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第玖玖話 『摩利支天祭』

「話は終わりましたか?」


 光の挨拶が終わった後、いつからいたのか鬼灯寮の管理人、イナバが破暁隊へ話しかける。


「ああ終わったぜ」


「どうかしましたの?」


 一段落したと確認を取ったイナバは一回頷いたあと、破暁隊へ言い放つ。


「摩利支天祭の開催が決定しました」


「「「「「「「「やったー!」」」」」」」」


 正義以外の破暁隊が歓声を上げる。もちろん十人十色ではあるが大人しい光や由良もリアクションを上げたのだから正義は摩利支天祭というものがすごいものなのだと直感で考える。


「パンフレットはまだなのかよォ⁉」


「まだでございます」


「いつやるの⁉」


「八月一日から五日間です」


「もしかして本戦にもワタクシたちは参加できるのかしら⁉」


「もちろんでございます。先の戦いで功績を上げたものには無条件で本戦の参加チケットが配られております」


 目を輝かせながらイナバに質問を投げつける翔真、緋奈、燐の三人。

 また、本戦に参加できるとイナバが言えば、燐、仄が大喜び。慧や涼也も笑顔で話し合っている。


 この状況についていけない正義はひっそりと、談笑している慧と涼也に近づき、申し訳なさそうに尋ねる。


「あのー……摩利支天祭ってなに?」


 正義の質問に、二人はすぐに答える。まだ軍に入って間もない正義が摩利支天祭を知っているはずがないのだと察してくれた。


「摩利支天祭ってのは軍、いや大日輪皇国かな……が主催する大規模な祭りのことさ! 一般人が出す屋台から企業が出すブース、軍の研究発表会、スタジアムでの試合まで! 祭りではいろんなことが実施されるんだ!」


「うん、大本営が主催ということもあり、軍全体を巻き込んだ摩利支天祭は軍人にとって最も楽しみにしているイベントのひとつなのさ」


 大きなお祭りときいて正義も少し興奮する。二人から得られる情報ですら魅力的に思えたのだ。


「それと本戦ってのは?」


 燐が言った中で引っかかったことも慧と涼也に聞こうとしたが、三人の間に仄と燐が興奮した様子で入り込む。


「本戦というのは摩利支天祭のメインイベントなのです!」


「大日輪皇国軍人千人によるバトルロイアルなんだぜ! でも千人はほとんどが抽選で選ばれるし倍率もたけーから一生に一回さんかできるかどうかなんだよな! まさかこんなに早く参加できるなんて!」


 頬を赤らめながら正義に本戦について語る二人に正義は苦笑いしながらも、心のどこかで楽しみにしている自分がいた。


 喜びで舞い上がっている破暁隊へイナバの小さくも張り詰めた声が騒ぎを止める。


「嬉しそうで何よりですが、あなたたち()()には摩利支天祭の前に一つイベントがございます」


「へ! なんだいって見ろ! 摩利支天祭以上にやべーもんがあるかよ!」


 神妙な面持ちのイナバに煽りをかます仄。ほかの破暁隊も頭の中は摩利支天祭でいっぱいだ。

 余裕があるもの、楽しみが隠しきれていないもの。


「来たる七月下旬……陌暉耶(ひゃくきや)高等学園の定期テストがあります」


 その瞬間全員から心からの笑みが消えた。笑うものもいるがそれはショックで表情が変えられないだけ。

 一番余裕のあった仄は額から汗を流している。


「で、でもよお……定期テストが終わっちまえば祭りはすぐそこだろ? きばることじゃあ……」


 震えた声で呟く仄だがイナバは情けをかけることなく破暁隊を追い詰める。


「それが、もしテストでひとつでも赤点を取ってしまえば夏休みに補習授業へ行かなければならないのです」


「げっまさか……」


 嫌な勘がさえたのは緋奈。テストと聞いて曇った表情が一段と不機嫌な顔となる。



「はい。補習授業が開かれるのは八月一日から五日の五日間。つまり…………



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 

 ***



 数日前……

 場所は第56結界。戦争前に軍全体の会議が行われた場所である。

 この日も第56結界で会議が行われていた。ただ会議の参加者は軍人は戦争前の会議より少なく、どちらかというとスーツの人間が多い。

 軍人が少ないのは依然として彼らが戦後処理に追われているから。四人の魔王が侵略してきたこともあり、大規模な戦闘のあとは大忙しで会議に参加できる余裕がないのだ。

 もうひとつは会議の主題が戦闘だとか戦争にはあまり関係のないことということ。『軍』というよりも『大日輪皇國』に関係する議題だ。


 その議題についてというのが、『摩利支天祭の開催について』だ」


 摩利支天祭とはなにか。


 一言でいうなら、大日輪皇國が定期的に開催する最大規模の祭り、だ。

 大日輪皇国はいくつかの祭りを催している。だがどれも陰陽師の中だけであったり、侍どうしで開催するものなど、規模としては大きいとは言えない。

 しかし摩利支天祭はそのどの祭りの規模よりも大きいのだ。大本営が主催とする摩利支天祭は大日輪皇國軍に所属する者だけでなく、大日輪皇国、つまり軍の関係者や家族なども参加でき、また祭りの場所は専用の結界ということもあるなど、まさに唯一無二の祭りなのだ。


 もちろん大規模ということもあり開催される頻度は低い。ほかの祭りが一年や二年に一回に対し、摩利支天祭は十年に一度。しかも軍の開催する祭りは戦争が起きたら開かれないということもあり、摩利支天祭は非常に珍しい祭りなのだ。


