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告白はミートパイが焼けてから  作者: 志波 連
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38 クレマン参戦

 王都銀行の頭取室に到着すると、クレマンが待っていた。


「ティアナお嬢様。お久しぶりです。お元気そうで何よりですな」


 ティアナがクレマンに駆け寄った。


「ああ、おじさん。元気そうね。偶には手伝いに来てよ。意外と忙しいのよ?」


「そりゃそうでしょう。あの料理をあの値段で出す店なんて、王都中探してもありませんからね」


「またおじさんと一緒に働けるなら楽しいわ。そうそう、こちらサムさんよ。グルー商会の副会長の旦那様です」


 サムが最敬礼をすると、クレマンがにこやかに握手の手を差し出した。


「やあ、君が掃きだめの鶴か。何度か顔は合わせたことがあったが、こうして親しく話すのは初めてだね」


「いつもお顔を拝見するだけで、ご挨拶もできず失礼をしておりました」


「いやいや、それはお互い様だ」


 ソファーに座りなおし、早速本題に入る。

 クレマンへの説明はララが担った。


「なるほど。要するにグルー商会自体は残して頭を挿げ替えたいという事だね?」


「ええ、でも本当の目的はサムさんをシェリーさんの元に返してあげることよ」


 ティアナの言葉に、クレマンと頭取が驚いた顔をした。

 サムは今にも気を失いそうになっている。


「いや……ティアナお嬢様、こう言ってはなんだが……ここまでやるほどの重要案件なのかな?」


「当たり前でしょう? 二人は思い合っているのよ? 今のままでは誰も幸せになれない」


 ララが吹き出した。


「何を人のためみたいに言ってるのよ。自分のためでしょう? あのね、ティアナはトマスさんのことが好きなの。トマスさんもティアナが好き。でも今のままではトマスさんと一緒になれないでしょう? シェリーさんが一人でも大丈夫っていう状況を作れば良いのだけれど、そうなると……」


 クレマンが後を引き取った。


「グルー商会の副会長の存在を消すしかないな。なるほどね。正直に言うとサムさんとシェリーさんのためだけなら、お嬢様の命令として動くけれど、お嬢様の幸せがかかっているとなると、私も本気を出さねば」


 サムの肩がビクッと揺れた。

 ララが大きく頷いた。


「そうですよ、クレマンさん。サミュエル様とサマンサ様を動かすくらいの勢いでお願いしますね。ティアナは幸せになれる人です」


 全員が頷いた。


「なんか……すみません」


 ティアナは一人で恐縮している。


「では早速始めましょう。私は本店に報告しておきます。お二人は一応身辺には気を付けてくださいね。まあララがいるから心配はないけれど」


「ええ、お任せください。私がデートの時はトマスさんかキースさんにお願いしておきますから」


 クレマンが怪訝な顔をする。


「キース? それは誰ですか?」


「キース・ソレント卿です。伯爵家か子爵家か忘れましたが次男か三男だったと思います。今は第二騎士団に所属していて、たしかパラディンの称号を持っていたはずです」


「なぜその人の名が?」


「彼はティアナを狙っているみたいなので」


 クレマンが勢いよく立ち上がった。


「ティアナお嬢様は彼のことをどう思っているのですか?」


 ティアナがバツの悪そうな顔をした。


「うん……見た目はすごくハンサムで、初めて見たときに、これが初恋かもって思ったのだけれど、トマスには感じる……こう、何て言うか……ドキドキ? い~ん、違うかな……それが無いの。ララに言わせると、それはただの憧れで恋ではないらしいわ」


 どさっとクレマンが腰を下ろした。


「そうですか。身分的にはそのキースとかいう男の方が安心なような気もしますが、そうなるとお嬢様の夢だった食堂経営ができなくなりますね。しかしトマスという男はどんな奴なのですか?」


 口を開こうとしたティアナの代わりにサムが声を出した。


「トマスは良い奴です。あいつほどの男を私は知りません。幼いころから面倒見が良くて、人を喜ばせるのが大好きで……困った人を放っておけない……自分のことより人のことを心配するような……」


 最後は嗚咽で消えていった。


「わかりました。一度会ってみたいものですな」


「もう会ってるじゃない? 毎朝パンを運んでくれていた人よ」


「えっ! あの美丈夫ですか! でもあの男は一緒に住んでいる女性が……ああ、それがシェリーという方ですか。でも本当に二人はそういう仲ではないのですか?」


 ララが口を開く。


「そこは私が保証します。何度も確認しましたから」


「ララが太鼓判を押すなら問題ないですね。あの男は爽やかで良い人ですな。なぜ街の自警団などに所属しているのか不思議なくらいです」


「ああ、それには事情があるのよ」


 ティアナがトマスについて説明した。


「なるほど、そう言うことですか。納得しました」


 ララが言う。


「クレマンさん、ちょっと過保護が過ぎますね」


 クレマンが肩を竦めてみせた。


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