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第百肆話 『摩利支天祭二日目・壱』

 八月二日。

 破暁隊は昨日と同じように3人ずつの班に分かれたが、昨日とは違うメンバーを組んでいた。


 光、翔真、涼也の班がいるのはアミューズメントエリア。

 出店エリアのような屋台などに加え、上を見上げればジェットコースターのレールが空に架かり、周りを見ればスカイフォールや観覧車などがそびえている、まさに遊園地だ。

 アミューズメントエリアにいる人も家族連れやカップルが多い。

 なぜ三人がこのエリアに遊びに来たか。


 それは光の提案だ。

 二日目の日程を決める際、光がアミューズメントエリアに行きたいと言い出したのだ。

 最初は行くことに否定的であった涼也と翔真であったが、彼女が一言。


「ずっと……お家に厳しく育てられて……こぅぃったところ行ったことなかったので……行きたかったんですけど……」


 残念そうな表情で呟いた一言で翔真と涼也は眉間を抑える。士道家はふたりとも知っている有名な一族。だから箱入り娘としていろいろと不自由に育ってきたのだろう。

 だから彼女に家ではさせてもらえなかった経験をさせようと目と目を合わせて彼女を楽しませようと決心し、二人はアミューズメントエリアに来訪することにした。


 ………………

 …………

 ……


 ジェットコースターにのった三人のうち涼也が光に尋ねる。

 

「うん、どうだった? ジェットコースターは」


「ぇっと……ほんとに楽しかったです! 思ったより速くて……」


 光は興奮した様子で応える。よほど新鮮で楽しかった体験だったのだろう。喜んでいる光を見て翔真と涼也も和む。

 だがさすがは軍のジェットコースター。

 速さも激しさも現界のそれとは段違いであり、翔真のほうはすこし顔色が悪い。歩き方もふらついている。まあ三回連続で一回転するのを体験すれば誰だって気分は悪くなるのだが。

 それでも光は無事な様子なのは、彼女は縦横無尽に目まぐるしく回る空中戦が本領であるからであろう。

 スカイフォールにバンジージャンプと、慣れないアトラクションが続いて二人は少しだけ休息を取りたかった。

 その旨を光に伝えると…………

 

「……わかりました……じゃああれやりたいです!」


 光ははしゃぎ過ぎたことに若干恥ずかしがるも、まだ元気が有り余るのかとあるアトラクションに指をさした。


 それは射的。

 アミューズメントらしく銃で的を狙うものだ。景品もあるようで、ゲーム機や巨大なぬいぐるみなどが飾られている。それを目当てなのか長蛇の列ができており、待つことになりそうであるが休憩したい二人にとっては逆に幸運であった。

 一見ただの射的屋のようであるが、狙うためのものの種類が豊富。

 よくある銃からサブマシンガン型、スナイパーライフル型、拳銃型に加え、なんと弓やクロスボウまである。

 

 銃が使えない光でも景品を取ることは可能かもしれない。


 そんな予感を胸に抱きながら列の後ろから並び始める。


 30分後、あと数人で光たちの番が来ようとしたとき、5人ほどの大人の集団が突如光たちの前に割り込んだ。


「おいィ……てめえら何やってんだァ? 列ができてんだろうがァ……」


 大人たちに威嚇するした翔真だが男どもはなびかない。5人の中で最も図体のでかい男が破暁隊3人を見下ろして見苦しい笑みを浮かべる。


「ああ? なんで俺たちが並ばなきゃいけねえんだ? そんな義務でもあんのか?」


 見るからにガラの悪い男が言い訳を述べる。もちろん彼らの言葉に正当性は微塵もない。だが彼らの圧だけは無駄に強く、スタッフも後ろに並んでいる客も何も言えない。

 その中でも翔真は彼らに屈することなく文句を言う。


「てめえこそオレたちを無視できる権利でもあんのかァ?」


 より鋭い眼光で威圧し返す翔真。もちろん割り込んだ男たちは動じない。


「俺たちの部隊はこの前の戦争で魔将を倒したんだぜ? それがこの国を救った英雄相手にする態度なのか?」


 どうやら彼らは戦争で戦績を上げた部隊らしい。それをよほど誇りに思っているのだろう。このような非常識な行為に及ぶということは。

 どれだけプレッシャーをかけても目の前の少年がビビらないことに苛立ちを覚えたのか、巨漢の男は青筋をうかべて翔真の胸ぐらにつかみかかる。


「俺たちは魔将を倒したんだぜ? 2度と口をきけないようにしてやろうか?!」


 拳を握って翔真に脅しをかける巨漢を見た光は真剣な眼差しを巨漢へ向け、()()に思考を飛ばす。翔真を守るために。


(来て……「手」は2つでいい……)


(久しぶりに連絡をよこしたと思えばそれか…………だが少しだけ待つがいい……)


(え?)


