと気配に気づいたのかその姿を見られたことに赤面。

 スマホで鼻から下を隠しながら目を合わせる。


「……見た?」


「まあ、うん」


 先ほどの雰囲気とは違い、いつもどおりのクールな彼女と態度を変えた。


「お前にはいつも私の見られたくないところを見られるな」


「故意じゃないから許して」


「戦争前だ。別に怒ったりしない。そんな気分にもならない」


 正義は由良の対面にあるソファへ座り、深呼吸して精神を落ち着かせながら時間が流れるのをただひたすら待つ。


「……正義は、なんで戦うんだ?」


 突然由良が口を開く。

 目はスマホを見つめたまま、彼女は正義に質問した。


「突然何?」


「緊張してるんだ、少し付き合ってくれ。で、なんで戦うんだ?」


「なんでって、『義務』だから……」


 もはや正義にとっての常套句となった回答に由良は微笑する。

 何かを嘲笑するように。


「みんなそうだな。義務だとか……目的だとか……」


 十秒ほど間を開けたのち再び口を開く。


「私にはそれがない。流れるようにここに来た。別に怖いわけじゃない。ただ……周りがああだと、どうにも自信がなくなってな」


 正義は由良の悩みをなんとなく理解した。

 確かに破暁隊のメンバーのほとんどが目的や義務を持っている。兄を超えるもの、命の恩人に報いるもの、他のメンバーも何かしら目的をもって破暁隊に入ったことを正義は生活の中で察しているが、目の前の由良はそれがないらしい。

 それがないまま戦争へ行くのに疑問を持っているらしいのだ。


「由良さんはなんで軍に?」


「親が軍の科学者でな……戦闘員になったのは()()()()の役に立ちたいから」


「じゃあその人の役に立つのを目的にすれば……」


「そうすればいいんだろう……でも今の私には役に立っているとは思えない。目的にできる自信がない」


 由良はスマホから目を離し、明後日の方向を見つめる。だが正義はその姿を数週間前の仄と重ねてしまう。涼也に『義務』を否定された時の仄のような迷い。

 だから正義は正義なりに助言をした。涼也のように無慈悲ではないが。

 

「じゃあ、目的じゃなく……義務にすれば?」


「義務?」


 由良は正義と再び目を合わせる。


『役に立ちたい』じゃなくて『役に立たなければならない』って思うんだ。そうすれば迷わないだろ?」


「……」


 由良は顔を隠して黙ってしまう。間違ったことを言ってしまったかと内心焦る正義。

 沈黙がずっと続くかと思ったがほぼ同時に2つのドアが開いた。

 1つは寮の地下へ続く扉から。


「最終調整終わり! あっ正義君おかえり!」

 

「アァ、式神兵の扱いも十分だァ」


「燻ぶってしょうがねえな」


 慧と翔真と仄、そしてその後ろに光が出てくる。

 彼らは実家などに帰らず、寮で訓練をしていた組。集合時刻に間に合うように終了して一階に上がってきた。

 もう1つは、


「うん、ただいま」


「あら? 皆様お揃いで?」


「うっそ、アタシたちが最後じゃない……」


 正義のような実家帰省組。おそらくどこかで合流して一緒に帰ってきたのだろう。

 仄が緋奈へ話しかける。


「そういや緋奈って帰ったんだな。いっつも実家の悪口言ってたから残ると思ってたぜ」


「呼っびっ出っさっれったっの! そうじゃないと帰らないわ!」


 実家で相当嫌なことがあったらしく緋奈は見るからに不機嫌だ。


「うん、燐ちゃんはだいぶご機嫌だね」


 涼也の言う通り、彼の隣に立っている燐はいつもよりも笑顔の度合いが高い。よほどいいことがあったらしい。


「そうなのです! 家に帰ったらおばあさまがおられましたの! 頑張ってこいと言われましたわ!」


 燐曰く、祖母に憧れて刀を握ったらしい。祖母はもう隠居したものの、今日という特別な日に尊敬する人物から激励され彼女は幸せの絶頂のようだ。


「呼び出されたと言えば翔真君姉貴とやらに来いって言われてなかった?」


「無視したァ。なんで戦争前にあの野郎に合わなきゃなんねえだ」


「うわあ、あとでしばかれそう……俺っち知らないよ」


 仄と緋奈らの会話を聞いてそんなやりとりをする翔真と慧。

 緊張らしい緊張はしていないらしい。


 破暁隊全員集結。

 集合時刻八時となり、イナバが彼らを迎えに来た。


「皆様お揃いですね。これより魔界へと転送します。準備と……覚悟はよろしいですね」


 うんと頷くものと余裕の態度を見せるもの。

 誰一人否定しない。


 八時半・破暁隊、魔界に転送。


 

