第拾伍話 『勇者ト 新シイ仲間タチ』
二人が着剣と言うと、沙良の持っていた小銃の銃口の下には20㎝ほど刃が出現。
大輔の二丁拳銃には銃の照門の前から刃渡り50㎝ほどの刃が銃身とほぼ垂直に生え、鍔が銃身の位置に来るような形の武器に変形し二刀流となる。
「大輔! アタシがあいつ引きつけるから援護ヨロ!」
大輔と呼ばれた男性はため息交じりに返事をする。
「……わかった。標的が変わったりしたらスイッチでよろしいですか?」
「よし決まりだ」
そういうと沙良は魔将に向かって走り出し、その間大輔は別方向、がれきの山をくぐりながら魔将の背後へと向かう。
敵意むき出しで走る沙良めがけて魔将が殴り掛かり、沙良もこちらに来る拳を視認しているが避けようとは思わない。魔将の拳が沙良に直撃する。
「グギャ……!」
うめき声をあげたのは魔将の方。そして沙良はその拳を受け止めた。持っていた小銃の銃身を持ち、銃口を拳に向けて。ゆえに銃口の下に装着してあった刃が魔将の中指にズブリと刺さり、その痛みで魔将は声を漏らしたのだ。
沙良は余裕の表情でつぶやく。
「思ったよりも、重くはねえなあ」
左手の指を引き金に添える沙良。
「ファイヤ」
彼女が引き金を引き、魔将の拳が爆発する。魔将が呻き声をあげて右手を確認すると、中指がつけ根からなくなっていた。
怒りで沙良に吠えるも沙良の表情は崩れない。
「乙女のピンチだぞ大輔!」
「やれやれですね」
そうつぶやいた大輔は今魔将の後ろにいた。大輔は大きく飛び上がり、魔将の背中めがけ二丁の「剣」を構える。背中に刃が当たる寸前、銃口が魔将の方を向いた瞬間に大輔は引き金を引く。
拳銃の弾が当たったコンマ数秒後に大輔の交差斬りが鋭くさく裂する。弾丸という0次元的な攻撃と、斬撃という1次元的な攻撃、ゆえにこの技は、
「皇国軍銃剣格闘術改『零伐壱摧・交』」
鋭い痛みを感じ魔将は後ろを向く。だが後ろを向くということは沙良に背を向けるということであり、
「単調だなあ魔将!」
銃身を両手で握り、飛び上がってまるで槍のように魔将のわき腹に刃を突き刺す。刃をひねり魔将の内部の肉体を破壊し、そのまま刃を抜くとそこから出血。沙良は魔将が自分を振り払う前に脇を蹴って飛び上がり、先ほど付けた傷にバン! っと銃弾を放つとそこに見るものの鳥肌を立たせるようなおぞましい傷ができた。
痛みで動きが鈍くなった魔将の足元にはいつのまにか大輔が立つ。大輔はふくらはぎを『零伐壱摧』で破壊しそこにけりを放つ。すると魔将のバランスが崩れ手を地面につく。
沙良は魔将の近くにある一番高く積みあがっていたがれきから魔将の頭の十数メートル上に飛び上がり、大輔は魔将の股をくぐり首の下で刀を構えた。
痛みでうずくまり、首が地面と平行となっている魔将に沙良が叫ぶ。
「頭を下げたな! どうやら介錯がご所望のようだ!」
武器を構え、魔将の首めがけお互いが技を放つ。
「「零伐壱摧!」」
沙良は落下しながら魔将の首の右側を、下から飛び上がった大輔は首の左側を切断。ひとつの刀では魔将の太い首は切れない。でも2人による3つの剣戟ならば。
「グ……ガ……」
まだ首がつながっていた肉が頭の重さでぶちぶちと裂け、そして首が落ちた。
「すまねえな、腹切りはさせてやれんかった!」
魔将が死んだことを確認した二人は本部に撃退したことを報告する。
***
たった二人。
少年少女が必死になって戦って負けた、自分が援護した正義も殺されそうになった魔将をたった二人で倒した。魔将が攻撃しようとする間もなく3つの攻撃で敵を弱らせ、そしてその後一撃で魔将をしとめたという事実に翔真は戦慄する。
(あそこまでかかるのに何年だ、あれを超えるまで何年だァ?)
