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第拾話 『上層ノ討議開カレリ』

 近藤は結界の総数を10万と説明した。以下はその説明である。


 第10000~99999結界は第五級結界。組織の戦闘員及び非戦闘員が利用している結界だ。

 軍の訓練場よりもショッピングモールや温泉など、日常的な暮らしで利用するような施設系の結界。軍の兵士の家族など一部の外部の者らも利用できる。


 第1000~9999結界は第四級結界。組織の戦闘員が主に利用している結界。訓練場、隊や師団の倉庫、軍の整備エリアがある。

 

 第100~999結界は第三級結界。隊や師団同士による戦闘訓練のために使われる大きい結界、兵器諸々の研究所など、比較的重要度の高い結界がこのあたりにある。

 

 第10~99結界は第二級結界。組織の真に重要と言われる結界。

 軍事として使われるのは『帝都』を丸々再現した超巨大な結界に「海戦」までも行える大海原の結界など、ここにあるのは大規模な実戦形式の訓練向けの結界。また、『軍』にとって重要な武器が保管されていたり、過去の兵士による『技術』や『記録』が保存されている結界もここにある。

 

 第0~9結界 第一級 軍団長クラスの人ですら、入るためには幾人もの許可と何重の審査が必要な結界。

 まさに軍にとってのトップオブトップシークレットとして扱われている。

 結界内に関しては情報統制されており、軍団長及びそれに準ずる階級未満の兵士がそれを知ることはできない。


 それが大日輪皇国軍の要、結界である。


 そしてここは第22結界『翠明邸(すいめいてい)

 日帝皇国が外国の文化を取り入れ始めた150年前ごろの洋館をモチーフに作られた結界。天井には石膏の紋様と、そこからつるされ部屋全体をほの暗く照らしているシャンデリア。壁は、下半分が濃いマホガニーの羽目板で覆われ、その上に貼られた壁紙は、花模様が織り込まれているものの、ある種の和風を思わせるデザイン。窓は大きく、そこから見える庭園はきれいに手入れされていることがうかがえる。床には黒漆の木材に深紅の絨毯。第二級結界ということもあり組織にとって重要な会議がこの結界でよく行われているのだ。故にこの会議には「大日輪皇國軍」のトップ層、軍団長らが出席。

 出席者は会議室の天井からつるされたスクリーンに映る映像を見ていた。そこに移っていたのは晴宮正義の訓練中の映像、そして魔人との戦闘の映像。

 正義が魔人にとどめを刺したところで映像が終了。部屋が明るくなると、部屋の奥、上座に最も近い席に座っている長身の男が手を叩いて興奮気味に声を張り上げる。


「すばらしい! 勇者が銃を持ったと最初に聞いた時は遠距離から引き金を引くだけだったならばどうしようかと思っていたが! まさかここまで武人と称すべき戦いをするとは思わなかった! まさに銃を持った侍だな!」


 彼の左前に座る鋭い目つきをした冷徹そうな男が呟く。


「南郷第二軍団総司令官殿、確かに彼の動きは()()『侍』に似たようなものを感じる。ならば今からでも主要武器を刀に変えてもよいのでは? 小説などで勇者は剣を持つというだろう?」


 それに対し南郷は自信満々に返答。


「それは違うよ、武御雷(たけみかづち)第三軍団長殿。創作物において勇者が剣を持つのは単にその時代背景において「剣」が主要な武器だったからだ。だが近代になってから剣などの近距離武器は淘汰され、その後のメインウェポンは銃、世界大戦時には化学兵器や飛行機が開発、さらにはインターネット上の『情報戦』が展開されゆく現代、せいぜい半径数メートルしか攻撃できない剣などを持たせてどんなメリットがあるというのかね?」


「ふむ、『勇者』の歴史に倣うのではなく、『戦』としての歴史を鑑みて銃を持たせると?」


「その通りさ、私としても『勇者』と『銃』が組み合わさったときどうなるのか、興味もあるがね」


「新たな時代の勇者、なるほど。だが、そうなった場合どの『軍団』に入れる? 我が第三軍団はもちろん第四・第五・第六・第七・『(かい)』と『(くう)』は無理だと思うが?」


