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第弐参話 『会議ハ進ムヨ ドコマデモ』

 挙軍一致となってからの会議は非常に冷静かつ、スムーズに進んだ。会議は有馬参謀長と、井原青年に代わって南郷総司令官が主導することになる。


「さて、三魔王の問題があらかた解決したということで、とりあえずこの戦いは短期決戦で行くということでよろしいですね?」


 異議を唱える者はいない。

 南郷が話をまとめていく姿を井原青年は自分の席に座って見ていた。決して表情は変えないが少なくともいい気分ではない。自分の意見が採用されなかったから。納得はしている。自分の提示した課題が解決したのだからもちろん採用されるわけないのだ。


「もしかして拗ねてる? 井原くん」


 井原青年に話しかけたのはその隣に座っていたウルフカットの女性、姉原参謀。立場的に言えば有馬参謀長の部下である。


「いえ、まあ、はい」


「けどまあ、十分十分。君はよく頑張ったよ」


「そうですか、ありがとうございます」


 姉原は真面目な顔となって井原青年に語る。


「慰めじゃない。君は本当によくやった。もともと軍部にも『魔王の相手は誰がするか』という空気があった。それでも誰も言い出さない。結局は流れで元帥かだれかが担当することにはなっただろう。けど君がこの場でその問題を提議したことで元帥閣下が『この場で』参戦を発表し、士気を高めた。書類上ではない、『この場で』宣言させたんだ。これはすごいことさ。連絡からよりもすさまじい影響を与えるだろう。誇れ。きみはすごいことをした。有馬さんも喜んでるだろうよ」


「そうですか……」


 姉原の言葉で井原青年の気持ちは多少楽になったがそれよりも先ほどの出来事を頭の中で繰り返し考えていた。

 元帥閣下の参戦宣言とその場の会議場の雰囲気。あの空気からは井原青年は察した。そこではとある選択肢が消えたこと。

「戦争」においての究極の二択のひとつ、「負け」を考えるものがあの場にいなかったのだ。

 恐ろしいまでの覇気と自信。

 それを実感した井原は、この会議を主導する自信を失った。


 会議は続く。

 

「……つきましては、各戦線に第二軍団各師団をある程度分散して配置させ拮抗。そこに特撃師団・十偉将等の上位戦力をもって敵陣を突破、そのまま転送魔法陣を破壊するというのが今回の大まかな戦略であります。ここからは『大本営』より配置する部隊や隊員を選定した後、各戦線のまとまりで作戦本部を設置。そこで作戦を決定した後、再びここで報告会を開き、必要に応じて修正を行うという流れを取ろうと思います。なにか質問は?」


 一人、オールバックで眼鏡をかけた男性が手を上げて立ち上がる。六大財閥、運送や国内の旅行に関し、この国で一番のシェア率を誇る徳川コーポレーション社長、徳川家隆(とくがわいえたか)

 

「元帥閣下が魔王三体を相手するということは承知しました。しかしそれは魔王全員が元帥閣下の勝負に乗った時の話。もしその勝負に乗らず、魔王が戦線に向かった場合の保険もかけておくべきでは?」


 元帥と魔王の戦闘を待ち望むその場の人々にとって頭になかった想定外。だが南郷総司令官もそのことは余念がない。


「その場合はまあ、閣下以外で魔王に対抗できる隊員を待機させておきましょう」


「いったい誰が……」


「そんなもの!儂しかおらんじゃろう!」


 そんな二人の会話に、一人の老人が割って入った。軍部の席から立ち上がったその軍人は、身長1.9mの長身。老人にもかかわらず背は曲がっていないからその背の高さは誰でもわかる。頬の十字傷と迫力のある顔つきはまるで鬼人。元帥閣下ほどではないものの、その覇気は見る者の皮膚をピリピリとさせてしまう。