慢心することなく、悲観することなく、ただ彼らと自分たちの力量さがどんなものかを冷静に判断するが、それでも彼らの動きのレベルの高さに翔真は多少ではあるが絶望した。
「……やはりコレは使いこなせるようにならねえとなァ」
彼は一人静かに決意を固める。胸に秘めた野望へと近づくために。
***
正義が広場に戻ると彗と由良と光、そして近藤がいた。ほかにも軍人が数名いる。仄や涼也などのけが人はおそらく運ばれたらしい。
「この魔人の数、魔将の出現、やはり……」
「わかった。とりあえず『大本営』に報告してくれ……きたか」
最初に話しかけてきたのは近藤。軍人と話すのをいったんやめて正義の方を向くが、いつもの雰囲気とは違い少し不機嫌に見える。
「正義君。生きていてよかった」
「はい……命令に背いてすみませんでした!」
戦闘から帰っている途中、正義は命令違反ということを思い出し、また近藤の様子もいつもとは違ったため謝罪という行為を真っ先に選択する。
近藤もまさか開口一番に謝られるとは思っていなかったらしく、きょとんとした顔をした後に頭を掻きながら正義に言う。
「……お前にも説教が必要かと思ったが、悪いと思ってるならいいや。みんなも救ってくれたし」
近藤は正義の頭を軽くチョップする。
「これで今回は不問」
すると翔真も合流した。彼もまた近藤の不機嫌な様子を察知。
「翔真君、何か言うことは?」
気まずそうになるも言わなければならないことは翔真も理解し、頭を下げる。
「すんませんしたァ」
不服そうな声色。
「……まあよし」
近藤はポケットから小さい弾丸を取り出し、親指ではじくとその弾は翔真のおでこにあたり翔真は頭を押さえる。
そんな翔真を横目に近藤はそこにいた破暁隊のメンバーに告げた。
「もうすぐ迎えのヘリが来る! それで寮に帰った後はしっかり休むように!」
十分後、広場にヘリが到着。そこにいた正義、彗、翔真、由良、そして光が乗車した。
気まずい機内だったが正義は今しかないと思い、通路に顔を出して前の座席にいた翔真に話しかける。
「翔真君」
「何だあァ?」
威圧するような声色ではあったが、正義はまったく怖くなかった。
「ありがとう、君がいてくれたから俺は生きていたと思う」
「いや、オレだってアン時助けに行きたかった、心配だったからなァ。お前のあの言葉でオレもあの戦場に参戦できたんだ。感謝するぜェ」
翔真は座席から身を乗り出して正義の顔を正面から見つめる。
「……そして、あの戦う姿はまさに勇者だったとオレは感じた。連絡で見た時はお前が本当に勇者なのか疑ってたが、あれを見て分かった。お前は勇者だ」
その瞬間、正義は胸いっぱいに何とも言えぬうれしい気持ちがあふれ出る。正義は初めて勇者だと『認められた』のだから。自分のやってきたことが報われることこそ、人間にとって最も幸せに感じることのひとつだろう。
翔真はそんなことに気付かず、左手の拳を突き出した。
「これからも『仲間』として戦っていこうぜェ!」
「仲間?」
「勇者と言えば仲間だろ? だからよろしくな勇者ァ!」
正義も右手でその拳に突き合わせる。
「勇者じゃなくて、正義って呼んでくれると嬉しいな」
「そうか、じゃあよろしくな正義ィ!」
歯を見せて朗らかな笑みを浮かべる翔真。
最初の厳しい雰囲気とは違う、そのまっすぐな目線に正義は彼に対するある種の「壁」をなくす。友達となる前の他人への不信感だとか、不安だとかが消えるように感じた。
そうしていると後ろから声。
「なんかめちゃめちゃ熱い展開になってるじゃん」
隣の座席の背もたれにひじをついて話しかけてきたのは彗。
「俺っちも正義君のこと見直したよ。戦う力よりも、その信念にね」
「俺は、自分が決めた『義務』を果たしただけだから」
「それでも、自分が決めたことを守るってのはすごいことさ」
その言葉は正義というよりもほかのだれかに向けられたようだった。だがすぐに調子を戻す。
「だからさ! 俺っちも仲間になりたいな」
「……なんで?」
正義は唐突な提案に訝しむ。
「楽しそうだから!」
「なんだよそれ」
正義はあきれ顔で言い返し、彗はいたずらな笑顔を浮かべて拳を突き出す。
「よろしくな! ゆ……正義君!」
「まあ、よろしく」
流れで彗とも拳を合わせ、彗も仲間となることになる。「仲間」という関係を初めて作り、正義は友達を作った時とはまた違った「つながり」だと思い、胸が高鳴った。
その瞬間、頭の中に小さな声でアナウンスが発せられる。正義が彗たちと話していたこともありすべては聞き取れない。
『晴●●義の意志●より、蔵●翔真、氷●彗を【仲間】と●識●●●た。両名●は勇者の●利で●●●●●概●が付●さ●ます』
勇者がなぜ最強の五大職たるか。なぜ勇者が一国を作るまでの力を持っているのか。その理由の一端がこのアナウンスであるが、この時の正義は知る由もなかった。
***
スッパコーン!