 式神を呼ぼうとした光だが式神側から断られてしまう。「手」を召喚出来ず、翔真を助けられないと戸惑っていると横から一人の男が巨漢を咎める。


「簡潔に言おう。その手を放せ」


 アミューズメントエリアでは珍しく黒光りする軍服を着た男性は、巨漢ほどとまではいかないものの、涼也を超えた身長、そして何より帽子で影を落としてはいるが、無機質な目つきをした男は見下すというよりも監視しているよう。窮屈さとか、冷たい牢獄にいる感覚すら覚える。


「だ、誰だお前は……」


 男の目つきに列に割り込んだ巨漢もビビってしまう。先ほどまでの威勢が弱っている。


「簡潔に言おう。セキュリティキャストのようなものだ。私の前でケンカができると思うなよ?」


 セキュリティキャストと名乗った男は翔真を掴む巨漢の腕を握る。巨漢の腕は丸太のように太く、セキュリティキャストとの力の差は歴然かのように見えたが、セキュリティキャストが力を入れるとみるみる巨漢が痛みで顔をゆがめ始める。

 すぐ巨漢は翔真から手を放し、痛むところを抑えながらセキュリティキャストをにらみつける。

 

「てめえ……なんてことしやがる……俺様たちが誰か知らねえのか?」


「簡潔に言おう。知らん」


 毅然とした態度を崩さないセキュリティキャストにみるみる怒りを積もらせる巨漢。


「俺様たちは魔将を倒したんだ! 敬意ってもんを払わねえか!」


「簡潔に言おう。滑稽だ」


 戦績で脅しにかける巨漢だがセキュリティキャストは笑うのみ。その後翔真たちに目を配る。


「なぜなら貴様たちの目の前にいるのは魔将どころか……()()()()()()()()()なのだから」


「なんだと……」


 巨漢はもう一度翔真たちに目を向ける。だがその目は先ほどの威勢のいいものではなく、畏怖と驚愕が混じったものであった。巨漢のうしろにいた仲間が呟く。


「こいつらが……破暁隊だってのか……」


 破暁隊の3人もまた巨漢たちを睨み返す。だがそれは先ほどよりも幾分余裕があるものだ。


 数秒の沈黙が続いたあと、巨漢は居心地が悪くなったのか、はたまた恥ずかしくなったのか怒りを抑えながら無言で仲間を連れて去っていった。


「えっとォ……ありがとうございます」


「簡潔に言おう。礼には及ばん。これが私の義務だからな。このエリアを楽しんでくれたまえ」


 胸元を整えながら翔真がセキュリティキャストに感謝するも、セキュリティキャストは一言だけそう告げてすぐにどこかに行ってしまった。

 

「ずいぶんと怖い人だったなァ……」


「けど助かりました…………っとつぎはぅちたちの番ですよ!」


「うん、めざすはあのぬいぐるみだ!」


 トラブルはありつつも3人はアトラクションを楽しむことにした。



 ***



 少し離れた場所で、セキュリティキャストの男は射的を楽しむ破暁隊を眺めていた。


「あれが魔王を倒した破暁隊か…………」


 巨漢を威圧したときは鉄仮面のごときに表情を変えなかったセキュリティキャストであったが、このときだけは口角が少し上がっていた。巨漢に臆することのない精神性を男は評価した。

 そこへ彼に無線が入る。


「…………なるほど。売店でトラブルか。すぐに向かう」


『お願いします。彼らを止められるのはあなたぐらいなので。網走(あばしり)(まもる)()()()()()


「承知」


 無線を切り、売店へ向かう守はもう一度破暁隊に目を向ける。


(精神面はよし。戦闘面は……()()で出会えることを祈ろう)

第百肆話を読んでくださりありがとうございます!


後日光の個室にはでっかいクマのぬいぐるみがかざられたとか......


感想、レビュー、ブクマ、評価、待っています!!

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