第弐肆話 『第九戦線 作戦会議』
「絶対命中座標?」
狙撃場の結界での正義と光の会話。一応由良もいるが少し離れたところで射撃の練習をしている。
何度も同じ空間で狙撃練習をしていたため、次第にお互い訓練しながら雑談する仲となった。その中での正義の質問に光は弓で的を狙いながら返す。
「ああ。狙撃手は相手が自分との一定の距離、一定の位置にいる場合100パーセント命中させることの出来る特定の座標を持っている。3次元的に戦う空覇軍団の中にはこれを持つものが多い」
「なるほど、光……さんも持ってるの?」
「そうだ。『弓』という性質上、雑打ちはあまりできんからな。由良。貴公もこのタイプだろう?」
由良は一応は頷くも会話には参加しない。
「そっか。俺も作ろうかなあ……」
ぼそっと呟く正義に対し光は諭すように言う。
「いや、一朝一夕で見つけられるほど容易なものじゃない。それに貴公には『意志の増大』による絶対命中があるだろう? わざわざそんなものを探さなくてもよいではないか」
「それもそっか」
正義の相槌とともに携帯からアラームがなった。音に光が反応。
「もう時間か……」
「それじゃいきますか」
そう言って三人は狙撃場を後にしてエレベーターに乗る。
4桁の数字を押してエレベーターに入り、数十秒待った後、エレベータが停止。廊下に出て目の前の扉を開けるとそこは大学の講義室のような広さの空間。部屋の正面に張られたスクリーンには映像や地図が映し出されており、それに向くように設置された机といすには軍人が何十人も待機していた。
「おーい! 正義くーん、光くん、由良さーん!」
こちらに気付き、手を振ってくれたのは氷室彗。破暁隊他の6人ももうすでに座っていた。
正義らも席に着く。
「もしかして緊張してる? 正義君」
となりの慧が話しかけてきた。
「まあ、ついに戦争が始まるんだなって思うと、やっぱり緊張するよ」
「大丈夫。みんな戦争は初めてだから!」
「……慰めになってないなあ」
そんなやり取りをするとスクリーンの前に近藤がマイクを持って立った。
「あーあーてすてす、よし。さて皆様ご集まりいただきありがとうございます。これより第九戦線での作戦展開について説明します。が、まず出席を確認します」
その後呼ばれたのは名前と役職。
防衛師団、機甲師団、使札師団、砲撃師団など第二軍団の面々、それと第九、もとい空覇軍団の雷撃師団と烈攻師団と呼ばれる師団の人の名前が呼ばれた。
そしてその次、
「破暁隊・晴宮正義」
「っ! はい」
正義の名前とともに破暁隊全員の名前が呼ばれる。やはり全員戦争に行くのかと正義は確信し、安心と心配を含んだ感情となった。最後、士道光の名前を呼ぶとともに点呼が終わり、近藤は作戦の説明を開始。
「まず転送魔法陣を中心とした敵陣は第一防衛線一七駐屯基地より北北西5キロ先に陣取っています。なので一六駐屯基地から一八駐屯基地まで防衛線を敷き、警戒に当たっています。少数の魔人が時々攻めてきますが大きい損害は未だありません」
スクリーンに映る映像が変わり、そこに映ったのは地図。地図の上には中くらいの円とその下にまっすぐ書かれた線分。地図の下には端から端まで引かれた線とその線に3つの円が等分に書かれていた。この円には16,17,18と書かれ、正義はこれが駐屯基地だと察する。
つまり上の円は敵の転送魔法陣なのだろう。
「今回の作戦は結論から申し上げますと超短期決戦。作戦終了まで半日もかからないでしょう」
その言葉を聞いて師団の方々がざわつく。おそらく初めてのことなのだろう。「そんなことが可能なのか」「本当に大丈夫なのか」と、ちらほら不安げな声が聞こえてくる。
「まあみなさんが不安がるのも納得でしょう。しかし今回は超短期決戦でいくと大本営で決まりました。そしてそれを可能にする技術と作戦も我々は考えております」
近藤が指を鳴らすと画面の地図に矢印や新たな線が敷かれた。正義にはなんとなくしかわからないがこれが戦術なのだろう。どのように軍が攻めるかという目印。
「最初はいつもどうりです。式神兵や戦車による敵陣への突撃で戦闘の開始。それによる歩兵戦の展開です。それで魔人どもも攻めてくるでしょうが、やつらは銃などというものに慣れていないでしょうから欧州大戦線時導入されたガトリング弾幕になす術なく倒れていく敵兵の如くやられていくでしょう。銃弾で死なない魔人も雷撃師団の空中爆撃、砲撃師団の大砲で仕留めていく流れも同じです。烈攻師団は空中にいる魔法使いや魔人の警戒にあたり、見つけ次第撃破してください。魔将についても、各戦線に特撃師団が三小隊ほど待機してますので安心してください」
師団の一人が発言する。
「聞いた限りだと6年前の戦争と同じではないか。ここから何かあるのかね?」
「ええ。これをご覧ください」
スクリーンの地図の映像から切り替わり映し出されたのは奥行きのある太鼓のようなもの。
穴があることから恐らく大砲であることは理解できる。
「戦術兵器『試作型中距離移動用人間封印祠射出装置』です」
「ほ、祠ぁ?」
一つ一つの単語は聞いたことはあるがそれが組み合わさると本当に謎の名詞だ。
信じられないという顔をする隊員をよそに近藤は続ける。
「技術局で封印を専門とする陰陽師と科学者が共同で開発した代物です。中に簡易的な祠を作りそこに人を『封印』、その祠ごと吹き飛ばして着弾点で封印を解く、というものであります」
