叡智の座主ソシエル
ニキクが参加し、カンネとともに向かった先がある。ソシエルを訪問したのだ。
ソシエルは、ハヤラでは叡智の座主と呼ばれていた。鳥の頭と人の体の姿、長い杖を持っているソシエルは、ハヤラで屈指の叡智をつかさどる存在である。カンネが誕生し、目の英才について両親に教授し、その能力の向上のために訓練をしたことで、いわばカンネの師匠的存在となっていた。非常に穏やかな口調であり、ハヤラの生物たち――人だけではなく、種々様々な動物、植物を含む。ちなみにハヤラの生物はいわば神話的な体躯をしているものも少なくない。ゆえに、人とコミュニケーションをとることも可能で、それは植物も枠外ではない――からは敬意をもたれている。ソシエルが叡智の座主と呼ばれるのは単にその知識の豊富さだけによるものではなかった。不可知を可知できる存在と言えようか。かといって、神格的存在でなければ、宗教の中心的指導者というわけでもない。ハヤラの人の知らない音声を使用した後、炎を手から放ったり、鉄砲水によって河川に流れてきた巨岩を念動によってどかしたり、降雨が少なく田畑が枯れそうな時に雨を降らせたりと、ハヤラの市民にとっては行政権の首長とは別に敬意の対象であった。ただ年齢が不詳であった。百の年齢を越える長老が幼少のころから容姿は変わらないと言うし、その長老が祖父母から敬うべき教師として教え諭されてきたというから、指で数えられるものではない。
グゼインバルト探索の協力を申し出、カンネの指南役だったソシエルというハヤラ随一の叡智が加わり、『フモン』の文献学的再検証を始めても、その指南をもってしてもグゼインバルトの所在は判然としなかった。