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第拾参話 『急襲サレタシ 而シテ』

 任務終了の通信で破暁隊一同は集合する命令が下された。


 正義の足取りは重い。絶対彼らに煽られるだろうと確信していたから。今感じている焦燥感から今すぐにでも逃げ出したいものの、ここからどこに行けばいいかわからず、任務なのでしかたなく指示されたところに向かう。

 そこは村の広場のようだった。乱雑に配置された家も、そこ場所だけは避けるように何もない。

 正義が一番最後に到着したらしく、他の8人がすでにいた。

 自信なくうつむいたまま一同のもとに行くと早速仄が話しかけてくる。誇らしげな、嘲笑するような顔で。


「よお勇者あ、てめえ何匹倒した! 俺は24だ!」


 討伐した数の三倍の数を出され、たじろぐ正義。腹は立っているがこの場合勝負に乗り、そして負けたのは自分。もどかしい感情のなか、自分の数を出したくはないため話をそらす。


「へ、へえ、燐さんと涼也はいくつ倒したんだい?」


 まずは燐から先に応えた。


「ワタクシは18ですわ」


 今の上品な振る舞いも、彼女の本性を知った正義には信時ることはできない。


「うん、僕は17だ」


 勝った、と上目使いでドヤる燐と表情を崩さない涼也。


「で、お前はどうなんだよ? 勇者」


「俺は……」


 仄の問いに対し、正義は何も言えなかった。

 見下されるのが怖かったから。嘘をつこうとも思ったが正義の中のプライドがそれを許さなかった。覚悟はできなかったが何も言わなくても笑われるため本当のことを言う。


「俺が倒したのはは……」


 正義が渋々こたえようとした次の瞬間、広場のはるか遠くから突然の轟音が村中に響き渡る。それとそこから聞こえる低い声の叫び声。続いてイナバからの通信。


『その広場から北5㎞地点に魔将を確認! 全員その場に待機し、援軍を待たれたし! 繰り返す! その場に待機して援軍を待たれたし!』


 魔将の出現を聞いて正義は動揺した。三十七駐屯基地で近藤から聞いたことを思い出す。


『魔将。定義としては魔人よりも強い戦闘力を持ち、魔人を『統率』できる存在だ』


 「魔人よりも強い」

 先ほどの普通の魔人ですら正義は少し苦戦していた。魔将ともなればもちろん正義にとって戦える敵ではなく、心の中で怖気つきながら言われたとおりに待機しようとする。

 だが全員はそうならなかった。なぜなら正義以外のメンバーは魔人を苦戦などせずに倒すほどの経験と戦闘力を持っているからである。

 しかし魔将というものはそうそう出現するものではない。好戦的なメンバーがそんな命令におとなしく従うかというと、


「ハッ、待機!? せっかく魔将と『決着』をつけられるってのに!?」


 まず叫んだのは仄。どうやらその命令に納得がいかないらしい。自分が魔将に勝てないと遠回しにいわれたのだから。

 仄は咆哮が聞こえた方に歩き始める。後ろにいるメンバーを煽りながら。


「てめえらもどうだ? 雑魚相手でまだ満足してない奴もいるだろ?」


 その言葉で仄に続いたのは燐。


「確かにその通りですわ。もう少し体を動かしたいですし、ワタクシも一緒に行きましょう」


 燐は涼也の方を向く。


「いいんですの? このままいけばこの勝負、ワタクシの勝ちで終わりますのよ? あなたがあの魔将を倒せば、引き分けになりますけど」


「うん、こうも言われれば黙っているのは性に合わないね」


 表情は変わらないが涼也は彼なりに悔しいらしい。涼也は彼女の口に乗せられてしまい、魔将へ挑むことにした。が、これは明確な命令違反であり、これを注意する隊員もいる。


「アンタたち馬鹿じゃないの? この待機は命令、今あいつと戦ったら処罰されるのよ?」


