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第4話

こうしてメアリは仕事を一通り終えて、あとは帰りに迎えに来てくれる先輩サンタを待つだけとなった。一旦元の大きさに戻ろうかとも思ったが、今の大きさのほうが迎えにきてもらったときに居場所が伝わりやすいと思い。そのままの大きさで、足元に気を付けながら待つことにした。


今のメアリの大きさではちょっとした動きが大惨事につながりかねないので、本当はじっとしておいた方がいいのだろうけど、せっかく大きくなったのだから、さっき事故を未然に防いだ時みたいな、今のサイズでしかできないようなことがしたいなんて思ってしまってついついうろうろしてしまう。もちろん細心の注意を払って。


ふと前を見ると、メアリの視線の先100m(メアリの体感で2m)ほどの距離にあるビルの上に人が見えた。メアリの胸の辺りまで高さのある大きなビルの屋上にこんな夜中に人影、それも髪の長いメアリと同じ位の年齢に見える少女が立っている。嫌な予感がしてじっと見つめているとその予感は的中した。少女はビルの屋上から飛び降りたのだ。


「ダメ!」

幸いここからそのビルまでは大きな車道があり、一般の人たちに迷惑をかけることなく最短距離で走っていける(まあ、走るといっても3歩ほどで着くのだけれど)。慌てて腕を伸ばすとメアリの腰くらいの高さで少女を掬い上げることができた。少女は何が起きたのかわからないような表情で、メアリの手のひらの上で膝を揃えて座り、茫然とメアリを見上げていた。


「あなた何やってんの?」

メアリがむっとして少女を見ると少女は拗ねた顔で答えた。

「なんで邪魔すんのよ……」

大きなメアリの姿を見ても物怖じせずに答える。

「今飛び降りようとしたでしょ?」

「そうだけど、何?」

少女は引き続き不機嫌そうに答えた。


「なんで飛び降りようとしたの?」

「なんでって、別に、あんたに言う筋合いはないんだけど」

「答えなさい。さもないと……」

メアリが自分の手のひらの上の少女を睨みつけた。揉めている相手にどうとでもされる立場であるにも関わらず、少女は何も動揺を見せない。


「さもないと、何? あたしをここから落とすの? それともこのまま食べちゃうの? 別に良いよ? 好きにしたら? あたしもういろいろ疲れたから」

投げやりな態度を見てメアリはため息をついた。


「私のこと化け物か何かだと思ってるの? そんなことしないって。ただ、知りたいだけ」

「あっそ、でもあたし言わないから。あんたみたいな初対面の巨人に話すことなんてないから」

「うーん、そっかぁ。同じサイズだったら教えてくれる?」

「はぁ?なんでそんな話になるのよ?」

「これあげる。クリスマスプレゼント。何に悩んでるのかわからないけど、きっと悩みなんてどうでもよくなるくらい素敵な世界が見えるよ」


メアリはポケットに入っていたクッキーを爪先に乗せて少女に手渡した。クッキーは元のサイズのままなので、探すのに苦労した。

「何よ?これ」

「おいしいよ」

少女は不審がりながらも口に含む。


「え? 何これ?……」

少女はがクッキーを口に含んだのを確認してからゆっくりと地面に下ろした。すると先程までメアリのブーツのヒール部分の背丈にも満たなかった少女がどんどん大きくなっていく。気づけばメアリよりもほんの少し(といっても実際には2,3m)大きくなった少女が目の前に立っていた。突然大きくなってしまった少女は周囲をキョロキョロと見回しているが、何が起きているのかよくわかっていないようだった。


「は? ちょっと、どういうつもり……?」

「ふふっ、これでもう飛び降りられないね」

メアリがクスクスと笑った。身長80mを超える少女が飛び降りて致命傷を負える建物なんてこの世に存在しないし、そもそも身長80mもある少女の体重を支えられる建物が存在しない。


「ほら、これがさっきあなたが飛ぼうとしてたビルだよ。すごくちっさいでしょ?」

もはや先程まで少女が高所で風を感じながら立っていた頑丈なビルは、今の少女の体重だと上に乗っただけで崩れてしまいそうな脆い場所になっていた。


「どういうつもりよ?」

「何に悩んでるかわからないけど、世界なんてあなたが思っているよりもずっとちっぽけなんだからもっと胸張って生きなさいよ」

メアリの言葉を聞いて少女の目から涙が一粒流れる。

「ずっとこの大きさならあいつに怯えなくていいのに……」

「あいつ?……」


「あたしの元カレ……あたしがフッたんだけど、付き合ってた頃の性行為の映像隠し撮りされてて、今もお金渡さないとネットに流すぞって脅されてて、もうあたしお金なくて今日も親の財布から抜こうと思ったんだけどさ、その度胸もなくて……それでここにいたんだよ」

「それは酷い……!」

「そうでしょ。いっそあんたがあたしのこと丸呑みしてくれたもうこんなこと悩まなくて済んだのに……」

少女は潤んでいた目を拭いながら話す。そんな姿を見て、メアリがクスッと笑った。


「じゃあさ、今からその元カレさんのこと丸呑みしにいこっか。元カレさんの家教えてもらえる?」

「え?」

メアリがいたずらっ子のような笑い方をした。

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