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第拾弐話 『破暁隊 出撃』

 現在正義は寮のソファに座っている。

 彼の隣には近藤、正面には赤面しながらこちらをにらむ赤髪の少女。

 正義の精いっぱいの謝罪と近藤の説得により何とか少女は落ち着いた。


「まあ、偶然が重なったことだし、今回は許すわ」


「ありがとう、……えっと?」


 少女は少し横柄な態度で口を開く。目線も正義の方を向いていない。興味がないのかプライドなのか。


緋奈(ひな)よ、八坂(やさか)緋奈(ひな)。『吸血鬼』の八坂緋奈。一応同じ部隊だし、職業も言っとくわ」


 ここで正義は自分も職業を名乗らねばと察する。


「晴宮正義です。『勇者』晴宮正義」


 『勇者』という言葉が夜の耳に入った瞬間、夜の表情が一変する。いや、一変するというよりも、感情がなくなったというべきか。だが彼女の目からは正義への意思が読み取れた。

 ここで初めて緋奈は正義と目を合わせる。その目に潜むは殺意と憎悪。悪意ある視線を向けられた正義は怖気づく。

 数秒後、緋奈は口を開いた。先ほどよりも無機質な声で。


「もういいわ、これ以上話しかけないで」


 そういうと緋奈は自室に戻っていった。

 自分がダメなことを言ってしまったのかと不安になる正義の横でやっちまったかという顔をする近藤。

 正義は震える声で近藤に質問。

 

「俺なんかやばいこと言っちゃいましたか?」


「うん、まあ、彼女にとってはね」


 ショックを受ける正義。

 近藤は緋奈について語る。


「彼女は妖魔四大貴族(ようまよんだいきぞく)の1つ、吸血鬼、八坂家のお嬢様なんだけど、現在その党首の席が空席でね」


「空席?何かあったんですか?」


「殺されたのさ。任務中に」


「殺されたって?まさか……」


 正義は嫌な予感が頭をよぎる。


「そう、彼女の祖父であり、彼女にとって育ての親のような人物、九代目八坂家当主、八坂夜貴(よるたか)は『勇者』に殺されたんだ」


 それを聞いて正義は、後悔の念に襲われる。

 彼女にとってのいやな記憶に触れてしまったことはもちろん、かつて勇者を恨んでいたことを忘れていた自分に対しても。あの一週間での成長、魔界での初戦闘、その経験により正義は浮かれていたのだ。そして自分の存在意義もあるかもしれないと自信を持ち始めていた。

 だが彼女の目線で思い出す。かつての自分を含め、この世には勇者を恨んでいる人がいるのだと。


 『勇者はやはり人を不幸にするかもしれない』


 そんな不安が正義の心に芽生えてしまい、その夜は不安ですぐには眠れなかった。



 ***

 

 

 次の日の午前10時。

 正義たち破暁隊はヘリコプターに乗って魔界の上空を飛んでいた。


『第一防衛線十二駐屯基地より北北西30㎞地点、数百年前に使われていたと思われる魔人の村跡に複数の魔人を確認、その調査及び討伐にあたられたし』


 昨日イナバより伝えられた命令であり、破暁隊初の任務。

 正義が乗っているヘリコプターは大きく、内部はマイクロバスのような構造で正義は前から二列目のところに座っていた。

 自分の前の席には昨日の少女、八坂緋奈が座っている。昨日とは違い、いわゆるツインテールという髪型だ。乗るときに一瞬目を合わせたが嫌悪の目を向けられ、正義は非常に居心地が悪い。

 構造はマイクロバスだが材質は金属。数十分座っていただけで尻に痛みを感じ始めていたが、正義も、ほかの隊員も尻の痛みについては考えていない。

 彼らはヘリコプターの一番後ろの列に座って腕を組んでいる人物に意識を向けていたからだ。顔どころか頭全体を覆う金属製らしきフルフェイスマスク。巨大なコートを羽織っているせいでおおよその体形すらわからない。ひとつ言えるのはそれが絶対に同年代であるはずがないということ。先ほどの点呼で近藤がこの人物を『光』と呼んでいたことから昨日来なかった9人目の破暁隊のメンバーだということはわかる。

 もう一度見ようと正義が通路に顔を出してチラリと後ろを見るとそれに気づいた光が数秒後に声を発する。


「何用だ?」


 深みと重厚感のある低音。非常に落ち着いた響きを含みつつも力強さと威厳が感じられるその声の渋さは正義の祖父の源一郎と同じくらいだと正義は思う。

 にらまれた正義はすぐ席で姿勢を正して心の中で叫ぶ。また、ほかの隊員も心の中で同じようなことを思った。


(ほんとにあいつ俺と同い年なのか!?)

(あいつ、本当に私と同じ年?)