 ***


 

 彼らが送られたのは作戦会議で伝えられた十七駐屯基地。

 三十七駐屯基地よりも通路は広く、倉庫の数も多いがそれだけでなく、戦車などの武装が十数格納された広いものもある。

 軍人が目まぐるしく歩き回り、走り回り、動き回っていた。


「弾薬どこ行った?!」


「整備班! ここ頼む!」


「資料との数合致、確認ヨシ!」


 その緊張の度合いに正義はめまいを起こすのかと思うほど。だが途中ですれ違う人々は正義らに対し敬礼し、破暁隊員もそれを返す。


 作戦本部にて百名を超える軍人が一同に集まり、最終確認を行う。


「転送魔法陣、改め第九敵陣基地への直接攻撃ですが、晴宮正義隊員、登尾燐隊員、火御門仄隊員、蔵王翔真隊員を送ります。そのほかの隊員はこれより『第九戦線連絡網』にて番号が一人一人に付与されます。その番号によって役割が与えられますので、その役割に従ってください」


 それからも十数分作戦報告は続いた。

 こういう真面目な話を聞くのが苦手な正義だが、この時ばかりはすみからすみまできっちりと頭へ叩き込む。少しでも逃せばもしかしたら死ぬかもしれないのだから当然であろう。

 作戦本部での最終確認を行った後、軍人各々が持ち場へと急ぐ中、破暁隊もまた立ち上がり、動いた。

 が、涼也が破暁隊全員に話しかける。


「うん、ここで僕たちはお別れだ。正義君たちは最前線に送られるし由良さんと光さんも空覇軍団と合同で出撃。僕と緋奈さんと慧君は待機だ。そこで、士気高揚をやろうじゃないか」


「士気高揚って……なにすんのよ……」


 呆れた表情の緋奈。


「なあに。みんな円になって拳を出してえいえいおーとするのさ」


「は! いいじゃねえか。景気づけに一発やるか!」


 叫ぶ仄とともに9人そろって陣を取る。全員が拳を突き出し、発破をかけた。

 みんなに、そして己自身に。

 

「ふん! ちゃんと勝ちなさいよね! あんたたち」


「……必ず勝つぞ。貴公らよ」


「俺っちたちは数週間一緒に頑張ってきた!訓練の成果を出すときさ!」


「ああ! 俺様が、俺様たちが魔王軍より強いって『決着』つけてやるぜ!」


「向かってくるものすべて切り伏せてやりますわ!」


「てめえらぁ、ビビってるんじゃ話になんねえからなァ!魔王軍潰すぞォ!」


「私も、まあ、頑張る。あの人のために」


「うん、勝って帰ろうじゃないか」


「ああ! 行こう! みんな! そして勝つぞ! 絶対!」


「「「「「「「「おお!」」」」」」」」


 そして破暁隊は分かれていく。

 己の勝利のために。

 

 


 正義とほかの三人が向かったのは例の祠射出装置。

 近藤が四人に一枚の札を渡す。

 

「これから君たちを祠に封印する。封印されて次に見る景色は戦場ど真ん中。いいかい? そしてこの札は緊急脱出札。これもって『展界』とつぶやくと軍の結界へ転送される。危機に陥ったり、傷を折ったりしたら迷わず結界に逃げ込め。即死じゃない限り死ぬことはないから」


「はい、わかりました」


 正義の返事とともに、基地全体に放送が鳴り響く。

 女性の声でこう放送された。

 

『これより、南郷総司令官による開戦演説を行う。傾聴せよ』

第弐陸話を読んでくださりありがとうございます!


燐ちゃんの祖母は龍華という名前です。


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