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第拾陸話 『学徒出校』

 破暁隊が出撃した日は日曜日。ということは、今日は月曜日ということだ。それに、月曜日は学校が始まる日だ。

 つまり転校してきた正義にとって新しい学校生活が始まるということである。

 昨日の夜、正義は寮に帰るとすぐに眠ってしまい、気づいたら朝になっていた。なくなってしまった休みを惜しみつつ、近藤からもらった新たな学校の制服に袖を通す。

 窓開けるとまだ夜明け、時計を見ると五時ちょうど。いつも早く起きて家事をしていた癖はそうそう治らないらしい。

 一階に降りればイナバが家事をしていた。


「おはようございます、正義様、お早いですね」


 イナバは小さい体で掃除機を扱っている。人が見ればその姿になごむ者もいるだろう。でも正義は、


「手伝いますよ、イナバさん?」


「いえいえ、構わないでください。これが私の仕事ですので、それに家事用の式神もいますので自由にしていていいですよ」


 誰かに任せるのが苦手な正義だが、断られるとそれ以上強く言えない。


「はい」


「もしや朝ごはんを食べに来たのですか? 朝ごはんは学校の学食で提供されております」


「その学食ってもう空いてま……せんよね」


「学食が開くのは七時からですね」


「なるほどぉ」


 正義はしばらく悩んだ。これからどうしようか、と。二度寝という学生にとって夢のような奥義をするのもよいが学生服のままで寝るのは忍びない。そこで正義は思い出す。この寮からは5つの結界に行くことができ、そのうちの1つに射撃場があることを。

 部屋にあった牙天国綱を持ち出し、地下への階段を下りて2番目の扉を開く。そこの射撃場の構造は一般的なものとそう変わりない。低い天井といくつかの射撃スペース、その先にある的。壁は近未来的な白い素材でできている。

 射撃場に入るもそこにいたのは正義だけではなかった。射撃スペースには、


「えっと、おはよう。由良さん」


 スナイパーライフルを持った少女がいた。


「おはよう? 今何時だ?」


 どうやら彼女は今の時間が分からないらしい。


「今は、五時だよ。午前五時」


「そうか、私は四時間もここにいたのか」


 さらっといった一言だがつまり彼女は夜一時からこの射撃場にいたという事実に正義は少し面食らう。彼女の目を見ると確かにその下にクマができていた。

 

「なんで、そんな時間から……?」


「なんで……か、昨日のことを思い出すとどうにも寝られなくてな」


「昨日って魔将のことか?」


「ああ、私はあの時なにもしなかった。蔵王のように援護に行ったりも、士道のように隊員を救いに行ったりも」


「あの時は待機が命令だったんだし、由良さんのほうが正しいよ」


「それでも、あの時少しでも魔将に攻撃を与えられたら……」


 その言葉を発する由良はなにか誰かに謝るような表情をしていた。

 

「っ、なんでこんなこと言っているんだろうな私は」


 自らが寝不足のせいでいつもはいわないことをつぶやく自分に呆れる由良。


「少し寝る。どいてく……!?」


 ずっと同じ姿勢でいたためか、足がしびれてまともに立つことができずふらついしまい、正義がそれに気づいて支える。


「大丈夫?」


「うん、だいじょうぶう、お兄ちゃんん……」


 眠気を含みつつも、いつもの威圧感のある低い声とは違う、愛嬌のあるかわいらしい女の子の声。猫なで声ともいうのだろうか。唐突なことで正義は困惑する。


「え? 俺はお兄ちゃんじゃないけど……」


 由良は自分がとんでもない発言をしでかしたことを自覚し、正義を両手でを突き飛ばす。

 そして彼女は正義と会って初めて感情を表に出した。

 恥じらいと焦り100%の赤面顔。


「あん……! いやこれは! そ……あ、わーすす!」


 言葉にならない言葉を発して正義に指をさす由良と追撃を警戒する正義。赤面した女子に一度殴られた正義は二度と同じ過ちを繰り返さないように由良と距離を取っていた。

 まあここではそんなものに警戒することよりも女子を怒らせない振る舞いを学ぶべきだとツッコむべきなのだろう。

 にらみ合っていると正義の後ろの扉が開く。


「丸で猫のけんかのようではないか、貴公ら」


 入ってきたのはフルフェイスマスクにコート、戦闘態勢なのかと間違うような姿をした士道光。手には弓らしき白金の武装を持っていた。昔の弓というよりも両端に滑車が備え付けられた、オリンピックで出てくるような近代的な弓。