「……そうですね。選ぶとすればあなたしかいませんよ、幽玄廷隊長にして『()()()()()坂ノ上一心(さかのうえいっしん)様」


「血沸く血沸く。儂が全員相手にしてもよいのじゃが……」


「それを閣下がやるというのです……」


「わかっておる。して、ほかはどうする?魔王と一対一で戦うというならあと二人必要であろう?」


「そうですね。軍団長は軍団を統率する仕事がありますから除外。ならば……」


 南郷が頭の中で適性のある隊員を検索しようとしたが、そこに元帥が割って入る。


「第一軍団近衛師団団長『四業極(しぎょうごく)龍堂(りゅうどう)。十偉将隊長『絶死剣(ぜっしけん)神山(かみやま)。二人だろう」


「まあ、そうですね。戦場に引っ張ってこれるかどうかですが」


「龍堂の方は私から言っておく。そうでもしんと殿下から離れんだろうしな。神山の方は……」


 元帥は席を立ち、そのはるか後ろに座っていた近藤の方を向いて彼と目を合わせる。


「十偉将、貴君らが捜せ。第二級結界までの進入権利は私が許可する」


「は!」


 近藤は急いで席を立って敬礼し、了承した。

 会議が再開する中、一人近藤はめんどくさいという感情を隠せないでいる。


「言われちゃったかあ、しばらく帰れないかもなあ」


「とりあえず、妹たちにも手伝うよう言っておきます。一応ほかの十偉将(メンバー)にも」


「助かるね。頼むから結界内にいてほしいなあ。魔界(そと)にいるならもう絶望だ」


 隣の信濃には協力してもらえるものの、神出鬼没どころか、神が現れる確率の方が高いと言われるあの()を捕まえなければならないと思うと、近藤は今から絶望していた。

 が、元帥閣下の命令である以上、遂行しなければならない。


 (やれやれ、あれな上司を持つと大変だねえ)


 そう呆れながら会議が終わるまで眺めていた。


 ***


 会議が終了。

 席を立つもの、その場で思案するもの、談議するもの。

 さまざまな行動を人々がとる中、近藤は連絡指輪で十偉将(メンバー)に隊長捜索の協力願いを出していた。

 メールを飛ばした後、信濃に話しかける。


「南郷総司令官っていつから時間取れる?」


「明日からは会議などで忙しいでしょうね。会うなら今日です」


「おっけ。今日の19時にアポ取ってくれない?」


「わかりました」


 ***


 午後7時少し前、近藤は第11結界へと続く扉を開いた。

 結界名は『皇國軍総司令本部』

 大日輪皇國軍の指揮系統の頂点であり、軍が行うすべての戦闘を管理している結界である。三十七駐屯基地で見られる事務所のような司令室ではない。日帝皇国の東の大洋を超えた先にある世界一の国家、「自由連邦合衆国」国家航空宇宙局のオペレーター室のような部屋ではあるが広さはその数倍。「壁に張り巡らされた1000を超えるスクリーンには、映像だけでなく、さまざまなグラフやプログラムが映し出されている。その下には、整然と並ぶ精密機械がずらりと並び、場の空気をさらに重厚なものにしていた。その前には100人以上のオペレーターが、あるものはキーボードをたたき、あるものはマイク越しに通信し、あるものは書類をもって走り回っている。

 近藤の目の前にはそれらオペレーターの頭上、司令室を見下ろす総司令官の席へ続く扉。扉を開けると南郷総司令官はパソコンの前に座ってマウスを操作していたが、そのパソコンのモニターの数が20。

 よく見るとすべてのモニターに将棋の盤面が映っていた。違和感を持つのはその20の盤面すべてが違うということ。

 南郷総司令官は近藤の気配に気づいたのか、画面に目を向けたまま近藤に話しかける。


「少し早かったね。今終わらせるよ」


 そういって南郷はエンターキーを押すとその瞬間すべての画面に「大手」の文字。そんな光景を喜ぶこともなくパソコンの電源を落とし、近藤の方に振り替える。


「対戦する数増やしました? 依然来た時より増えてるような……」


「まあ三人ほどね。もう一人増やそうかと思っている」

 

 「南郷総司令官の趣味、それは『ネット将棋で多人数と同時対戦し、同じタイミングで全員に大手をかけること』だった。

 複数の戦線や戦闘の情報がめまぐるしく集結するこの本部でいかに的確に指示するのかがここでは求められるため、南郷総司令官は訓練も兼ねてこの対多人数将棋をやっているのだ。もちろん対戦相手はネット将棋ではあるものの高位の段位。そんな20人を相手に、縛りをかけて勝っているのだから南郷総司令官の頭脳は相当なものだとうかがえる。


「さて、予約を取ってまで私に会ったのは何か理由があるのだろう?単刀直入に言い給え」


「明日から『大本営』で会議でしょう?そこで各戦線で誰が魔法陣を破壊するかを決めるはずです」


「……なるほど。君の言いたいことが分かったよ」


 察する南郷総司令官へ近藤は真面目な顔で重々しく口を開く。


「ええ。その任務に……『破暁隊』を加えてください」

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