(あのお方、本当にワタクシと同じ年なのでしょうか?)

(あいつ、俺っちと同い年とか信じられないよ……)

(うん、絶対に僕たちと年齢は違うね)

(マジでよォ、ほんとにオレと同年代なのかァ?)

(あの服ダボ、ゼッテエ俺様と年ちげえだろ……)

(あいつ、アタシと同じ年とか信じられないんだけど!?)


 光の存在にほかの隊員が戸惑っていると、ヘリの速度が落ちるのを感じた。

 ヘリ内のスピーカーから近藤の声。


「あーあー、現在連絡で言った村跡の上空に到着したー。そこに潜む魔人どもを討伐されたしーされたしー」


 そして正義の左にあった扉が自動で開く。おそらく飛び降りろということだろう。先ほど一人一人に落下の衝撃を防ぐ軍のコートが支給されたのだから。

 扉から一番近いのは正義であり、自分が最初に飛び降りるべきか決めあぐねていると後ろから肩を叩か……ガシッと掴まれた。


「よお『勇者』行かねえのか? それともビビってんのか?」


 話しかけてきたのは金髪の狂犬のような人物、火御門仄。

 彼は正義を『勇者』と呼んだ。というのも昨日の連絡にて破暁隊各隊員の『職業』が書いてあったからだ。

 今日の朝にも彗や涼也、燐がそれを確認するため正義に話しかけてきた。


「いや、ビビってないよ。ただもう行っていいのかなって」


 この言葉、一応は本音。アナウンスに説明なく、ただ扉が開いたので正義は様子を疑っていた。

 仄も見栄ではないことは察する。


「そうか、先に言っておく。俺様はお前みてえな弱そうなやつが強え『職』についてるのが理解できねえんだ」


 正義は『弱い』と言われたことに多少傷ついたが否定はしなかった。それは事実だからである。

 正義が訓練したのは一週間、だが正義以外の隊員の中には子供のころから必死に強くなろうと努力してきたものもいるのだ。

 仄は続ける。


「だから知りてえ。お前自身が『勇者』にふさわしい強さを持っているのかをよお。そこで提案だ。勝負しねえか?」


「勝負?」


「ああ、どちらが村にいる魔人を多く倒せるかを競うんだ」


 正義はこの提案に乗るべきではないと考えるが正義にも舐められたくないというプライドはある。だから乗ってしまった。一時の感情に任せてしまって。


「……わかった」


「よし決まりだ! それじゃあ俺様は先に……」


「お待ちください」


 上品な女性の声が仄を止める。席を立ち、仄に話しかけたのは黒髪の少女、燐だった。


「ワタクシも参加してよろしいでしょうか? その勝負に」


「いいぜ。勝負は多いほうが楽しい、そして俺様が強いと()()できる」


 燐は後ろの席に座っていた涼也にも話しかける。


「涼也さんも一緒にやりませんこと?」


「うん、まあ、いいよ、勝負しようか」


 ここでこの任務でのライバルが決定。他の破暁隊メンバーは傍観か無視。

 その後すぐに破暁隊全員がヘリから飛び降りる。

 正義は未だに落下する感覚になれず、内心怖がりながら落下していたがほかの隊員は何食わぬ顔で落下していた。


『皆様、聞こえますでしょうか? イナバでございます。私が破暁隊のオペレーターを務めさせていただきます。なにかあれば連絡を』

 

 頭の中から声が聞こえ、そこから昨日会ったウサギ執事の声が聞こえた。

 あの人が破暁隊の戦闘を管理してくれるらしい。

 成田さんのように、誰かが見てくれるということは正義に安心を与えてくれる。そう思いながら正義は落下した。


 ***


 落下するにつれ、各隊員はバラバラに散らばる。

 正義はどんどんと地上に近づき、その『村』が見えてきた。

 その村は上空から見ると非常に大きい。おそらく小さい町ほどはあるだろう。建物も見えてくる。まるで床に散らばった無数のプラスチックブロック玩具のように建物の配置はバラバラ。

 

 地上に降り、周囲を見渡す。日帝の家屋のようなものではなく、西洋の方の村を思わせるデザイン。だが異質なのは建物がすべて同じ素材のようだということ。青黒いレンガ。それが建物の壁に、三角錐の屋根に、井戸に、あらゆるものに使われていた。


 正義は後ろから気配を感じ、振り向く。

 正義の数十メートル先に立っていたのは正義の背丈の二倍くらいの魔人。服らしきものは着ていない。肌は限りなく黒に近い灰色でオレンジ色のヒビが体に見える。魔人も正義に気付き、正義に向かって敵意を向けながら歩きはじめた。

 正義もすぐに銃口を向ける。射程距離までおびき寄せ、『貫通』の弾を撃とうとしたその時、


「射程までおびき寄せるとか! 臆病者だなあ! 勇者さんよお!」

 