 会議が進み、一人の男性が壇上に登る。


「これから『摩利支天祭の開催の是非』についての投票結果を開示します…………結果、345票対23票で、開催を決定いたします」


 男性の宣言とともに静かな拍手が上がる。また、結果を受けて小さな声で話し合う人もしばしば。

 数秒後、再び男が口を開く。

 

「さて、質問がある方は挙手を」


 すると一人の男性が手を上げ、起立。


「戦争が終わってすぐだというのに、祭りを開催してよいのでしょうか? 未だに魔界では残党狩りが行われていると聞きますが?」


 言動からして恐らく摩利支天祭の開催に否定的な人物だろう。彼の懸念点は大日輪皇国軍の領地にいる魔王軍の残党が祭りの最中に攻めてくるのではないのかという懸念だ。

 質問者に対し、壇上の人物が回答。

 

「今回の摩利支天祭は戦勝記念も兼ねております。さらに残党狩りと言ってもすでに四日に一度の小規模なものです。それもここ一週間魔将は確認されておりません。摩利支天祭の開催中は式神を配置して監視、さらに第一防衛線の基地も稼働させるつもりです」


 壇上の人物に続いて、なんと元帥閣下も発現。彼女が立ち上がった瞬間は空気が一段と重くなる。


「いざとなれば私が出撃する。それでよいだろう?」


 元帥の発言で納得したのか質問者は一礼して引き下がった。

 さらに手を上げるものが。


「報告書にて、『来賓』を招待、というものがある。この詳細を」


 質問された男は先ほどのようにすぐに応えることはせず、一瞬だけ天照元帥の隣にいる南郷に視線を送る。

 南郷は一度頷き、詳細を放すことを許可。


「摩利支天祭には、元大本営、財閥、皇族の方々をお招きしているほか、今回は外国人も招いております」


 外国人と聞いた瞬間会議場がざわめく。困惑、欺瞞、嘲笑。大日輪皇國軍は一般の日帝人すら知らない極秘組織。それをほかの国に知らせていいのかと。もちろん質問を投げかけた人もそう聞いた。

 だが、壇上の男は先ほどとは違い毅然とした態度を取る。

 

「安心してください。招待した国は二つ。一方は我々を認知し、協力関係を結ぼうとしている現界の国。もう一方は我々がすでに深い関係を持っている魔界の国です。前者に関してはむこうですら限られた人しか話を通していません。軍の存在がバレる心配はないでしょう」


「まあ大日輪皇國軍という名が一般に知れ渡ることはない。して、その国は?」


「前者は、魔界の大日輪皇國軍領土、その東方にある朝の大都ウルブス・マトゥティナのさらに東にある、ドワーフの領土の大山脈、さらにさらにある東の土地に進出した国、鉄の帝国(アイゼンライヒ)。後者は400年前より友好関係を結んでいるアノン勇者国です」


 鉄の帝国(アイゼンライヒ)

 ヨーロッパの中央に位置する国であり、第二次世界大戦では日帝皇国と同盟も結んだ国。

 もちろん軍も魔界での活躍を認知しており、彼らの超技術(オーバーテクノロジー)は式神に匹敵するほど強力。会議に参加した人の中には鉄の帝国(アイゼンライヒ)に対しての質問を持つものが大勢いたが、壇上の人物は、質問は後日とくぎを刺した。


 

 ***

 

 

 それから数名が挙手する。手を上げたものには賛成派もいた。摩利支天祭という一大イベントを成功させたいが故、懸念材料はなくしておきたいのだろう。

 ここにいる全員が祭りに深くかかわっている。だから今一度確認して認識の齟齬が生まれないようにしているのだ。

 

 数十分後、会議は終了する。各々が会議の準備へと向かい、元帥閣下も残っている執務を行うため結界の出入り口に続く廊下を歩いていると、正面より側近が走って近づいてくる。相当焦っているようだ。

 ()()のままならない様子を察した元帥はすぐに廊下の端による。側近の耳打ちに元帥は目を見開いた。

 

鉄の帝国(アイゼンライヒ)からの来賓が変わった?」


「はい。最初は管理局員でしたが、ある人物が自らが行くと無理やりお決めになった様子で……」


「その人物は?」


 そう聞く天照だがなんとなく察しがついていた。そんな横暴ができるのはただ一組織(一人)しかいないからだ。


天候裁定機構ヴェッターゲリヒツアインハイト五号機(フュンフテ・マシーネ)・|制御者たる曇天《デア・ヴォルケンダーフ・アルス・コントロレッサー》・クラウディア様です……」


 渋い顔をする天照。脳裏に浮かぶ女狐に苛立ちを覚える。


「どうしますか? 拒否しますか?」


「いや、そんなことをすれば『日』と『鉄』の同盟なんぞ夢のまた夢だ。北からの脅威が強くなっている今、味方が欲しい。……ここで我々を試しに来たということか。いい気になりおって。……許可しておけ。精いっぱいのおもてなしをすると書き添えてな」


「かしこまりました」


 部下が去るのを見つめながら、元帥は一人呟く。



「この祭り、波乱が巻き起こる予感がするな」

第玖玖話を読んでくださりありがとうございます!


天候裁定機構ヴェッターゲリヒツアインハイト一単体でアンカーです。文字通り、前々回に出てきたリーゼレーゲンさんとクラウディアさんは姉妹です。まあ姉妹という言葉が100%合っているかは別ですが。


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