 あきれた物言いで彼らに警告するのは赤髪でツインテールの少女、緋奈。そんな警告を仄はもろともしない。


「処罰がなんだ? 俺様たちはあいつと戦い、俺様より強いのか決着してえんだ。それともなんだ。まさかビビってんのか?」


「は?」


「ビビってんのか」という言葉に緋奈が反応する。正義に向けた殺意などではない純粋な怒り。それゆえに冷静な判断ができなくなった。


「わかったわ! アタシも行こうじゃない!」


 怒りと興奮を含んだ叫びとともに仄の誘いに乗ってしまう。


「よーし決まりだ! じゃあな臆病者ども! 手柄は俺様たちものだからな!」


 四人は走って行ってしまった。


 行く寸前、仄は正義を一瞥し、軽蔑と嘲笑の目を向ける。まるで、臆病者め、などというように。そんな目を向けられ正義は自信なくうつむいた。


 

 ……取り残された正義を彗が慰める。


「まあまあ、待機は命令だし、魔将に挑むあいつらが馬鹿なだけだから」


 おそらく正義が馬鹿にされた光景を見てフォローしようと考えたのだろう。味方のいなかった正義にとってその彗の言葉は多少ではあるが救いとなった。

 

「その、魔将っていうのはそんなにヤバいの?」


「まあね、魔人っていうのは自分よりも強いものにしか従わない。逆に言えばそんな魔人を何百人も従えてる魔将はめちゃくちゃヤバい。魔将専門の師団が出払うのはもちろん、最悪の場合『軍団長』『十偉将』『幽玄廷』が出っ張ってくることもある」


「ジュウイショウ? ユウゲンテイ?」


「……何も知らないの?」


「うん、俺、軍に入ってまだ二週間だから」


 その場にいる一同に動揺が走った。

 翔真は読んでいた本から目を外して正義を見つめ、光のほうからも「なんだと?」と声が聞こえる。彗も内心驚愕。


(二週間!? 俺っちと会ったのが一週間前、つまり軍に入って一週間であの魔人を倒したっていうのか!?)


 正義は勇者である。そのことは彗も今朝本人に確認した。だがそれでも戦闘の才能というものはある。その才能を補助するのが『職業』であり、才能を伸ばすのが『訓練』。ならば一週間そこらで、幾年積み重ねた努力も、『職業』の鍛錬もない小童があの魔人を倒したということは……


(彼自身の才能ということか、俺っちがあの魔人を倒せるレベルまで行くのに一年はかかったのに)


 ここで彗は初めて正義に『嫉妬』する。というのも町でカップルを見かけた時の独り身の嫉妬程度のものだが。


(仄のことも言えないな、俺っちは)


 そんな自分に呆れつつ軍について説明する。


「まず大日輪皇國軍は『元帥』を最高位としてその下に9つの『軍団』がある。そして各軍団は主戦力が何かによって分けられているんだ」


「主戦力、って職業?」


「そう、第二軍団は主に『軍人』『兵士』とかの普通の軍人プラス兼業してる人。第三は『侍』・第四は『武士』・第五は『陰陽師』・第六は『式神使い』・第七は『妖怪』の職に就いた人達の集団だ。第八と第九は特別で、第八は別名『海轟軍団』つまり海軍、第九は『空覇軍団』つまり空軍さ。それぞれ兼業してる隊員もいるけど。第一はよく知らん。情報統制されてるし」


「その軍団をまとめてるのがさっき言ってた軍団長か」


 そゆこと、と相槌を打ち彗は続ける。


「ほんで軍団の中には『師団』がいくつか存在する。それも各軍団は役割で分けてる。わかりやすいのは第二と第五かな。第二は『防衛師団』とか『破魔師団』『機甲師団』エトセトラ、まあ職業とか役割で決めてる。第五は『火芒師団』『水芒師団』など、使う陰陽道によって各師団に分けられてる」


「なるほど、軍団はなんとなくわかった。それでジューイショーっていうは?」


「十偉将は元帥直属の大隊。戦力的には軍団長クラスだけど、軍団長と違っていわゆる仕事上の「立場」がないから比較的自由に行動できる。『遊撃大隊』って呼んでるやつもいるね。幽玄廷は師匠曰くろうが……」