 金髪をたなびかせながら正義と魔人の間に割り込むのが一人。

 仄である。


 彼に刀や銃のような武装はなく、だが左手に「ライター」を持っていた。

 仄はライターを点火する。普通のライターより一回りも二回りも大きい火。仄はそれを右手で()()右手をライターから離すと、火はまるで剣のように形を作った。

 まさにライターから炎を()()したのだ。

 炎の剣を持った仄は、仄に狙いを定めた魔人の攻撃を余裕の表情で避け、手に持った炎を魔人に突き刺す。すると炎は急速に魔人を包みこむ。炎はそのまま魔人を焼き続け、そして魔人は倒れた。正義が唖然としていると仄は振り向いて正義に叫ぶ。


「これで俺様は+1だ! せいぜい頑張りな! 臆病勇者!」


 そういうと仄は走りさる。その右手は依然として燃えていた。


 焦った正義は再び魔人を探し始める。

 耳に『意志』を向け、周囲に魔人がいないか調べると、右の家の向こう側に足音が聞こえた。建物の上に跳んで見ると、先ほどと同じような魔人が一匹。攻撃しようと銃を構えると左側から人のものとは思えない叫び声が。

 

 「寄ぉぉぉぉぉぉおおおお越おおおおおおおおぜええええええええ!」


 甲高い猿叫が正義を驚かし、攻撃をやめてその声の方を見るとひとりの女性が近づいてくる。長く美しい黒髪をたなびかせ、鞘に手を駆けながら走る女性。

 あれは


(り!? え!? 燐さん!? ……え!?)


 そう、会った時はまるでお嬢様のような振る舞いと上品な口調であった登尾燐。それが今、血走った眼と荒々しい笑みを浮かべながら走っていた。殺気を向けられた魔人は燐の方に意識を向け、拳を放つが燐は体を回転しながらそれを紙一重で回避。右手で柄を握り、回転の勢いを保ったまま抜刀。


龍獄門(りゅうごくもん)! 龍! 爪! 斬!」


 ズバンという豪快な音とともに魔人の首が吹き飛んだ。


「フゥー……フゥー……3匹目ぇ」


 興奮覚めぬような息遣いで死体を足で踏みつける燐。

 いつもの優雅な姿とのあまりのギャップに正義は呆然としてしまう。

 だが燐の方から屋根の上で呆然としている正義に語り掛ける。


「失礼、あなたの獲物を奪ってしまいましたわ」


 先ほどとは違う、お嬢様らしい喋り方。もう正義には彼女がよくわからなくなった。


「けれど恨まないでくださいね。競争なの……」


 最後まで言う前に燐は正義とは別の方向に駆け始める。

 その先には魔人がこちらに走っていた。恐らく彼女は正義より先に魔人の気配を感じたのだろう。だがその魔人は走っているよりも逃げているようだった。体中に傷があることが遠くからでも視認できる。

 そしてその後ろにいたのは前髪銀髪の好青年、樫野涼也。右手で薙刀を持ちながら魔人を追っていた。


 涼也は自分が狙っている魔人が燐にも狙われていることに気付く。


「うん? あれは燐さん?」


 だが燐は涼也に気付かないようである。


「もう一匹ィ!」


 鬼気迫る勢いで魔人に迫る燐。


「うん、ここままだと取られてしまうなあ、しかたない」


 涼也は速度を落とし、右足に力を込める。涼也が地面を勢いよく踏ぶと数十メートルあった魔人との距離が一瞬で縮まった。空中で薙刀を構え、魔人の首めがけて振るう。


樫野流薙刀術かしのりゅうなぎなたじゅつ 破樛(はじゅ)!」


 薙刀の刃が魔人の首にあたったかと思うとまるで刺身を切るかのようにスパンと切った。

 首がなくなった魔人は首が切られたことに気付く素振りもなく倒れ、涼也はその死体に着地、燐を見下ろす。


「ふう、危ないところだったよ」


 燐も落ち着いた顔で涼也を見上げるがその目は笑っていない。


 「ええ、本当に危ないところでした。もう少しであなたごと魔人の首を斬ってしまうところでしたから」


 二人の間には見えない火花が散っていた。


 そんな様子を遠目で見た正義は自信を無くす。自分の力に、勇者という役割に。そして、こんな世界でやっていけるかという疑問が生まれ、どんどんと膨らんでいく。

 その後正義は必死になって村中を駆けまわり、何体かは討伐したものの、満足する結果とはならなかった。

第拾弐話を読んでくださりありがとうございます!

判別しやすいよう一人称の表記は9人違うようにしました。

正義→俺 由良→私 燐→ワタクシ 慧→俺っち 涼也→僕 翔真→オレ 仄→俺様 緋奈→アタシ 光→我

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