 すると近藤から一番近くに座っていた深海のごとき深い青色の長髪の女性が反応する。


「いや! うちの海轟(かいごう)軍団に入れてもいいでしょ? そうだなあ、ほら! 勇者の『意志』を戦艦の主砲に乗せたら、面白そうやんか?」


 明るい口調で話す女性に、その右前に座っている瞼ぎりぎりまで額にバンダナを着けたオールバックの目つきの悪い青年が意見する。その態度はケンカを売っているようにしか思えない。


「まったく、島国出身の田舎娘はこれだから……、海でしか戦えん勇者など使えんにもほどがある。魔人の多くは陸からくることを知らんのか? あ? やるなら我々『空覇(くうは)軍団』だろ」


 説教じみた煽りに青髪の女性が言い返す。


「アンタんとこの『天翔武鎧(てんしょうぶがい)』だって慣れるのに最低でも三年でしょ? その間勇者を遊ばせておくのもどうなんじゃない? カナー!」


 二人の間に散る激しい火花。


 いつものことではあるが、普通の隊員では彼らのけんかを止めることはできない。それを無視して、武御雷第三軍団長の右斜め前、南郷第二軍団総司令の左に座る金髪ショート、エネルギッシュな雰囲気の女性が腕を組みながら近藤に問いかける。


「晴宮隊員は陰陽道、そして式神術は使えないんだろう?」


「ええ、安倍(あべ)第五軍団長」


「なら第二軍団しかないのでは?」


 そう安倍第五軍団長に提案された南郷は不敵な笑みを浮かべながら顎に手を当てる。


「勇者か、どの部隊に入れよう……やはり『特撃師団』かな」


 ワクワクする様子を見せながら勇者に就いて考える南郷に近藤が一言。


「いえ、晴宮隊員を配属する部隊はもう決めてあります」


「というと?」


「現在私が編成している部隊、『破暁隊(はぎょうたい)』に配属させます」


 近藤の報告に南郷が返す。


「例の若人育成部隊か、確かに入れるとしたらそこだな。勇者の『権利』を活用するためにも」


「ええ、いかがでしょうか 『元帥閣下』」


 近藤は自分の反対側、長机の上座に座っている人物に話しかける。軍団長たちもその方を向いた。


 職業【元帥】

 大日輪皇國軍においての最上階級であり、軍の最高戦力。

 座っている状態であっても圧倒的な覇気と絶対的な存在感を放っている。その目はまるで龍のごとき恐ろしさを秘め、発する言葉は人々を緊迫させ、歩くだけでもその場の空気が震えたつ。

 元帥を初めて見たものは言う。


「地獄の閻魔と会うときがあっても、あれほどの圧は感じないと思う」と。


「普段であれなのだ。敵意なんて向けられたら私は死んでしまう」と。


「閣下が部屋に入ってきたとき、まるで水の中に沈められたかと錯覚するくらい空気が変わったのだ」と。


「もう……同じ人間なのか疑った」と。


 数秒の沈黙。

 元帥は手を机の上で組み、近藤と目を合わせてゆっくりと口を開いた。その覇気に近藤は一瞬気おされそうになる。


「よい。許可しよう。加えて、第三級結界の公共訓練場の使用権、並びに第二級結界の訓練場使用申請の権利を貴殿に与えよう」


「誠にありがたく存じます」


 近藤は元帥に礼をした後、軍団長らに尋ねる。


「さて、これにて晴宮正義隊員に関しての報告を終わりたいと思います。意見などがある方はいるでしょうか?」


 軍団長たちは沈黙するか、「なし」と返事のみ。


「ない。ということで、次の報告に参りたいと思います。ここからは『陰局』の水無瀬(みなせ)情報局長より報告です」


 そう言って近藤は下がり、一人の女性が前に出る。服装は軍団長と同じ整った軍服。手に持った書類を確認しながら口を開く。


「私からお話しするのは……魔人による大日輪皇国軍魔界領への大規模な侵攻の可能性についてです」


 軍団長らの空気が変わる。なにせこれから話されるだろう事柄は、


「戦争……か」


 そうつぶやく南郷総司令官に水無瀬が返す。


「はい。そしてこの侵攻の首謀者はおそらく…………」

 