「な、なるほど、そうして兵士を戦線の奥、転送魔法陣直前まで送るということか……」
「ええ、しかし封印できるのは一人。そして砲弾1つのコストも高く戦線1つに5つしか準備できません。予備も置いておきたいとなると前線に送るのは4人でしょう」
「してその4人とは?」
近藤は正義と目を合わせた。
「まずは勇者・晴宮正義。彼を向かわせます。彼の『権利』により転送魔法陣とそれを囲う魔法防御を破壊させます」
その場にいるすべての人物に見つめられ、正義は緊張してしまう。彼らのまなざしは不安だとか疑いではなく、期待や興味の目であった。
「彼、晴宮正義と破暁隊数名を向かわせるということか……まあ近藤さんの部隊ということは信頼できるのでしょう。わかりました」
師団の人の納得とともにほかの兵士もうなづく。
「よし。じゃあ正義く……晴宮正義隊員、頼まれてくれるか?」
正義は内心、怖気づいた。敵が怖いわけではない。義務を決めてから恐れることはあっても決して逃げだそうだとは思わなかった。
それでも今回は違う。正義の役割には、16歳には重すぎる責任が乗ってしまったのだ。
もし負けてしまったら自分だけではない、他の兵士にも迷惑がかかる。だからこそ今、自信をもって返事をすることができない。
しかし、
「まあ正義君、俺っちたちがいるんだからそう気負わなくてもいいぜ」
「うん、君のほかにも三人一緒に戦うんだ」
声をかけてくれたのは彗と涼也。振り返ると燐と翔真、仄も正義と目を合わして笑っている。
その笑みは嘲笑ではない。安心と、信頼の笑み。この二週間同じ屋根のもとで過ごし、毎日のように戦ってきた人たち。
そう、勇者は勇者だから強いのではない。
仲間がいる。
勇者はその仲間がいるからこそ勇者なのだ。そんな仲間の信頼で正義は自信を取り戻し、近藤からの問いかけに応える。
「はい! この晴宮正義! 魔法陣を破壊してみせます!」
敬礼をしてその近藤の頼みを了解する正義。
そうして第九戦線の突撃戦力主力が決まった。
***
「だから! 俺様が行くっつってんだろうが!」
「いいえ! ワタクシが行きますわ!」
「うん、正義君と行くのは僕だね」
「俺っちも!」
「アタ……もういいわ」
正義の背中を押すためにまとまっていた先ほどの破暁隊とは一変、誰が突撃するかで争っていた。
敵の基地に送り込まれるのは正義と、そこで多数の式神兵を召喚し防衛線と挟み撃ちを行う役割を担う「式神使い」の翔真。残りの二人をどうするか。
すでにこの口論は5分続いていた。由良と光は空軍の師団と一緒に行動するらしくこの言い争いには参加しない。他の隊員もこの現状を半分呆れた表情で眺め、正義も居心地が悪くなる。
見かねた近藤は半分命令口調で叫ぶ。
「もういい! 下らんことやってないで、じゃんけんで決めろ!」
だいぶ重要な役割をじゃんけんで決めていいのかとツッコみたい正義だが面倒くさくなったためそうしない。
「「「「「じゃんけん……ぽん!」」」」」
結着は1回で決まった。
勝ったのは……
「天運は俺様にあり!」
「勝ち申したわ!」
仄と燐。
仄はガッツポーズをして燐は両手をたたいて喜ぶ。
近藤はうんざりした感情を含んだ声で全体にアナウンス。
「えーということで、祠射出装置で送るのは晴宮正義、火御門仄、蔵王翔真、登尾燐で決定しました。明後日よりこの第九戦線での合同演習を始めたいと思います」
こうして会議は終わり、彼らは戦争へと備えていく。
***
会議から一週間後、第九戦線での合同演習が終わり破暁隊は寮へと帰宅。
正義ら突撃する部隊はほかの破暁隊員と少し遅れて帰った。
「もう少し速く動けねえか? 翔真」
「うるせえなァ……オレはアンタラとは違い積極的に動いて戦うタイプじゃねえんだよォ。そうだよなァ正義ィ?」
文句を垂れる仄にいら立つ表情を見せる翔真。訓練中常に彼が前線に出るため文句を言いたいのは実は翔真なのだが。
「まあ、翔真君は敵の大群を超えた後、振り返って俺たちを使札兵で足止めする役があるからいいんじゃないかな」
正義のフォローに便乗しつつも多少悔しいのか落ち着いた様子で翔真は呟く。
「そういうことだァ、ま、訓練はするけどよォ」
「それよりもですわ、正義さん、少しワタクシたちに遠慮してませんこと? ワタクシ、もう少し速く動けますわ」
「じゃあ明日もう少し接近速度上げるか、いける? 仄?」
正義の問いは仄にとって見くびられたような言葉と受け止められたのか、自信満々に答える。
「誰に言ってんだ! やってやるよ!」
先ほどの訓練の反省をする四人。
仄の元気いっぱいな肯定のあと、彼らの連絡指輪に通知が届く。
全員がすぐに確認。
「来たかァ」
「来ましたわね」
「わくわくだな」
興奮し笑みを浮かべる三人とは逆に、そこに書かれていた文を見た正義は心臓がドクドクと動き始めるのを自覚、まるで正義の中の何かを外した。
【大本営発表】 2037年 6月7日(土)20:00
開戦ノ刻 遂ニ定マレリ。
六月十四日(土曜)、午前零時ヲ期シテ。
総員、覚悟ヲ決スベシ。
第弐肆話を読んでくださりありがとうございます!
じゃんけんで、と近藤は言いましたが全員任せるのに足りる実力を持っていると認めているということですネ
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