 その瞬間、巨大な爆発音。


 聞こえたのはあの四人が向かった方向、つまり魔将がいたところから。すぐに彗は説明をやめて、四人に安否の連絡をする。


「涼也、仄、燐、緋奈、至急応答せよ! 繰り返す、至急応答せよ!」


 返事はない。苦い表情を浮かべ、再び連絡すると仄からの応答が。


『く……そ…………が………………』


 その呟きとともに通信が切れた。明らかに大丈夫な様子ではない。恐らく先ほどの爆発のようなものに巻き込まれたのだろう。


 彗は苦悶の表情を浮かべた。光も「まずいな」と漏らす。だが動かない。

 なぜなら相手は『魔将』だから。自分が言ったところで彼らの二の舞。それは承知でありむずがゆくも留まることを決める。


 ()()()()()()


 誰かが魔将のいる方に走り始めた。


 彗が彼に叫ぶ。


「どこに行くんだ正義君!」


「あいつらを助けに行くんだ!」


 走りながら振り向いて正義は彗の質問に答えた。

 呆れと心配を感じて慧はまた問いかける。


「なんでだ!? お前が魔将にかなうわけない。それにあいつらを助ける義理なんてないだろ!?」


 その質問は正義自身も感じていたものだった。なぜ自分が今走っているか、なぜ助けようとしているのか。自分を馬鹿にしようとした人、自分に嫌悪の感情を向ける人もいるというのに。一週間前のあの時とは違う、誰の助けもない、死ぬ可能性だってあるのに。

 もちろん正義の心の片隅には逃げたい、別に援軍を待ってもいいんじゃないかという言い訳もある。


 だがそれでも彼の中には明確な答えがあった。その答えを自らに今一度刻むためにもその問いに答える。



「それが俺の『()()』だから!」


 

 それが答え。

 この際正義が何者かなど、正義が周りからどう思われているかなどどうでもよかった。大事なのは彼が『勇者』であり、『勇者』として戦うために決めた、人を救うという『義務』があること。

 確かに勇者は自分然り、緋奈然り、人を不幸にした。でもそれは仕方のないことなのだ。

 英雄が100万人救っても、その100万人全員が()()()()とは限らない。英雄を恨む人もいる、英雄を非難する人もいる。そして英雄もそれに心を痛めるだろう。

 重要なのはその英雄がそれでも誰かが危険なときは『人を救う』と決めた意志を貫き続けなければならない義務があること。


 正義も同じだ。

 自分が何者かなど、相手が誰かということ、自分の命の危機などどうでもよい。今はただ病院で近藤に、自分自身に誓った『義務』を果たさなければならない時なのだ。

 自己嫌悪や不安などは二の次なのである。


 そして正義は魔将に立ち向かう。

 (隊員)を救い、理不尽(魔将)を倒すという義務を果たすために。


 ***


「あいつか」


 正義の数十メートル先にいる高さ20mはあるであろう魔将。体格は人間よりもゴリラに近いなと正義は感じる。手には黒い岩でできたようなこん棒。まるで人間ではない。そして体のいたるところに走るオレンジ色のヒビ。先ほどいた魔人よりもそのヒビは大きく、多く、そこから漏れ出る光は強い。まるでマグマだ。


 ある程度魔将に近づくと、魔将が正義の存在に気付いたのか、殺意をぶつけられる。


 重圧。

 巨大な波がぶつかったかのような衝撃。一週間前の魔人の何倍のプレッシャーか。あの時と違い、近藤のアドバイスもない、三十七駐屯基地のような援護も見込めない。


 それでも正義には焦りひとつない。余裕がないからこそ、逆に正義の集中力は高まった。


「義務を果たすんだ、晴宮正義」


 そう自分に言い聞かせ、正義は魔将に向けて走り出す。


 戦闘開始である。

第拾参話を読んでくださりありがとうございます!

義務、この言葉が正義を奮い立たせる「力」となるか、はたまた……

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