「なにがあった、ケンカのようだが?」


「いや、別にケンカじゃないけど」


「仲良くせい、貴公らは同じ銃を扱う仲間なのだから」


 部外者が入ってきたことにより緊張が解ける正義。だが由良は赤面して顔を下に向けながら二人の横を通り過ぎて扉を勢いよく閉める。


「晴宮、このことは……! ぜったいわすれろお!」


 と叫びながら。


「由良と言ったか、いつもの冷静な雰囲気とは違ったな。何があった。正義よ」


「まあいろいろとね」


 そんなやり取りの中、正義は心の中で考える。


(そうか、由良さんも、たぶん光さんも遠距離仲間か。いろいろと教えてもらおう、戦い方とか。……由良さんは……ほとぼりが冷めてからかな)


 仲間。そう思った瞬間正義の頭に突然アナウンスが流れる。


『晴宮正義の意志により、天城由良、士道光を【仲間】と認識しました。両名には勇者の権利が適応されます』


 一瞬何のことかと思ったがすぐに忘れ、スペースに入って的を銃で狙い練習を始めた。


 ***


 六時半。

 正義は練習を終え、自分の部屋に戻り、学校に行く支度をする。教科書等は学校でもらえるらしい。羽のように軽い荷物を背負い、玄関に行くと人影が2つ。そのうちの一人が振り向いて話しかけてきた。


「よお正義ィ、一緒に行こうぜェ! いいだろ? 彗」


 翔真は隣で靴を履いていた慧に確認を取ると、慧は肯定。


「いいよ! 正義君に学校まで案内しよう」


 こうして三人で登校することになった。


 翔真と慧は学校の周辺にある店や土地柄を説明しながら歩いている。ここのラーメン屋が上手い、この先にめんどくさい爺さんがすんでいるから家の前を通る時は気をつけろなどなど。

 ずっと一人で学校まで通学していた正義にとって誰かと一緒に学校まで行くということは小学生ぶりだなと感慨深くも楽しかった。


「え!? 翔真君、あの時小説読んでたの!?」


 正義は彗から二日前の集合の日に翔真が呼んでいた本の真実を知り驚く。


「そうなんだよ正義君、こいつ、自己啓発本読んでる雰囲気出しながらラノベ読んでたんだぜ?」


「べ、別にいいだろうがよォ……姉貴が読め読めってうるさくてなァ。んで読んだらまあ、ハマった……」


 自信なく答える翔真に正義が質問する。


「お姉さんがいるんだ?」


「いやな姉だぜ。オレをことごとくいじめてくるんだァ。まあ実の姉じゃなく、姉弟子だけどなァ」


 翔真は懐かしみつつも顔をゆがませる。何かトラウマっぽいものがあるらしい。曲がり角を曲がると慧が前に指をさす。


「ほら見えたよ。あれが俺っちたちの学校。陌暉耶(ひゃくきや)高等学園さ」


 見えたのは校門と奥にある巨大な校舎。正義が行った凪北高等学校は三階建て。だが目の前の校舎は何と六階建てだ。校舎の壁もさすがの私立と言わんばかりにキレイを通り越して美しく、校門の奥の左右にある草木は作り物かと思うほど整えられている。なにせ日帝皇国最大の企業、山ン本(さんもと)カンパニーを代表出資者として、この国で有名な六つの財閥がこの学校のスポンサーになっているのだ。この国で最も財産を持つ学校と言っても過言ではない。

 と言ってもお金持ちだけが通う学校ではなく、その八割は一般の中学から来ているらしい。

 その後三人で高校の学食に訪れたが中はまるで体育館と見間違うほど広く、朝食の種類だけでもなんと十種類。正義は卵焼き定食を頼んだがふわふわでほのかに温かい卵焼きに正義は病みつきになりそうであった。

 朝食後、校舎に入り室内を見渡す。玄関も凪北より二倍広く、傷どころか汚れひとつない。正義は校長室に行く必要があるため二人に場所を聞いた後に、二人とは別れる。


 廊下を歩いて五分。道中でも先生らしき人に尋ねながらやっとこさ校長室に着いた。

 ノックをすると「どうぞ」という返事をもらったので中に入る。

 校長室はまさに荘厳という言葉が似合う部屋であった。見るからに高級そうな机に椅子に本棚。壁には幾人もの写真。おそらく先代たちの校長だろう。そして執務机にすわっている髭の生えたふくよかな男性。目は閉じているのか、笑っているのか、もともと細いのかわからないが、表情は読み取れない。