 ***

 


 そして、この結界とは別の場所、「魔界」でもある会議が開かれた。いや、会議というより会合というべきか。


 『門の核』を囲う皇國軍の巨大な結界。そのはるか、はるかはるか北の地。そこに大きな都市ともいうべき町があった。

 現界には絶対に見られない、薄暗い色の素材が使われた奇怪な形をした建物が集まった町。その中央に聳え立つ大きな城。現界最大の建物の高さが800m。だがこの城はその倍あるであろう。『魔法』があるからこそ実現した荘厳な建物のはるか上にある塔のてっぺんに3つの気配。

 だがそのどれも『人』ではない。

 ひとつは、立てば3mはある巨体に黒色の王衣、灰色の肌と厳格な顔つき、割れ目があるスキンヘッドからは橙色の光が漏れ、まるでマグマを連想させる。

 ひとつは、姿かたちは赤髪の青年だがそのオーラは人のそれとは違う。左手には巨大な杖を持ち、その先には七色に輝く巨大な宝石がはめられていた。

 ひとつはまさに昆虫人間。巨大な複眼と節足動物らしき腕が4つ。一応高貴な服らしきものを装着している。


 昆虫人間が口を開いた。


「デ、ヤラレタノカ。オ前ガ送リ込ンダ1000人ノ兵ハ」


 青年が答える。


「ええ。先走って敵の防衛線に近づいた人の中に私の転送魔法陣を仕掛けておいたものが居ましてね。それを使って兵を送ればあの基地は落とせるかと思っておりましたが、奴らはなかなか手ごわい」


 スキンヘッドの男が呟く。

 

「当たり前だ。奴ら『門番(ハーリス)』ははるか昔から我々魔人を退けてきた。それに基地1つ落としたところでやつらは毛ほどの傷も負わないだろう」


「しかし、試験用の巨大人造人間(イストアード)がたった一人の少年に倒されたのは意外でした」


「逆に考えろ。あの程度ではハーリスに通用しないということが分かったのだ。ならば改良を加えればよい」


「確かにそうですね。ならばもう少し皮膚を硬くするべきか……」


 赤髪の青年はブツブツと独り思考を巡らせ始めた。

 横の昆虫人間がスキンヘッドに尋ねる。


「オイ、サンメゴ王国ノ件ハドウナッテイル? 順調カ?」


「ああ。もうすぐ王都を包囲できる。そこに我々三人が攻め込めば、すぐにでも落ちるだろう」


「カッカカッカ! マア肩慣ラシニハ丁度イイダロウ。ソシテソノアトハ……」


「ああそのあとは」


 スキンヘッドは見るものを震え上がらせる恐ろしい笑顔で言い放つ。頭のヒビから溶岩のような液体がコポコポと湧き出しながら。


「我が100万の軍勢を持ってしてかのハーリスどもを殲滅し! 『門』の先にあるといわれる『碧空(へきくう)の楽園』を我ら魔人のものとするのだ! それこそが我々魔人2000年の悲願であり! 同胞をそこに導くことこそがここにいる我ら『魔王』の役目である!」


 それを聞いたほかの二人も頷く。

 

 そう、この三人は魔王である。

 人間たちを脅かす敵、魔の王。災害級の力を振るい、壊し、飲み込む。

 鉄のように硬い外骨格と音を超える速度で敵を蹂躙する蟲の魔王、迅蟲王(じんこおう) ムシャマ。

 宝石の魔法を得意として多彩な魔法を使う魔王、輝光(きこう)魔術師王(まじゅつしおう) アルトランサ。

 溶岩や火山の魔法を極め、その圧倒的な大火力ですべてを殲滅する魔王、熔灼漿王(ようしゃくじょうおう) ゼノン。


 彼らが目指すは彼の地『碧空の楽園』、日帝皇国。

 その地にいたるべく、三人の魔王は『門番』、大日輪皇國軍を倒すために同盟を結び、圧倒的な軍勢で攻め込もうとしているのだ。


 その大戦が始まるまで、あとわずか。

第拾話を読んでくださりありがとうございます!

8話あたりで書きましたが魔界は空が常に雲に覆われています。魔人は本当の「空」を見たことがありません。

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