「いっっって!」
病室のベットに座り、正面に立った近藤のよる渾身のチョップを喰らい悶絶する仄。のちに彼が語るには、あの一撃はスイカくらい割れるだろうとのこと。
近藤は厳しい口調で病室にいる四人に話す。
「命令違反をそそのかしたお前はこれで反省しなさい。ほかの四人も破暁隊の結界を除く第四級結界以上の使用権を一時的に取りあげ、課題の量を追加だ。ちなみにこれは期限付き、期限までにやらんかったら結界にすら入れんくさせるから覚悟しとけよ!」
怒りながら叱る近藤と意気消沈する四人。
「「「「……」」」」
「返事ィ!」
「「「「はい……」」」」
近藤は一息ついた後、叱責モードではなく説教モードに切り替える。
「なんでお前らに待機命令を出したかわかるか?」
仄が答える。
「俺様たちがあの野郎に勝てねえって思ったからだろ?」
「そうだ、作戦上、あの魔将の撃破にお前たちは不要だった」
「作戦作戦ってよお……じゃあ俺様たちを戦わせて弱らせた後に特撃師団が倒しても作戦じゃねえのか?」
チョップの仕返しとばかりにいやらしい質問を投げかける仄。だが近藤は諭すように語り掛けた。
「いいか仄、作戦っていうのはな、なにもあの魔将を倒すためだけに立てているわけじゃない。俺たちはこの後の戦、その先の戦、その先の先の戦、その先の見えない戦まで見越して作戦を立てるんだ。そしてその一戦一戦の被害は最小限でなければならない。下手に犠牲を出すとその後々の戦に響くからな。先の戦を見越し、被害を最低限かつ、勝率を100%近くにして初めて僕たちは『戦』を『作』るんだ。『兵』というパーツを使ってな」
仄は反論できなかった。まあもともと無理のある質問であったのもそうだが。それでも自分たちは負けたじゃないかという事実をぶつけられるよりも、こういった正論をぶつけられた方が仄には効いた。
「そしてお前たちはまだ『パーツ』足りえなかった。それだけだ」
近藤は四人に告げる。
「明日の学校には行くこと、さぼんなよ? それじゃ」
魔将の戦闘の怪我で包帯を巻いている隊員もいるものの、軍の治療術はその程度では一晩で治してしまう。これも罰だといわんばかりに近藤は隊員に告げ、部屋を去っていった。
正論を言われ落ち込む仄に燐が語り掛ける。
「言われてしまいましたね、仄さん」
「……うっせー」
「でも、彼は言いました。『まだ』パーツたりえない、と」
涼也と緋奈も話に入る。
「そう、つまり僕たちに期待してるってことだよ」
「ええ、アタシたちに魔将を相手にできるポテンシャルがあるってことなんじゃない? 近藤さんが言いたいのは」
彼らは仄を励ますつもりで言ったが、仄には響かない。でも、その言葉は理解しているわけで、
「……強くなりてえな」
彼はここでぼそりと本音を漏らす。正義だけではない。彼らにも『義務』はあるのだ。自らに課した義務が。
それをなすためにこれからどうするか。各々は考えながら、床についた。
***
その夜、正義の指輪に1つのメッセージが飛んできた。正義はその時気づかなかったが、そのメールは赤い文字で短くこう書かれていた。
【大本営発表】 2037年 5月20日(月)0:00。
全隊員ニ 告グ。
魔人トノ 戦争 発生ノ 可能性 大イニ アリ。
各員 準備セヨ。
武器ヲ 磨キ 技ヲ 研キ 精神ヲ 研ギ澄マサレタシ。
第拾伍話を読んでくださりありがとうございます!
零伐壱摧について少し説明します。零伐壱摧は銃弾と斬撃を同時に相手に喰らわせる、大日輪皇國軍が対侵略存在に生み出した技です。二つが合わさることでよりダメージを与えることができるもそうですが、その神髄は他にあります。
それは魔人の「回復を遅らせる」というものです。
研究で魔人の回復には「傷口の解析」「回復エネルギーの確保」「傷の修復」という三つの段階があります。
零伐壱摧は「傷口の解析」の段階の時間を伸ばす作用があります。銃傷と切り傷が重なることで傷が複雑化するのです。
複雑化というものは例えるならば銃傷=英語の問題、切り傷=数学の問題とすると
数学のなっげー長文が英語で書かれているようなものです。
はい。めんどくさいですね。それが零伐壱摧です。
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