「どうも、この学校の校長兼理事長をやっております。鞍馬(くらま)です。どうぞよろしく」


「はじめまして……ではないですね」


 そう、彼こそ一週間ほど前に道端で倒れ、正義が救急車を呼んであげた人物だった。


「先日は私を救ってくれてありがとう。そして、あなたをだますようなことをしてしまい申し訳ない。だがあれは一種の編入試験なのだよ」

 

「編入試験ですか……?」


「そう。わが校は推薦入試と一般入試五分五分で生徒を入れているのだが、我々が最も重要視しているのは生徒の『精神』だ。やさしさ、勇気、正義感。そういった精神をもつ若人を我々は歓迎しているのですよ」


 試練というのは自分がそういった精神を持っているのかを確認するためだったのかと正義は察する。


「じゃあ、あの時、あなたを無視していたら?」


 今聞くような質問ではないことは正義も思っていたが、やはり気になってしまうものは仕方ない。彼と話すのもこの後いつになるかわからないのだから。

 正義の問いに校長は顔色一つ変えることなく返答。


「もちろん、この学校に編入する話は持ち掛けませんでした。なんせ結界がありますからわざわざあの寮に住まわせる必要も、私の学校に入れる必要もないでしょう?」


 正義は内心ホッとし、あの時の自分をほめる。と言ってもあの時の正義は善意100%で行動したことは事実であるが。


「……それでもあの時私を必死に助けてくれようとしたことには本当に感謝しましたよ。助けられる私が申し訳なくなるくらいにはね。こんな時代でもあなたのような、人のために必死になれるような子供がいるのだなと感動しました。……改めて、わが校にようこそ。ぜひ様々なことを学び、経験してくれたまえ」


 校長の一通りの挨拶が終わると後ろから女性が入ってきた。大きな目に明快な笑顔。ショートヘアなのもその人が非常に元気な人なのだろうと察せられる。


「どうもー! 今回正義君の担任になった村木でーす! よろしく!」


 大げさな素振りとともに部屋に響き渡る大きな声。その陽のオーラを見て、陰のものに片足突っ込んだ正義が少し苦手な人物だなと一目で察した。


 「じゃあ正義君ついてきて! もうすぐホームルームが始まるから! さあはやくはやく!」


 村田先生は正義の背中を押して校長室から移動する。


 その後廊下で正義にとって攻撃的ともいえる質問攻めをされた後、ひとつの教室の前に着く。


「じゃ! 正義君はここに立ってて! ホームルームで紹介するから!」


 そう言って村木先生は扉をしめる。


 (漫画とかアニメで、よく主人公のクラスに転入してくるキャラがいるけど、今回は俺が転入する側だな)

 

 正義がそんなことを思いながら廊下で立っているとチャイムが鳴り、その後教室の中から村木の声が廊下まで響く。


「さて皆の衆! 今日からこのクラスに新しい仲間が加わります! 入ってくるがよい新入り君!」


 扉を開けて教壇の横に立つとクラス中の視線が正義に集中。緊張しながら村木先生の隣でクラスのみんなに挨拶する。


「どうも、今日からこの学校に転校してきました。晴宮正義です。よろしく……おねがいします」


 当たり障りのないテンプレの挨拶。

 何かひねりを加えようとしたが、ここで滑ったりしたらこの先の学園生活真っ暗ゆえ、正義はおちゃらける覚悟を持っていなかった。


「よし! 正義君が座る席は、窓側の一番後ろ。さあ座って座って! さっさとホームルーム始めるぞ!」


 数名の生徒と会釈を交わしながら村木先生に指定された席へ向かう。そして隣にはあいさつをしようとしたが、()()の姿を見てあいさつではなく驚きの声を漏らしてしまった。


「あ……」


「げっ!」


 そこにいたのは見るからに不快な表情を浮かべる赤髪でツインテールの少女。一昨日から自分に殺意を向け、正義にとって少し気まずい相手。

 

 八坂緋奈であった。

第拾陸話を読んでくださりありがとうございます!


高校名の由来は百鬼夜行です。


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