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第5話

「ここが彼の家。もっと遠いとこだとおもってたけど、この大きさならすぐ着いた」

ビルみたいに大きな2人の少女はほんの数分で元カレの家にたどり着いた。足元には膝の高さにも全然届かないような小さな家がある。

「便利でしょ?この大きさ」

またメアリが微笑んだ。


「今のあなたはこんな小さな、お人形さんの家よりももっと小さなお家に住んでいる人になんか負けないくらい大きくて強いんだから、思ってること言っちゃえば良いんだよ」

メアリの言葉を聞いて少女は静かに頷いた。


少女は元カレの住んでいる家の窓を拳で殴った。大きな物音と共に窓だけでなく、周囲の壁まで壊れてしまっている。

「なかなか豪快だね」

とメアリが茶化した。


壁に大きな穴をあけるとそのまま部屋の中に手を突っ込む。少女の元カレからすれば、睡眠中に突然壁が壊れ、そこから手が入って来たのだからさぞびっくりするだろうな、と思うとメアリは少し面白くなった。同じことを思ったのか、少女もメアリの方を少し見てから笑った。それに対して、少女の元カレは腰が抜けたまま必死に部屋のドアから出ようとするところを少女が手で塞ぎ、あっさりと逃走経路を断たれてしまった。そしてそのままグーの手をして少女は元カレを手の中に入れてしまった。


少女がゆっくりと手を開くと、手の平の上には少女の手汗で動けなくなり、ぐったりとしている元カレがいた。少女は元カレを何も言わず上空から睨みつけた。少女の元カレは、睨みつける少女とその横でニコニコしながら見守っているメアリの2人の巨大少女の存在に怯えていた。絶対に敵わないサイズの少女が2人もいるのだから、元カレからしたらきっと怖いに違いない。


「ど、どういうつもりだよ。ふ、ふざけんなよぉ!」

少女の元カレの声は震えている。本人は啖呵を切ってるつもりなのだろうが、声は震えているし大きさも小さいせいでなんだか可愛らしく見えてきてしまい、メアリは思わず笑ってしまった。


「あたしの動画スマホから全部消して」

少女が冷たい声で言った。

「そ、そうだ。動画。早く解放しないとお前の動画全部ネットに流すぞ」


少女の元カレは今にも泡を吹いて倒れそうなくらいに怯えているのに、この期に及んで煽るような言葉を放つ。それを聞いて少女は何も言わない。静かな時間が一瞬流れ、少女が元カレを地面に置いた。突然自由の身になった元カレは一瞬何が起きたのか分かっていない様子だった。


夜の暗闇には影ができないから、頭上に大きなものが現れても気が付くのには時間がかかる。少女は元カレの頭上に素足をかざしていた。靴は先ほどのビルの屋上に元の大きさのまま置いてあるから今は裸足である。少女の元カレは腰が抜けて動けなくなっている。そこに少女が足の親指を乗せた。可愛らしい少女の親指も今は元カレよりも大きいから、それだけで簡単に捕まえることができる。


「早く消してくれないとこのまま力入れるから」

少女はあくまでも踵側に体重をかけて、できるだけ力が加わらないようには乗っているが、それでも小さな元カレを拘束するには十分すぎる大きさの力が加わっている。もしここからさらに力を加えると……。少女の元カレは想像してぞっとしていた。


「わかった。消します! 消しますから早く助けて!」

小さな叫び声が少女の足元から聞こえてくる。それを聞いて少女は再び元カレを摘まみ上げて、手のひらに乗せた。少女とメアリが覗き込み、合計4つの大きな瞳に見つめられながら少女の元カレは震える指でスマホの中身の消去作業をしていく。


「ぜ、全部消せました……」

「じゃあちょっとスマホ見せて?」

少女は返事を聞く前に元カレの手からスマホを長い爪で器用に摘まみ上げた。摘まみ上げた爪先に少しずつ力を入れる。先ずは画面がバキバキに割れ、さらに力を加えると、簡単にスマホは2つに割れ、壊れてしまった。


「あとは……」

次に少女は元カレの部屋に手を突っ込んでパソコンと周辺機器を握りつぶした。その際、近くにあった机やら本棚やらも巻き込まれてバキバキに壊れてしまったが、少女は気にしなかったし、元カレは怖くて何も言えなかった。


「満足した?」

メアリが少女に問いかける。

「うん……」

これまでの脅しから解放されることを考えた少女は本人も気が付かないうちに目から涙を流していた。


メアリは少女に笑みを向けた後、まだ手のひらの上で怯えていた少女の元カレを2本の指で摘まみ上げて、目の前にもってくる。少女の元カレは少女の手のひらという足場がなくなり80mという高さを直に体感させられている。


「もしまた同じようなことしたら多分次は無いと思うから気を付けたほうがいいと思うよ」

メアリは笑顔を崩さずに優しく言ったつもりではあるが、大きさの差と、落ちたら即死という恐怖から少女の元カレは失禁してしまった。

「え、そんなに怖かった?お漏らしするくらい怖がらせるつもりはなかったんだよ?」

メアリは慌ててオロオロしていた。その横ですっかり元気になった少女は笑った。


少女は元の大きさに戻るための薬をメアリに貰い、メアリの手のひらの上に乗っていた。空ではもう夜が明け、日が昇ろうとしている。


「本当にありがとう」

少女が深々と頭を下げる。

「いいよ、気にしなくても。これも私の仕事みたいなもんだから」

メアリが穏やかな笑みで少女を見つめた。


ふと空を見ると、トナカイの引くソリに乗って迎えにきてくれた先輩のサンタさんが目に入ったので、メアリは少女の乗っていない方の手を振った。

「じゃあ、私はそろそろ行かないといけないから」

そう言って、メアリも元に戻るための薬を口に含む。次の瞬間には、先程までとても小さくて可愛らしくて、守ってあげたくなるような小さな街並みが、今は住民たちの身を守ってくれる大きくて頼もしい姿になっていた。


「さっきまであたしの元カレを怖がらせてた頼もしいサンタさんがすっかり可愛い姿になったね」

少女がメアリに笑いかける。

「もう、からかわないでよ。」

メアリも笑い返した。


「でもサンタさんのおかげですごく素敵なクリスマスになったよ。多分街のみんなにとってもそうだと思うよ」

「そうだったら私も嬉しいな。」

少女がメアリに何か言葉を返そうと横を向いたらもうメアリはどこかにいなくなっていた。そして、その次の瞬間には今まで誰といたのかということも少女の記憶から抜け落ちていた。


この街にサンタのメアリがいた記憶は、日が昇れば住民の記憶からすべて消える。ただ、プレゼントをもらったことや、会いたい人と会えたこと、不安から解放されたこと、素敵な思い出だけが記憶の中にとどまっていた。あと、安全運転に心掛けなければいけないこともね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょうどクリスマスの日に完結しましたね。 ちょっとシリアスもあったけど、最後までほのぼので可愛い話で本当にいいです。 メリークリスマス。
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